〈第4話〉スキル『不死』

 ——深い深い谷底にある、大きな城。


 『さて、もうそろそろ..........行ってもらおうか..........』


 ——誰かが 何かに、命令を出した。











 「「グラススラッシュ!」」


 死ぬわね、私。

 喧嘩 売ったのが悪かったかしら。

 そうよね。話し合いで解決できたかもしれないわ。

 もう遅いけど。


 名前 的に、斬られるのかしら。

 即効で死ぬ。


 まぁ、それなら簡単に戻れて好都合。



 あの憎たらしい金髪女を抹殺するためなら、こっちは死んだっていいのよ!




 さっさと殺して..........くださって——?








 ——NO











 さて、死ねたかしらね。

 これであの金髪女のところに..........。






 「ふ、死んだわね。..........って あれ?」


 「え?」


 ..........生きてる?

 でも..........確かに、さっき..........。


 「あ、あなた何で生きてるの!?確かに今.....今 私のグラススラッシュで、真っ二つに.....したはずよ!どうなってるのかしら!?」


 確か、速攻で切り刻まれて.....。




 —―ファーストランク スキル[不死]発動




 「.....?」




 —―肉体の蘇生完了




 「誰......?」




 —―テキスト終了





 「ちょ、ちょっと!待ちなさいよ!」


 何よ、今の声!?

 ファーストランク.....!?不死.....!?


 「ちょっと??何言ってるの?とにかく、今度こそ仕留めるわよ!でっかい蛾!」


 くっ..........この無礼者..........金髪女より あなたを先に、殺してしまおうかし

らね.....?


 「食らいなさい!!もう一度!グラススラッシュ!!」


 とはいっても、何をすればいいか、よく分からないわ......。



 でも、分かることは..........


 この姿では、視力、耐久力が衰えている。

 しかし、人間のときよりも、圧倒的に 聴力が優れている——!

 それと、気配 的なものも、感じ取れるわ! 



 気配を..........察知するのよ——!


 羽を.....動かして..........!



 あぁ、’’成虫’’だったのが不幸中の幸い。


 全く、何でこんなこと してるんでしょうね......私。



 「避けた!!?」


 視界がなくても、案外動けるものね。

 さて、ここからどうすればいいかしらね?


 スキルが何やら、私には分からないけど.....。

 逃げるわけにはいかない、けど.....。

 どうすれば..........いいのかしらね。


 「ふ、ふん!避けたから何よ!避けてばっかじゃ 勝てないわよ!!」




 その時、


 「「そこ!邪魔よ!!どきなさーい!!」」


 突然 うるさくて 妙に甲高かんだかい声が聞こえてきた。


 「あ!?誰よ!!てかどこよ!!」


 無礼者もうるさいけど 何かしら、変な声だわ。


 耳につく声ね.....というか、迫って来てるわよ.....?



 「「ホントに!どかないと死ぬわよー!!」」


 「あぁ!?うっさいわねぇぇぇぇぇえええ!!私は森の大・大・大妖精『スプライト』に命令するんじゃないわよぉぉぉぉぉぉぉぉおおおお!!」


 ああ、張り合ってるわ。

 思った以上に幼稚なのね。この、妖精? 的な存在は.....。



 「「へぇぇぇぇぇぇぇぇええええ?スプライトォォォォ?知らないわねぇぇぇぇぇぇぇえええ?」」


 ああ、あっちも さらに大きくなって———―いや、近づいてきているから?




 「し、知らないですって!!?あんた、この森を守る 大いなる妖精 スプライトを知らないで......」


 「「あぁぁぁぁぁぁぁぁああああ!!もうぶつかるぅぅぅぅぅぅぅぅううう!!!」」


 あぁ もう うるさい!

 鼓膜 破れるわよ!

 


 「どこよぉぉぉぉぉぉぉぉおおお!!いないじゃなぁぁぁぁぁぁああい!!」


 もう限界だわ!

 うるさくて仕方がない!

 スプライトが 何だか知らないけど、ここにいたら 死の先に行ってしまいそう......!


 「「もう10km!圏内だぁぁぁぁぁぁああああ!!!」」


 もう どうでもいいわ。

 さっさと逃げましょう



 「それでは この高貴なお嬢様は一足先に立ち去るとしま












 —―ファーストランク スキル[不死]発動








—―肉体の蘇生完了








 —―テキスト終了










 「....................」


 ..........。


 ..........。


 ..........。


 「ほーら~、だーーから言ったのに~!」


 ..........。


 ..........。


 「ほら、やっぱり死んじゃった」


 ..........。


 ..........。


 「かぁわいそーに、私の’’通り道’’に立っていたばかりにねぇ..........」




 ..........なるほどね..........。



 「でも私もわざとじゃないのよ~?たまたまだってば~」



 ..........やはり.....死ねないと..........。



 「特にあのスプライトとかいう下級妖精さん、ほんっとかわいそ~」



 ..........これは、死を超越している、と言えるのかしら..........?



 「あー、ご愁傷様です。ついでにそこら辺にいた蛾も.....」



 ..........全く、視界がハッキリしないのが一番の困り物ね.....。



 「私、最強過ぎたんですね~。いくら魔王様への特注品とはいえ、さすがに高性能過ぎたといいますか~~?」


 ..........ほんっと、妙に耳につく声.....。


 「まぁ 独り言もこれくらいにしときましょうね~、ほんっと、私最強~、あいつら、かわいそ~~~..........」


 誰かが立ち去る音..........気配が離れていく。

 『当て逃げ』といったとこかしら?



 さて.....と..........


 「誰が、かわいそうなのかしら?」


 「..........っ!?」


 さすがにこのまま逃げる訳にも、いかないわ。




 「全く、勝手に 爆風で死んだと思わないでほしいわね」


 相手は、少したじろいだ様子だけど、


 「生きてたのね。下級の魔物の癖に.....」


 ただ者ではない


 それだけは分かった。



 とんでもない殺気を感じる。

 彼女も......もちろん’’人間ではない’’だろうけど..........。

 あのバラや.....さっきの妖精とは、訳が違う..........!


 そう、あの金髪女と.....同党の圧..........










 ——白い壁、神聖な空気で神殿のようなところの、外。

 ——たくさんの色とりどりの花で花畑のような。

 ——日の差し込んだ庭。

 ——優雅な金髪の女性が一人、椅子に座っている。




 「.....はぁ..........やっと出かけて行ったわね..........」


 ——先ほどまで、’’主人’’がいた模様。


 「..........あの威圧感には、慣れないわねぇ..........」


 ——女性は紅茶をすすると、ふと思い出す。


 「あ、そういえば あの子、どうなったかしら..........」


 ——机にカップを置くと、立ち上がり 中へ戻る。




 「あの子..........ちょっと変わってたわね」


 ——いつもの椅子に座り、向かい合いの 空いた椅子を見つめる。




 「結局..........ただプレゼントしただけで返しちゃったけど..........」


 ——女性はため息をついたが、その瞬間、重大なことに気が付いた。


 「ん??あの時、確かもとの世界に返したわよね.....??」


 ——どうやら女性自身も、よく覚えていない模様。




 『『——ちなみに嘘です!やっぱ行ってください!異世界—―!!』』




 「あ。そういえば......」


 ——あまりに慌ててたのか、『出来事の記憶はあるが 意識の記憶はない』状態である。


 「..........いくら慌ててたとはいえ、そのまま送っちゃうなんて...........私、ホント無能☆」



 ——本来、『こういうの』はテンプレでは最初に『スキル』を与えてから異世界に送るもの、なのだが すっかり忘れていたらしい、この神様。


 ——というか、それどころではなかったと言うべきか。


 「とりあえず、様子を確認しなくちゃね」




 ——女性は立ち上がると、奥の部屋に行き こっそり水晶を持ち出した。


 「本当は ’’あの人’’の物だけど..........ちょっとくらい いいわよね.....?」




 ——女性は戻ると、再び椅子に座り 水晶を覗いた。


 「さて、と...........。では今頃 何しているのか..........知らない所 来て、泣いてたりしてね.....................................え?」


 ——女性は目をこすって見直す。

 が、何度見ても同じ光景が映る。



 ——それは、白い大きな蛾が 赤い鎧を着た者に 何度も踏みつぶされている光景であった。
















 —―ファーストランク スキル[不死]発動

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

転生’’蛾’’嬢様と魔王特注戦車 イズラ @izura

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ