〈第2話〉綺麗なプレゼント

 ..........


 ....................


 .........................


 ..............................


 ....................寒.....い..........わ。


 ....................それ.....に..........真っ暗.....。


 .....ここは.....どこなの..........?




 声が出ない.....

 喉が枯れているのかしら.....?


 いや.....そもそも 身体からだの感覚がないわ..........。


 私..........確か.....。





 バラを抜いたと思ったら、思ったら..........。


 ..........!思い出した.....。


 喉を......刺されて..........そのまま..........。




 どうすればいいのか、全く分からない.....。


 私はどうなってしまうのかしらね.....。


 「..........」


 すると、突然 視界が光に包まれた——!


 「..........っ!?」









 「........イ...ヴァさ.....ん...............エイ.....ヴァさ...ん..........

 ...............エイヴァさん」


 「ハッ!?」


 夢が覚めるかのように、意識がハッキリとした。



 気が付いたら 私は椅子に座っていて、周りはたくさんの花が咲いている。

どれも見たことのない種類ばかり.....。



 そして 私に向き合って座っているのは、美しい顔つきをした金髪の女性だった。


 「エイヴァさん。大丈夫ですか?かなり乱暴に投げ出されてきましたが.....」


 女性は心配そうに頭を傾けた。



 私は目の前の状況が理解できず、サッと立ち上がった。


 「あ.....!あなたは.....!?」


 私が焦って問うと、金髪の女性は


 「..................................ぷっ.............ははははは!」


 「え.....?」


 私が呆然と立っていると、女性は笑いながら 立ち上がって私の方に歩み寄ってきた。



 私は後ずさろうとしたが、女性は私の肩に手を置いて こう言った。


 「あなた..........!すっげー間抜けな死にづらしてたわよ!!」


 「..........はい?」


 まさかの言葉に、思わず私は真顔になった。

 女性は笑いを堪えながら続けた。


 「あなたさっき、私の部下の『天使』に刺されたでしょ?で、喉 貫かれたときのあなたのつらが、完全にツボで..........!」


 女性は我慢できなくなったのか、また口を抑えて笑い始めた。




 しばらく笑って、またこちらに向き直って私の顔を見ると、また笑い始めた。


 「..........」




 すごいわ..........。ここまで人を殴りたいと思ったのわ、生まれて初めて.....。


 「白目むいて.....!!棘刺さった状態でよ.....!?あり得...な.....い..........!」


 「あなたも白目をむいてみたいかしら.....?」


 殺気づいて女を睨んだが、女は腹を抱えて笑い続けている。


 「私は.....令嬢..........なのよ?ただで、済むと..........」



 人は怒りを越えると真顔になるらしいけど、きっと今の私の顔はこの女にとって面白くて仕方がないのかしらね。




 私の手がピクッと動いた時、女はようやく笑うのをやめて 逃げるように 無言で立ち去って行った。



 と思ったら またどこからともなく現れた。


 「あーあはは.....!あなたがー、エイヴァさんですねー?」


 「なかったことにしないでくださる?...............ハァ..........」


 誤魔化しているのは見え見えだが、もはや逆に清々しい。


 何故かしら。私が怒っているのが 馬鹿馬鹿しく感じてきた。




 「それじゃそれじゃ、エイヴァさん。どうぞ そこの椅子に腰かけてくださいな」


 「.....分かったわ.....」


 状況が分からない以上、下手な行動は取るわけにはいかないわね。


 大人しく椅子に腰かけた。




 女も椅子に腰かけ、一度 息をつくと話を切り出そうとした。


 「さて..........エイヴァさん、あなたのことですが~.....」


 「その前に、あなたは誰なのかしら。それとどうして私の名前を知っているのか?」


 女はハッとしたように口を抑えた。


 「いっけないわ!私としたことが、名乗るのを忘れるなんてね!」


 女は胸に手を当てて名乗った。


 「私は オフィーリア。まぁ、俗に言う神様。よろしくね」


 「本当にさっきと同じ人?」というくらい落ち着いた声。




 神、ということは 私はやはり..........


 「なるほどね。私は召天しょうてんして、今から最後の審判でも......受けるのかしら?」


 親から聞かされた話をそのまま言った。



 するとオリーフィアは、手を合わせて 何故か申し訳なさそうな顔をした。


 「何かしら?」




 オリーフィアはしばらく黙っていたが、つばを飲みこんで話し始めた。


 「そのことなんですが、あなたは そういうのは一切受けなくていい、です」


 「あら、そうなのね。やっぱり.....」


 「それでー、そのね。あなたにはお願いがあるの」


 何かしらねー。死んだばかりのお嬢様に。




 「そのお願いって、言うのは、ね?.....あなたには、ある仕事を......してもらいたくて..........その..........」


 「何を勿体もったいぶっているのかしら.....?さっさと要件を言ってくださる?

.....ただですら 私、死んでるのよ?」


 あおるのか遠慮するのかハッキリしてほしいものね。全く。




 私がにらむとオリーフィアは意を決したように、顔を上げて話し始めた。


 「あなたには 私の忘れ物を取ってきてほしいの.....」


 「忘れ物?」


 オリーフィアは足をモジモジ動かしながら言った。


 「その..........天使よ.....」


 「天使って、あなたの部下のかしら?」


 私が訪ねると、オリーフィアはうなづいて さらにモジモジと続けた。


 「はい.....。ある日、ちょっとその子に おつかいを頼んで、地上に行かせたの。あ、あなたの住んでる世界じゃない、別の世界ね.....」


 「別の世界、ね......」


 まぁ、不思議に思っちゃいけないわね.....。



 「そしたら、帰ってこないのよ.....」


 「.....そういうことね。迷子にもなったのかしら.....」


 「その原因を調べて、天使を見つけてほしいの」


 オリーフィアは何故か 冷や汗をかいていた。


 まぁ、心配な気持ちは分からなくはないわね.....。

 けれど、私に この人の願いを叶える義務はあるのかしら。

 何せ、この女は.....。


 「なるほど、そういうことね.....つまりは..........」


 オリーフィアが冷や汗をかいている理由が、何となく分かった気がする。


 「と、いうことで.....エイヴァさん?.....その~......」


 私は高貴な令嬢。煽られた程度でムキになったりはしないわ。

 でも、この女は私を、私を——


 「「そのためだけに殺したのね!」」


 「ギクリ」


 図星。

 まぁ、それはそうよね。『あのバラ』はこいつの部下って言っていたし。


 全く、人を殺しておいて『おつかい』だなんて図々しい。



 (あらら~.....ここで効率的に人手を稼いだのが、裏目に出ちゃったわね~。

ローズが乱暴だったとはいえ、これは完全にミスだわ.....私、ホント無能☆)



 あの女、なにニヤニヤしてるのかしら。

 機嫌とって誤魔化そうだなんて 卑劣ね。


 .....どうしてくれようかしら?




 私が立ち上がって 一歩 足を踏み出すと、オリーフィアは見苦しく交渉を始めた。


 「わ、分かったわ。そ、それなら報酬!報酬は..........」


 「この女..........」


 全く、私のような誠実なお嬢様が 報酬なんかで釣られるわけないでしょ?


 「終わったら、あなたの世界に返します!身体からだ 治します!

 で、あなたの欲しい物は何でも差し上げます.....!」


 「へぇ、例えば 何かしら?」


 「お金とか.....?」


 「私の家は名家。お金には困ってないのよ」


 オリーフィアは困ったように 頭をかいた。


 「まぁ、どっち道 お金は無理なんだけど..........。それなら、絶対に死ぬことのないこの’’蝶’’をあなたにあげる.....。これでいいかしら.....?」


 気づけば彼女の手には綺麗な’’白色の蝶’’のような物がとまっていた。

 確かに美しく見える.....。

 絶対に死なない蝶.....ね..........。


 少し心を動かされた。

 まぁ、私が結局生き返れるなら..........。




 —―エイヴァが考える中、オリーフィアは ふとあることに気づく。


 (.....!もうこんな時間!?帰ってきちゃうじゃないの!?)


 —―壁につるされた時計を見て 慌てて目をこすった。


 (彼が!帰ってくるわ!早く この子をあっちの世界に送らないと!)


 —―あたふた としているオリーフィア。エイヴァはまだ考えている。


 (もしも私がこの子を殺したってバレたら..............今度は 私が殺される!)


 —―エイヴァは何かの像のように固まって考えていて、かなり迷っている様子。


 (もう.....時間が無いわ...........!)




 「..........確かに蝶は好きね....................。だけど、『位置も分からない探し物』をさせられるのも、ね.....。いや、でもやっぱり..........」


 「「エイヴァさん!!」」


 「ふえ.....?...............な、なによ....?」


 なにかしら?品のないな声が出てしまったわね.....。



 オリーフィアは これまでにない様子で慌てている。


 「エイヴァさん!決まりましたか!!?」


 「いや..........まだ..............。.....難しいわね.....」


 「早く!!」


 オリーフィアは急に立ち上がって叫んだ。

 何よ、うるさい女は嫌われる ことを知らないのかしら?


 「今迷ってるのよ.........あ、でもやっぱりやめとこうかしらね........いや、でも..........」



 私が腕を組むと、オリーフィアはもう血相を変えて言った。


 「わ、わか、分かったわよ!もうこの蝶(に見せかけた別の虫)はあげるから!帰って!!」


 「それでいいのかしら?まぁそれなら、ありがたくいただくけど.....」



 オリーフィアは私に蝶を押し付けると、どこからともなく 表紙に魔法陣の描かれた分厚い本を取り出した。


 「あら、それが魔導書かしら?どんな魔法を使って私を地上に返してくれるの?」


 私が魔導書を覗こうとすると オリーフィアは本をバタンと閉じてしまい、何かを詠唱し始めた。


 すると私の足元がピカッと青く光り、体がフワリと浮かんだ。


 「あら、本当に返してくれるのね。ところで何でそんなに慌てて」


 「「「イピートマイエンホーリー!!」」」


 


 オリーフィアが叫ぶと、彼女のローブが ものすごい強風に揺らぎ、私の手の中の蝶がバタバタと暴れ始めた。


 「あ、ちょっと。よしなさい、あなたはもう私の蝶..........蝶.....?」


 あら?これ.....蝶じゃなくて..........




 「「はい、さよならーーー!!」」


 「あら、さようなら~.....?」




 オリーフィアは強風の中 叫んで、最後に..........


 「「ちなみに嘘です!やっぱ行ってください!異世界—―!!」」


 「「ふぇ!!?」」



 その瞬間、目の前が真っ暗になった。

 あの時と同じように——。

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