第八話~石段からの景色~


我が家にダシィを迎えた結果、急遽開かれることになった部落をあげての大宴会。

まだまだ夜は長く、ウチの庭ではダシィが畑に置いていったあのイワナを塩焼きにしたり、肉屋から買ってきたブロック肉やナガメの野菜を使ったBBQまで始まった。


上総先輩はというとビールや樽酒をガブガブ飲みながら、能力で焼いた肉を客人たちに振る舞う。勿論自分でもガツガツ肉を食らいながら。


俺とナガメはというと缶ビールを片手に、調理するダシィを眺めていた。



「これ、ダシィがつくったシオ。サカナにつけてやくとおいしい」


「おお、これは藻塩もしおじゃないか。大昔から作られてる伝統的な塩だ……よく知ってるなぁダシィちゃん」


「ダシィちゃんはすごいねぇ!

こんなにちっちゃいのに自分で塩まで作って料理もできちゃうんだ」



親父とかっちゃに見守られ、ダシィは黒曜石のナイフを使い、慣れた手つきでイワナを捌いていく。そして上から塩を振ったあと鋭利に研いだ木の棒に突き刺し、それを焚き火でじっくりと焼き始める。



「ダシィ、つくるのだいすき。ドングリのクッキーとか、カイやキノコやおニクいれたスープもつくれる。

ほかにもドキ土器ヤジリつくるのもとくい」


「凄いなぁ、まるで縄文人だ」


「繋が縄文時代の神様じゃないかって言ってたから本当にそうなんだべ。

でも不思議だなぁ、超大昔の神様なのにどうしてそんなに言葉を喋れるんだろうね」



親父とかっちゃが驚くのも無理はない。

本来それくらい旧い存在というのは言語がまるで違うので会話にならない。こんなケースは本当に稀だ。



「ダシィ、アオじいにいまのコトバおしえてもらった。

たまにノーキョー農協サンサイ山菜とかキノコもってって、もらったおカネでホンかっていろいろベンキョーした」



ダシィは懐から小学校の教科書と思われるものを何冊か取り出して見せる。

住処はヨウコウによって荒らされたが、本などの貴重品は別の場所に保管しておいたため無事だったらしい。



「アオじい……ってもしかしてアオシシ様のことかい?あの方は面倒見がいいからなぁ」


「……ダシィちゃん、とんでもない天才だべ。春に目覚めてまだ二ヶ月しか経ってないのに」



そう、ダシィはとてつもない早さで言語を習得し、現代についてを学習している。既に貨幣制度まで理解しているようだ。


この国における“神様”とは全知全能の存在ではない。平たく言えば自然的、超常的現象が肉体を持ったものだ。

それらは永い年月をかけて知識を蓄え知能を得るが、こんな短期間に人間の知識を自ら進んで吸収するなんてことはない。

……ダシィは神様というよりむしろ“人間”に近い。



「ダシィ、じぶんがどういうそんざいなのかしりたい。アオじいはカミさまって言ってたけど、じぶんじゃよくわかんない。

どうしてダシィがカミさまになったのか、ダシィがどうしていまめざめたのか、しりたい」



……己が何者なのか。それは俺にも深く突き刺さる言葉だ。

アオシシ様や他の神様は俺を“土蜘蛛つちぐも”と呼ぶが、実際のところどうなのか。

伝承にある土蜘蛛はとてつもなく大きな蜘蛛の妖怪。だが俺はそんな姿にはなれないし、普通の人間と姿形は相違ない。


実は……俺の父も母も、亡くなった父方・母方の祖父も祖母も含め、俺の一族には妖怪をルーツに持つ者は誰もいないのだ。

人間にも時折妖怪の特徴が現れる者もいるが、そのほとんどが妖怪の2世や3世といった混血の者がほとんど。

限りなく純血の人間の家庭から何故俺のような“怪異”が生まれたのか。


両親にそのことを尋ねることは未だにできていない。ナガメに対しても、俺はこの能力のことを打ち明けられていない。

もし、俺が怪異であると知れたら……両親は気味悪がるだろうか。

ナガメも、俺との接し方を変えるだろうか。


格好をつけているが、俺はやはりそれが怖い。

愛する家族に奇異の目を向けられるとしたら……とても耐えられない。



「け、繋くん……?どうかしましたか、そんなに私の顔を見て……」


「え、ああ……ごめん」



いつの間にかナガメの横顔を凝視していたようだ。

呑みすぎたかな、少し感傷的になっているのかもしれない。



「いえ、もっと見てください!そして私に愛の口づけをしてくれて構いません!

そしてそのまま私を押し倒し……だ、ダシィちゃんに弟か妹を!!」


「あ、イワナの塩焼き出来たみたいだぞナガメ。ほら食べな」  


「繋くぅぅぅん!?

でもそんな塩対応の繋くんも大好きです!塩焼きだけに!

ガツガツッ!!美味しぃぃい!!」



大きな口でイワナの塩焼きを頭から貪り酒を流し込むナガメ。

ナガメの奴、知らぬ間にもう缶ビール10本と日本酒を2升も平らげてやがった。相変わらずどんだけうわばみなんだお前は。


……というか塩焼きがマジで美味い。ダシィは藻塩を使ったと言っていたが、普通の塩とは比較にならないまろやかさと香りがある。

それに引き立てられたイワナはよく焼けていて、皮はパリパリ、ホクホクの白身は引き締まっていて食い応えが抜群。

ああ、ヤバい、こりゃ酒が進む。


「パパ、ママ、おいしい?

ダシィ、“いいコ”?」


「……はい!とても美味しくてびっくりしちゃいました。ダシィちゃんは凄く良い子です!」


「……うん、こんなに美味しい塩焼きは初めてだ。ありがとう、ダシィ」


「ダシシ!パパとママにほめられた。

ダシィうれしい」



ダシィは嬉しそうに頬を緩めながら、俺たちの足に抱き着いてきた。

俺たちはそっとその頭を撫でてやる。



「ほら、ダシィもいっぱい食べな。お肉も野菜もたくさんあるから。

かっちゃの作ってくれたおにぎりやナガメの漬けた漬物もあるぞ」


「うん!ダシィ、いっぱいおいしいのたべる!」



そう言ってダシィはかっちゃや先輩が騒がしくしているところへと混ざっていく。

それを見届けていると、不意に親父が俺とナガメに声をかけてきた。



「本当に可愛いなぁダシィちゃんは。

……なぁ、繋にナガメちゃん、少し離れたところで話をしないか」


「……ああ。いいか?ナガメ」


「ええ」



少し神妙な面持ちの親父に促され、俺たちは人気のない神社の石段まで歩いた。



────────────────────



「お前たちのことだ。動物を飼うような感覚でダシィちゃんを引き取ったわけではないことは重々承知してる。

だけど、今一度確認したい。あの子を引き取るからには、お前たちはあの子の親代わりとしてしっかり責任を果たすつもりなんだな?」



石段の中段まで登ったところで、親父は切り出した。

その表情には一切の緩みはない。



「おじ様、あの……」


「いいよナガメ、俺が話す」



何か言い出そうとするナガメを制止し、俺は正面から親父の顔を見て問いに答える。



「……親父、ダシィは春に目覚めてからこの山でたった一人で暮らしてきた。アオシシ様がいたといっても、最初から一緒だったわけじゃあない。

まだ雪も深く残っていたこの山で、あんな小さい子が……一人で食料を調達して、家を作って……一人で寒い夜を過ごしていた。

あの子はとても賢い神様だ。本来なら人とは相容れない存在だということは俺も理解してる。

でも、あの子はまだ大人の助けが必要な幼い子どもなんだ。だからこそ、アオシシ様もあの子の面倒を見てくれた。

子どものはずなのに……あの子は、出会ってから今までずっと俺たちに気を遣っている。

一度たりとも、俺たち大人を頼らなかった……それが、たまらなく悔しかったんだ」



ヨウコウと対峙した時も、あの子は自らアオシシ様を守るために戦おうとした。

住処を荒らされた後も、一度も自分から助けを求めなかった。

ウチの子にならないかと尋ねた時も、自分は人間ではないから、迷惑がかかるからと断った。


ウチに引き取られることになった後も、さっきのBBQでさえ、あの子は俺たちにご馳走を振る舞う“良い子”であろうと頑張っていた。


必死に、手間がかからない、迷惑をかけない“良い子”になろうとした。

俺たちに気に入られようと、必死で顔色を伺って……。



「出会ったばかりの俺たちにすぐには心を開けないのは当たり前だけど……あんな小さな子が必死に大人たちの顔色を伺って生きていこうとなんてして欲しくない。どこまでもワガママを言って、迷惑をかけて欲しい。大人に甘えて、助けを求めて欲しいんだ。

勝手に引き取っておいて何様だってのは重々承知だ。

でも、どうかあの子が“普通の子ども”に戻れるまで、俺とナガメで親代わりとして一緒に過ごさせて欲しい」


「おじ様、私からもお願いいたします。

ダシィちゃんはとても聡い、言動も大人に見えるしっかりした子です。

でも、きっと信頼できる、甘えられる誰かを探してるんです。私たちはそれになってあげたい。私たちが、守ってあげたい。

もう……あの子に危険な目に遭って欲しくないんです」



俺とナガメは揃って親父に頭を下げる。

いつの間にか俺たちの頬からは光るものが流れ落ち、石段を濡らしていた。


親父は頷きながら、俺たちの肩を抱き締めた。



「……ああ、それを聞けて安心した。

俺や母さんの育て方は決して間違っていなかったんだと今思うよ。

お前たちは……良い大人になったんだね」



親父に褒められるなんていつぶりだろう。年甲斐もなく俺は泣いてしまった。

まったく、この人は普段はおちゃらけているくせに、どうしてこういう時に限って格好いいんだろう。


それが、“親”ってものなんだろうか。



「二人とも、ダシィちゃんの親になる覚悟はあるということでいいんだな」


「ああ!」


「はい!」


「それじゃあ繋とナガメちゃんは結婚するってことでOKね?」


「はい!!」


「ああ!…………ん?」



……あれ、今なんかおかしくなかったか。

何かの聞き間違いか?



「よし、ボイスレコーダーで言質取ったわ。

良かったなナガメちゃん、遂に繋のやつが腹を決めたぞ!

今まで煮え切らない関係にさせてしまって本当に申し訳なかった!」


「いえいえ!

ナイスアシスト感謝ですおじ様!」


「おい!?

どういうことだよ親父!」


「うるせぇ、親代わりってことはもう結婚確定なんじゃい!

お前ももう22歳で地に足の着いた立派な公務員!何を尻込みすることがある!!

金の心配ならいらん、結納金なら全額出してやる!!」


「だそうですよ繋くん!私はいつでも準備万端です!

何なら今すぐ夫婦の契りを……!!」


「だぁぁぁ!!

せっかく良い話でまとまろうとしてたのに!俺もう帰る!」



マチナサーイ!ソンナノユルサナイワ!


二人の喚き声が響く中、俺は石段を駆け降りていく。

石段から見える部落の景色は、東京の夜景なんかの比にならないちんけな物だったが……何故だか俺の目には一際眩しく見えたのだった。



────────────────────



……予想外の獲物が釣れた。

わざわざこんなド田舎の山まで来た甲斐があったというものだ。気色悪い“異形ヨウコウ”も始末できて一石二鳥だしな。


まさか、まさか絶滅したはずの“土蜘蛛”が見つかるなんて。

あいつを捕まえられたら俺は京都の総本部で何かしらの役職を任せられるほどに出世できるだろう。



「へへへ、上総の女狐め……お前のせいで福井に飛ばされて、そこでしこたまイビられて対策局を辞めちまったが……これで総本部局員として復帰した暁には必ずお前に復讐してやるぜぇ……!

手始めにお前を俺の奴隷にしてやる!」



俺は東京都怪異対策局鎮圧一課に所属していた超エリートだった。

だが、あの上総煬のせいですべてが滅茶苦茶になった。噂話を流した程度であっさり島流し……ふざけるな。


福井に飛ばされた俺は辞める直前、とある“異形”を持ち帰った。そう、上総煬にけしかけて嫌がらせをするためだ。


奴がこの辺境にいると聞き、俺は潜伏しながら今か今かとチャンスを窺っていた。そんなある時、電話に非通知の着信があった。

その電話の内容は“ある山に異形ヨウコウを解き放って欲しい”という旨のものだった。

何故俺が異形を手元に置いていることを把握していたのか疑問だったが、そんなことはすぐに忘れた。

それもそのはず、報酬はなんと1000万。しかも先払いで俺の口座に振り込まれていた。


こんな上手い話があるわけがないと最初は訝しんでいたが、どうやら電話の相手は“怪異対策局京都総本部”の者らしかった。


これは余程の案件なのだと踏んだ俺は約束通りこの山に“異形”を解き放った。

しかし、異形は土着の神に傷を負わせたが、どこからか嗅ぎ付けてきたあの憎き上総煬に連れられた土蜘蛛野郎が異形をあっさりぶっ倒しちまった。


土蜘蛛野郎に殺された異形は機動鎮圧課に持って行かれてしまったが、まあ俺へと繋がる証拠は“京都”が揉み消してくれるだろう。


そして先ほど、新たな着信があった。

内容は“土蜘蛛の確保。尚、生死不問”。報酬は1億、そして京都総本部局員として復帰させるといったもの。


遂に俺にも転機が巡ってきた。

土蜘蛛野郎の居場所は把握してる。後は隙を突いて奴を捕まえるなり殺すなりすれば俺の勝ちだ。


俺は神社の石段から奴の居る家を見下ろす。

ちょうど良い、工事現場からパクってきたこのダイナマイトであの家ごと爆破しちまおう。

生死不問だからな。

それに土蜘蛛以外に巻き込まれて死んだ奴が出たとしてもどうせ京都が警察に働き掛けて握り潰してくれる。



「悪いが俺の野望のために死んでくれや、若いの」



俺はダイナマイトを数十本束ねたものに火を付け、土蜘蛛の居る家を目掛け投擲しようと腕を振りかざした。


───だが、その腕は振り下ろされることはなかった。



「……あ?」



おかしい。

腕が軽くなった。


いや、軽くなったというより……え……?



「あ、あががががぁあぁぁぁッッ!!?」



俺の右腕は、肘から先が“何か”に喰い千切られたように無くなり、赤い鮮血が噴水のように噴き出していた。



「腕がぁぁぁあッッ!!俺の腕がぁぁぁッッ!!」


「喧シイデスネ……家ノ皆ニ聞コエルデショウガ」


「ひっ!?」



神社の奥の森から何かとてつもない大きな影が俺の方まで伸びていた。


直径3メートルはあろうかという胴回り、そして全長30メートルかそれ以上と思われるその圧倒的に長い体。

そして血走った金色の瞳とぱっくりと大きく開かれた真っ赤な口。そしてその口から発せられる地響きのような恐ろしい声。



「う、嘘だろ……!な、なんで……お前はもう絶滅したはずの……!!」


「……アナタデスネ、ワタシノ山ニ異形ヲ放ッタノハ。

アオシシ様ニ傷ヲ負ワセ……私ノ大切ナ人タチヲ傷ツケヨウトシタバカリカ、今コノ爆発物デ殺ソウトシマシタネ?」



腹に響く野太い声に似合わず流暢な言葉遣いをする怪物。

それが逆に恐怖を拡大させていく。



「ち、違うんだ!俺は命令されただけで……ッ!

俺は何も悪くないッッ」


「残念デスガアナタゴトキ塵芥デハ彼ハ殺セマセンヨ。アナタガ爆発物ヲ投ゲタ瞬間、アナタハ彼ニ細切レニサレテイタハズナノデ。

……マア、ドノ道アナタハ彼ニ殺サレルカ私ニ殺サレルカノ選択肢シカナイノデス」



ジリジリと迫ってくる血の滴る真っ赤な大口を前に、俺は一歩たりとも動けない。

“蛇に睨まれた蛙”とは正に俺のことか。



「ゆ、ゆるひてくだひゃっ───」


「死ンデ詫ビテイタダクノデオ構イナク」



バグンッッ!!


───俺の人生は一口で終了した。

最期に見た石段からの景色は……無数の牙と、それに挟まった俺の腕だったものの残骸だった。



────────────────────



宴会が終わり、上総先輩をタクシーで家まで送った後、俺とダシィは一緒に風呂に入った。

用意した子ども部屋にダシィを案内し布団をかけてあげた後、俺は部屋で本を読みながら眠気が来るのを待っていた。

すると突然部屋のドアがノックされ、見覚えのある小さなシルエットが姿を現す。



「パパ~……いっしょにねていい?」


「ん?ダシィ、一人で寝るの怖いのか」


「うん、ヤマのほうからコワイこえきこえた」


「そうか?確かに変な声が聞こえた気がしたが……多分動物の鳴き声だろ」


「……そうかなぁ」



ふふ、やはり子どもなんだな。

強がっていてもやはりあの暗い森でのことが忘れられず人肌が恋しいのだろう。



「お二人とも遅くなりました!少々長風呂してしまいまして……」


「な、ナガメ!?何故俺の部屋に……」


「何故って、今日から私たちはダシィちゃんの親なのですから一緒に寝るのは当然でしょう!」



更に突然、部屋のドアを開けて現れたのはナイトドレスに身を包んだナガメだった。

風呂上がりなのか少しほでった頬や谷間が目立ってもう艶かしいったらありゃしない……なんちゅう格好で入ってきとるんじゃお前は!



「わぁい!パパとママといっしょにおねんね!

……ヤマからコワイのきてもパパとママ、ダシィのことまもってくれる?」



ダシィはというと目を潤ませて情に訴えかけてくるし……断るに断りきれん。



「わかったわかった!今夜は一緒に寝てダシィのこと守ってあげるよ」


「はい、私もダシィちゃんのことお守りします!」


「わぁい!パパとママとおふとんいっしょ!

フカフカ……あったきゃい……スゥスゥ」



ダシィは俺の布団にくるまるとあっという間に寝息をたてて夢の世界に旅立ってしまった。

ナガメも俺の布団へと入り、眠ってしまったダシィの頭を優しく撫でる。



「……今日一日で色んなことがありすぎて疲れたんだろうな。もう寝ちゃったよ」


「ふふ、可愛いですね。

……繋くんも大変でしたね、ゆっくり休んでください」


「……ナガメもな。今日はありがとう」



俺はナガメの前髪から後れ髪を撫で下ろし、そのまま頬に手を当て、下唇に親指で触れた。

見つめ合っているのに、いつものような気恥ずかしさなど微塵も感じない。それはきっと俺だけでなく、ナガメもそうなんだろう。



「……ふふ、くすぐったいですよ、繋くん」


「……そっちこそ」



いつの間にかナガメも俺の頭へ手を回し、徐々に俺を自分の顔へと近づけていく。

吐息がかかる距離まで来ると、途端にお互いの鼻が触れ合った。



「……繋くん」


「……ナガメ」



まだ酒が抜け切ってなかったかな。

ちょっとまずい。

……このままだと本当にシてしまいそうだ。

今の今まで散々ナガメのことを拒絶しておいてこのザマか。俺も結局は……ただの男というわけか。



「繋くん、いいんですよ。私、抵抗なんかしませんから」


「……ッ」



ナガメがナイトドレスを肩から下ろし始める。少し汗が滲んだ肌が露出し、俺の本能を容赦なく刺激していく。



「ナガメ……綺麗だ」


「繋くんっ」



我慢できなくなったナガメが俺の唇を奪う。

ああ、俺もとっくに我慢の限界だったんだ。

理性から解放された俺も負けじとナガメの唇を貪る。まるで獣になったように、俺たちは互いの甘い蜜を貪り合った。



「ハァ……ハァ……愛してる、ナガメ」


「……はい、私もです。繋くん」


「……いいんだな?ナガメ」


「ずっと前から言っているじゃないですか。私はあなたの奥さんになるのが夢だって……♡」


「……好きだ、ナガメ」


「愛してます、繋くん……」



ずっと抑え込んできた俺たちの獣のタガが外れていく。

お互いに衣服を脱がし合い、肌と肌が擦れ合う。吐息と唾液は混ざり合い、俺たちが一つの存在に溶けていく感覚を味わった。

俺たちの夜は……始まったばかりだ。

























「ダシィもパパとママのことあいしてるぅ♡」



「「……ファッ!!!?!?!!?」」



「パパとママちゅっちゅ~♡

じーたんとかーしゃんにおしえてこよ~」


「「や、やめてぇぇぇええええ!!!!」」



いつの間にか起きていたダシィによって一気に現実へと引き戻された。

子どもと同じ部屋にいる時に理性を失ってはいけない。俺たちは固く誓ったのだった……。





────────────────────



このあとかっちゃに説教される繋とナガメなのだった。

(親父は終始ニタニタほくそ笑んでいた)

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