第15話 15

15


製薬会社イベント当日。

俺は早めに安藤さんと共にショッピングモールへと来ていた。

イベントは11時と14時の2回30分で、俺は10時から15時の間に入れば良いとの事だったが、不安だった為9時30分にショッピングモールへと到着した。

流石に少し早すぎたのかイベント会場を覗いたがまだ誰も居なかった。

俺と安藤さんは少し人目のいない所で休憩し、その後俺はトイレで着替えイベント会場を訪れた。


「おはようございます」


俺が製薬会社担当の佐藤さんに声を掛けると、スーツ姿の佐藤さんも笑顔で挨拶をしてくれた。

そして俺は安藤さんを紹介した。


「こちら私のサポートをしてくれている安藤です」


するとカジュアルスーツを着た安藤さんが手作り名刺を佐藤さんに手渡す。


「安藤です。今日はシグナルスキャンのサポートをさせて頂きます。よろしくお願いします」


「佐藤です。今日はよろしくお願いします」


佐藤さんも同様に名刺を出し挨拶が終わった。

この安藤さんが作った名刺の内容はこうだ。


『シグナルスキャンの病気占い

 あなたの体に隠れている病気を占いで発見します


 サポート役

 安藤 ゆうこ


 仕事依頼 yuuko_andou@mail.kawaiiyo.com』


最初安藤さんは携帯電話番号も入れると言っていたが、俺はそれを拒否した。

その携帯は安藤さんの物であって、占い専用ではないからだ。

俺はこれ以上安藤さんに負担を掛けるのは良くないと思いそうした。


「それではバックヤードのスタンバイして頂く部屋へ案内します」


俺と安藤さんは佐藤さんについてバックヤードの6畳程の部屋へと案内された。


中央にはテーブルと椅子が四脚あり、壁際にはメイクが出来るような鏡付きテーブルやドライヤーなどが設置してあった。

俺は指示されるがまま佐藤さんと迎え合わせに椅子に着席したが、安藤さんは椅子には座らずに俺の斜め後ろに立った。

それに佐藤さんは特に何も言う事なく話が始まった。


「それでは最初に以前書いて頂いた今日出演頂く契約書に印鑑を御願いします」


俺は印鑑を取り出し2枚の契約書に印を押し、さらに2枚を合わせ割り印をした。


「はい。結構です。早速今日の予定を説明します」


それから佐藤さんの説明が始まった。

俺と安藤さんは一言も聞きのがさないように話を聞き、最後に佐藤さんから質問はとあったが特にないので、俺達は時間まで待機する事になった。

話の最後に弁当は俺の分しか用意していないと言われたが、安藤さんは問題ありませんと返答していた。


佐藤さんが部屋から出て行った後、俺は契約書を安藤さんに渡すと鞄からバインダーを取り出して丁寧に保管していた。

それから安藤さんは時間がある内に下の食品売り場で昼食を買いに行くとの事で、俺も追加のコーヒーをお願いした。

実は安藤さんには占い用に財布を渡してある。

いちいちお金を渡すのは面倒なのでそう言う形にした。

そして時間になり最初のイベントが始まった。


*


舞台上に薄いジャケットを羽織った20代の若い女性がマイクを持って登壇した。


「みなさん、こんにちは。今日は○○製薬株式会社の新薬発表イベントにお越し頂きありがとうございます。今日は30分程度と短いお時間ですが楽しんで頂けるように頑張って行きます。司会進行は私、清水しみず若菜わかなが勤めさせてただ来ますのでよろしくお願いします」


すると小さいがパチパチと観客から拍手が送られた。

イベント会場はショッピングモール1階にある広場で行われていて現状のお客は30人強だ。


「それではさっそくゲストを紹介していきたいと思います。どうぞ!」


司会が呼ぶと俺と反対側のテントから年齢30歳位の太った男と細い男がカラフルな服を着て登壇した。


「今日は病気がテーマと言う事でお笑いコンビの『七転ななころ六起ろくおき ころんだままやんけ』のお二人をお呼びしました。みなさん拍手でお迎え下さい」


しかし、あまり客は二人を知らないのか拍手はまばらだったが、コンビはそんな事を関係なく挨拶に入った。


「みなさんこんにちは!七転ななころ六起ろくおき ころんだままやんけです。今日はよろしくお願いします。今日は病気がテーマなんで僕達が来たんですが、どうしてかわかります?実は僕(太った方)が少し前に胃がんに掛かりまして、それを一応は克服したので今日来たんです。あっそこのあなた、胃がんなのになんでそんなに太ってるの?と思ってませんか?」


太った方が客を指を指すと直ぐに細い男が突っ込む。


「何お客さんにゆびさしとるねん!迷惑だろ」


彼はそう言いながら太った男の頭を叩く。


「あちゃ~そりゃすんません。それでね、僕細くなると死んじゃうと思って強引に胃を広げたらこうなりましたぁ~」


太った男は両手を広げながらボケるが客はさらに引き拍手はさらにまばらになった。

司会のお姉さんはここぞとばかりに介入する。


「病気を克服なんて素晴らしいですね。七転ななころ六起ろくおきのお二人は自分が病気じゃないかって心配になりませんか?」


司会のお姉さんの質問に細い男が返す。


「あっ先に、僕達の名前は『七転ななころ六起ろくおき ころんだままやんけ』ですのでお間違えなく」


「すみません、失礼しました」


お姉さんはこめかみをピクピクさせながら直ぐに謝罪した。

俺はそれを見ていて、うわ!やっちゃってるよ!と思わず仮面を付けているのも忘れて手で顔を覆ってしまった。


「まあ、誰にでも間違えはありますので問題ありましぇ~~ん。病気は当然!心配だよ~ん」


氷河期が訪れたようなイベントが始まったのだ。

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