宝石が本物ならすべて買い取ります
ナターシャは他の商品も手に取って見つめた。
サファイアもダイアもどれも大きくきらきらと輝いているように見える。しかし、すべて透明度が高く、色も鮮やか。輝きがわざとらしい。
アルベルト邸には商人が直接商品を持ち込んでくる。目の前の装飾品はどれも値段は本物と同等かそれ以上の金額だった。
これ、色ガラスじゃないかしら?
試しに宝石を固い場所へ投げつけようとしたら、店主がすごい形相でナターシャの手から商品を奪い取った。
「おまえさん今、うちの商品を壊そうとしたね? それとも盗もうとしたのか?」
「盗む? これにそんな価値があるようには思わないけれど?」
「うちの商品にケチをつけるつもりか? だったら衛兵を呼ばせてもらおうか。それか、弁償だな。すべて買い取ってくれ」
「何ですって? 私まだ何もしてないけれど? 本物なら投げても割れないし、問題ないと思うわ」
「それでも、傷がつくような……」
イーサンの言葉にナターシャは「本物で傷ができてしまったなら、買い取ります」と答えた。
「故意に壊そうとする時点で営業妨害だ!」
「まあまあ、店主、落ち着いて」
イーサンが間に入って店主の男性を宥めようとした。
「辺境伯子息! あなたの連れはおかしい。こんな騒ぎを起してくれてどうしてくれるんだ? 信用問題だ!」
「弁償ならしますよ。この宝石がすべて本物だったらだが。鑑定士を呼ぼう」
イーサンの言葉に店主は顔を青ざめさせた。
「こんなところで、鑑定士なんて止めてくれ。偽物と疑われた時点でこっちは迷惑だと言っているんだ」
「鑑定士を呼んで身の潔白を証明した方が信用されると思うが?」
店主はそれでもごにょごにょと鑑定されるのを拒んだ。イーサンが彼にずいっと顔を寄せた。
「彼女は私の大事な客人だ。店主、もし万が一彼女に偽物を売ろうとしたのなら、良い度胸だと認めよう。この市場では正規のルート以外の商品は販売を禁止している。偽物だろうが本物だろうか一度調べさせて貰う。店主、いいな?」
「それは、ちょっと待ってください。ご子息!」
店主の顔からはすっかりえびすが消えた。滝のように汗を流してイーサンに頭を下げている。
「ナターシャ嬢すまない。少しだけ待ってもらってもよろしいですか?」
ナターシャは頷いた。
言い逃れをする店主を辺境伯が根気よく相手している。騒ぎに気づいて人が集まってきた。ナターシャは少し離れて見守ることにした。
「偽物を売りつけようとするなんて、許せないわ」
ナターシャは胸の前で腕を組み、頬を膨らませ怒った。
「身分を偽るのは許されるのですか?」
低い声が背後から聞こえた。驚いて声を上げる間もなくナターシャは、目と口元を大きな手で塞がれてしまった。
*・*・*・*・*
【お知らせ】
碧空宇未です。いつもお読みいただきありがとうございます。
ナターシャ、短くてすみません。
新作(短編)を執筆しておりました。
悪役令嬢ものですが、バッドエンドの婚約破棄を回避するのではなく、破棄されてからスタートです。
しかも猫と旅に出ます。
ナターシャもそうですが、どうやら作者の私は旅に出たいようです。笑
ナターシャの旅はもうすぐ終わりますが、新作共々引き続き良かったら宜しくお願いします。
今日は2023年4月29日(にくきゅうの日!)
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