第四話~野菜泥棒?~
「おうおう、好き勝手言ってくれるじゃないかクソ女が。お前八塚の何なんだ?
あれか、ストーカーか何かか?」
「下品な女に答える義理はありません!」
「二人とも落ち着いてくれ!?」
突如として職場に現れた俺の幼馴染、
それにしても何故この場所にナガメが。
彼女は普段、神社の管理や畑の世話などで忙しいため、特別な用事でもなければ町に下りてくることは滅多にない。
「何なんですか貴女は!!
この
「んだとこのデブ!さっきからこいつのこと名前で呼びやがって!!テメェこそ何者だ!」
「失礼な、着太りしやすいだけです!
私は繋くんの
ドンッと胸を張ったナガメはとんでもないことを言い放った。
おいぃぃぃ!?
そこは“家族”とかだろ!厳密には同じ意味だけど!
「……は?八塚お前、
まさかそんな、あり得ない、いやでも田舎はそういうの多いから……」
「違います!ナガメとは家族同然に育った幼馴染で───」
「繋くんとは“
それに、お……お風呂にだって一緒に入ったこともあるんですから!」
それは昔の話でしょぉぉぉ!?
確かに一緒の家に住んでるけど風呂まで一緒には入ってないよ小学生以降は!
「……んだよ、完っ全にフリーだと思ってたのによ……八塚の野郎、純朴そうなツラしてヤることヤってんだな……危うく弄ばれるとこだったぜ屑がッ」
頼むから勝手に俺に対する印象と評価を悪くしないでぇぇぇ。
マジで誤解ですからぁぁぁ!
「繋くん、この女は一体何なんですか!ま、まさか……彼女とかそういう……。
ということは、う、うううう浮気!?
死刑!死刑です!!」
「二人ともいい加減黙って俺の話聞いくれるかな!?」
このまま事態が平行線のままだと辺りが血の海になること間違いなしだ。
結局二人を落ち着かせるのに数十分を要したのだった。
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「……まさか繋くんの上司の方とは知らず、大変失礼なことを……本当に申し訳ございません」
「あぁ、まあ私の方もストーカーとかデブとか言って悪かったな」
庁舎の応接室でようやく和解した二人。
時刻は15時を回った所。
鎮圧課のほとんどは午後のパトロールに当たっており、庁舎の中にいるのは俺たちを除けば広報課や情報課のスタッフくらいだ。
「……取り敢えず八塚はフリーか、ふーん」
「何か言いました先輩?
ってかそれよりナガメ、対策局まで来るなんて一体何があったんだ」
「実は今朝……」
先ほどまでとは打って変わり、少し不安そうな表情を浮かべたナガメは静かに語りだした。
時刻は今朝の8時頃のことだという。
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「……あら?」
私は日課である神社の境内と石段の掃き掃除を終え、繋くんの家の敷地にある畑の世話へ取り掛かろうとしたところ、すぐに違和感に気付いた。
畑を囲う農業用ネットの一部が下から捲られ、何者かが入った形跡があったのだ。
動物にやられたかと覚悟して畑の中を確認したが、意外にも荒らされた様子はなく、目立った被害といえばそろそろ収穫が見込まれていたトマトやキュウリといった野菜がいくつかなくなっていた程度だった。
しかし、不気味なのはその獲られ方。
それらの野菜は鋭利な刃物でヘタから綺麗に切り取られていて、間違いなく人為的に獲られていることが判明した。
しかも更に不気味だったのは。
「何でしょうこの
侵入口とみられる農業用ネットのすぐ傍には見慣れない大きな甕のような容器が置かれ、木で拵えた蓋がされていた。
恐る恐るその蓋を開けてみると……。
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「大きなイワナが何匹も泳いでいたと」
「はい、あれくらいの大きさのイワナだとかなり山奥の清流から獲ったものだと思うんです」
「……確かに不気味だな。間違いなく
動物の仕業であれば間違いなく畑はめちゃくちゃに荒らされ、熟していない物まで関係なく貪られてしまっていたはず。
しかしその犯人はそうはせず、熟した野菜を見分け綺麗に切り取ったうえお詫びとばかりに立派なイワナを置いていったことになる。
「いや、そこらの人間が犯人じゃねえのか?普通に警察に相談した方がいいんじゃね?」
上総先輩はダルそうに肩を竦める。
確かに普通であればその線が濃いのだが、問題なのは場所がナガメの畑だということだ。
「ナガメの畑は完全に俺の家の敷地内にあるんです。わざわざ他人の家の目の前にある畑で盗みを働いたうえイワナまで置いて帰るなんてリスクが高すぎます」
「うーん、確かに。私が野菜泥棒だったらもっと民家から離れた畑を狙うわな。
つかイワナ持ってんならもう物々交換してもらって……ああ、なるほど」
「先輩のお察しの通りかと。
推測ですが、犯人は野菜を盗むつもりはなく、交渉して分けて貰おうとしていたんじゃないでしょうか。
しかし何らかの理由でその時間がなく、やむを得ず野菜をいくつか獲ってお詫びとしてイワナを全て置いていった」
敢えて正体へ繋がる証拠となり得る甕という痕跡を残していったのにはどこか純粋さや潔さ、清廉さといったものを感じる。つまり、これは悪意を持った妖怪や
真偽はともかく、明らかに文明的な相手だということは間違いない。
そこから導き出される答え。
場合によってはどんな妖怪や都市伝説より対処が難しく、自分勝手で人間の道理が通じない相手だが、対価に応じて福も厄も成す、とても純粋で礼節を重んじる存在。
「犯人は神様の可能性が高い。それも知性が高く、それでいて人間と交渉しようとするまでに腰が低い。
正直怖いですね。そこらの
「同意見だ。名も知られてねえ神なら人間の都合なんて関係なく畑丸ごと
だが今回のホシは少しの野菜の対価としては不釣り合いなでけえイワナを返してきた。それが逆に怖え。
こいつはちっとばかしヤバい相手を覚悟しなきゃならないかもな」
俺と先輩は互いに冷たい汗を浮かべた顔を見合せる。
本来、神というのは対価を求めるものである。ご利益にせよ呪いにせよ、だ。
あくまで自分が不利益になるようなことはしない。そこがどこか人間臭い。
だが、
例えるなら前者が金額通りの品物を売る商店やスーパーマーケットだとすれば、後者は価値など関係なく対価として金の延べ棒を配って回るマハラジャのような存在。
大昔、メッカへの巡礼の際に大量の金をばら蒔いてエジプトの金相場を暴落させたマンサ・ムーサのように、本人が善意のつもりでも様々な弊害が引き起こされる。
大きな力を持つ者ほど、己の持つ力の大きさには無頓着なものなのだ。
「取り敢えず、俺と先輩はこれから畑に向かう。ナガメはどうする?ここで待ってるか」
「いえ、私も一緒に戻ります。
……というか二人きりになんてさせられません。まだ浮気じゃないと決まってませんし」
ナガメが何やらブツブツと小さな声で呟いていたが、きっとろくでもないことだろうと聞かなかったふりをした。
「え、何か言ったか」
「な、何も言ってません!
お二人ともあと少しすれば終業時刻でしょうから、早く向かいましょう」
ナガメに促され俺と先輩は対策局の駐車場へと急ぐ。
あ、そういや先輩はアルコール入ってるから運転できるの俺だけじゃん。ナガメは免許ないし。
「こういうことになるから酒はNGって言ったんですよ先輩~」
「うっわイヤミったらしいな!そういう愚痴はカッコ悪いぞ八塚くん!さあ乗った乗った」
「そんな……お酒まで一緒に……?
繋くん、やっぱりこの下品な女は死刑ですね」
「ああん?
テメェ、やっぱ一戦交えた方がよさそうだな!時代遅れババアファッション女!」
「なんですって!?
上等ですよ!いい年してケモミミと尻尾つけてる痛い女!」
「殺す!!」
「ああもう二人とも喧嘩しないで狭いんだから!」
日暮れが迫りつつある頃、一台の軽ワゴン車が町中をかまびすしく走り抜けていった。
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・性別……女
・年齢……22歳
・身長……168cm
・体重……秘密です
・3サイズ……B98、W62、H91
・仕事……
・出身……青森県下北郡桜幡町
・能力……【検閲済み】
・好物……酒、卵、卵料理、肉、肉料理
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