〈第3話〉わーい、ばーん!

 —―奇怪な生物が蔓延はびこる薄暗い 奇妙な森の中。




 「クフフフフ.....こりゃぁ美味うまい血だナァ..........」


 —―黒いマントを羽織った男が、’’何かの死体’’から血をすすっていた。

   赤い瞳に映るのは、無惨な光景そのもの。


 「クフ..........妖精にしては質が高い...............あぁ.....力がみなぎってくる........!」


 ――やがて死体は’’残骸’’となり、男は満足げに立ち上がった。


 「クフフフフ..........やはり遠出して正解だったようだナァ..........クフ.....」


 —―男はマントをひるがえしてその場から立ち去ろうとした。


 「グフフフフ..........さて、帰るとしようか、ナァ.....」




 —―その時。


 「.....何してるの?」


 —―辺りに誰かの声が響いた。


 「.....ッ。..........誰だ?」


 —―男は辺りを見回すが、何かがいる様子はない。


 「気配..........。.....近くにいるのか..........?」


 「..........。全く、よそ者さんが荒らさないでほしいの。私の森よ?」


 —―何かは威圧するように風を起こした。



 ——すると男は笑い出した。


 「..........グフ...............グフフフフフフ..........グハハハハハハハ!!」


 「何がおかしいの?..........立ち去る気はないのね?それなら.....」


 「グハハハハハ!!もりのぉお、森の妖精さんねぇ!!」


 —―男は狂ったように笑いこけ、指を鳴らした。

   すると辺りがさらに薄暗くなり、男の足元の地面に半径5mほどの魔法陣が浮き上がった。


 「なに?これ.....」


 「グ、グゲ........グエグゲグハハハハハハァァ!! 見ろ!これからこの森、いや!『グラスィレッド』全土 を支配してやるのだァァァァ!!」


 「なに.....何なの!?ちょっと!えぇええ!?」


 —―男は勝ち誇ったように叫び、辺りは大きく揺れる。


 「グギエグガッハハハハハ!!いでよ!『エデン・ワイバーン』!!」


 —―叫んだ直後 魔法陣の輝きが増し、黒いオーラに包まれた邪悪な竜が




 「え?」


 「グヘへへ..........ヘ?」


 「..........なに?何て言ったっけ?わーい、ばーん?.....これが?」


 「................へぁ??..........いや...........その.......え?..........何だこれ?」


 —―男は唖然。なぜなら——











 「.....痛いわね..........、何よ あの神。もっと丁寧ていねいに送ってほしい物だわ......」


 全く、本当に神?

 まぁいいわよ、別に。

 いいわよいいわよ?蝶さえ貰えれば.....


 私が愚痴を言っていると、誰かがが喋る声が聞こえた。


 「『なに?何て言ったっけ?わーい、ばーん?.....これが?』」


 あら、何かしら?頭上から声が....................。


 地面を這って、動いてみた。



 というか、ちょっと待ちなさいよ。

 何で私が地面をってるの?


 何より、前がよく見えない。

 手の感覚が、おかしい..........足も..........顔も?


 あら?顔?顔も?何?あらららら??体中かしら?全身?


 なぜかしら、頭が混乱するわ。

 手足が....................まるで棒切れのよう..........。




 「グヘグガァ??...............何だこれ..........魔物、か?」


 「「ふえ!!?」」


 大きなな気配!!?





 .....ここは、本当に.....私の屋敷かしら?

 視界がぼやけて..........。


 「あら?やっぱり、ただの’’ちょーちょ’’じゃない?何がわーい、ばーんなの?」


 誰かが..........2人、人がいるようね.....。

 私.....『わーい、ばーん』なんて、そんな鉄砲みたいな名前じゃないわよ?

 それに魔物ですって?私は高貴なおじょうさ..........


 「ち、違う!これは私のしもべのエデン・ワイバーンではない!

  これは.......知らん!ただの 蛾だ!!」


 「「「蛾ァァァァァァァ!!!!」」」




 「な、何だ!?」


 「なによ!?だ、だれ!?」


 ——二人は突然の悲鳴にたじろいだ。







 蛾、蛾!蛾って!?

 あら?私、蛾だったかしら?


 いや、蛾ではないわよ?私。

 お嬢様よ?


 落ち着きなさい、エイヴァ.....!

 エイヴァ!エイヴァ!可憐で秀麗なダイアレント家の美人令嬢!





 「ま、まぁいいわ.....。なんだか知らないけど~、もうそろそろ、殺していい?」


 「ぐっ......まずい。.....もう魔力が....................」


 で!こいつらは誰なのかしらー!!


 私、『蛾になってる』なんて聞いて、ナイわよ......?

 何で?あの金髪女、一体何したのかしら??




 「ああ、もうどうでもいい!!もう帰るぞ 俺は!こんなムシケラ知るか!!野郎が!!」


 ——男はイライラして足を踏み鳴らした


 「ちょっと?帰さないわよ.....?この惨状を作っておいて」


 「ああああ!?!?黙れ黙れ!それでは お前のような弱小はこの蛾でも潰してるんだナァァァ!!!グゲハハハハハハァァ!!!」


 —―捨て台詞を吐いて、男はマントに身をひるがえして逃げた。


 「.....逃げられた.....!........................く.....くふふふ.....!......何よ............こんな蛾くらい!余裕余裕!!」


 ——妖精は透明の魔法を解くと、空中を舞いながら叫んだ。



 何かしら、すごい巻き添えだわ........。

 視界がハッキリしないし、蛾になっているし.....ねぇ........。


 もう あの金髪女!!次 会った時、どうしてやろうかしらねぇ......!


 ま、おそらく、ここで死ぬでしょうけど.........私.....。




 「さ、しもべのワイバーンさん.....?死ぬ準備は......」


 というか、当たりヒドイわよ この女!




 あぁあ.....!もういっそ死んだら あいつのとこに戻れるかしら!?


 「それなら 死なせていただくわよ!!.....もう」


 「知能系の魔物かしら?ちょっと大きな蛾だからって、調子に乗るんじゃないわよ??」


 「どこが調子に乗ってるというのかしら!!来なさいよ!無礼者!」


 「無礼者ー!?あーー!もう頭きた!!覚悟しなさい!この.....でっかい......でっかい蛾!!」


 すると無礼者が近くに着地した音が聞こえた。




 「ああ!こんなにイライラしたのは久しぶり!!そっこう叩き潰してやるんだから!!」


 ああー、もう自棄やけだわ。


 「アッハハハハハハ!!私は高貴な令嬢なのよ!殺すなんて百億万年はや.....」


 「「グラススラッシュ!」」


 何か尖った物の気配を感じる。

 避けられるかしら?




 というか、

 少なくとも.....




 ここは私の御屋敷ではないわねぇ!!

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