誰を選ぶ!?

 梨香子りかこは終電で家路に着き、ベッドの上にばたっと倒れこんだ。

 

 雅人の元恋人の遥香はるか。何故かわからないけど、雅人の弟の直人と結婚した遥香はるか


――  あんなに綺麗で仕事バリバリ風の女性が大路おおじさんを選んだ理由が…、「落とし甲斐がある」から? 何で大路おおじさんだったんだろ? 直人さんって、そんなに魅力的な人なのかな~? モジャの弟でしょ? うーん。謎。 あ、もうモジャじゃなかった…。


 そんなことを考えていた梨香子りかこは、いつの間にか眠りに落ちていった。


* * *


 ここは英国風のお庭。どうやら梨香子りかこは迷い込んだらしい。長いドレスの裾を持ち上げながらキョロキョロと出口を探していた。


「やっだぁ~。うふふ」


キャッキャウフフと、楽しそうな女性たちの声が聞こえてきた。


――  人の声? きっとこの辺りに住んでる人だわ。出口を知っているかも?


 梨香子りかこは道を聞くために、声のする方向へ歩いていく。ドレスを汚したくないから、膝が見えるまで裾を持ち上げ、早歩きになる。


 すると目の前に奇麗な小川が流れているのが見えた。その小川は1mちょっとの幅があり、水面みなもがキラキラとしていた。


――  よし、これなら飛び越えられる。ちょっと助走をつければ、きっと出来る!


「よしっ」


 梨香子りかこはドレスの裾をさらに持ち上げ、少し後ろに下がった。その時どこからともなく、聞き覚えのある男の声が聞こえた。


「ハシタナイから飛ばないでください」

「た、高橋さん?????」


 そこに現れたのは、スーツをカッコよく着こなしている海斗かいとだった。海斗かいとはニッコリ笑い、海斗かいとって呼んで。と今まで何度も聞いたことのあるセリフを言う。

 梨香子りかこは慌ててドレスの裾を元に戻し、埃を払った。


「ちょっと向こう岸に行きたくて」

「向こうに行かなくても、ここでお茶でもどうかな?」


 海斗かいとがすっと示すその先に、素敵なお茶会の会場が現れた。


「行こう。二人きりのティーパーティだよ」


 二人きり!? 梨香子りかこはその言葉にドキドキしながら、海斗かいとの手をとり席に着く。


「君がここに来て、僕を選んでくれたこと。すごくすごく嬉しいよ。その選択、後悔させない。絶対に」

海斗かいとさん…」


 でも梨香子りかこは向こう岸がさっきから気になってしかたがない。とても楽しそうな声が聞こえたからかもしれないが、向こうに何があるのか知りたいのだ。


 そんな梨香子りかこの頬を両手でそっと包み込み、海斗かいとは優しく語りかけてきた。


梨香子りかこちゃん。こっちを向いて、僕を見て」


 そこには、爽やかで優しくて穏やかな海斗かいとがいる。海斗かいとの瞳には梨香子りかこだけが映ってる。


――  あぁ~海斗かいとさん。来るもの拒まずって、いったい何人の彼女さんがいるの? 今奥様はいるの? 私でいいの?


「僕は君のこと大切にするよ」

海斗かいとさん…」

「目…閉じて」


――  私、海斗かいとさんと…。ちゅーしちゃう…の?


 目を閉じる梨香子りかこ


――  うん?? ちょっと待って!? 何だろうこの違和感。


君のことも・・・・・?」


 ツンツン。誰かにドレスの裾を引っ張られる感覚がする。梨香子りかこは目を開けて、膝のあたりを見た。


「ねぇ~遊んで」

「えっ?」

「パパ~。この人が新しいママ?」

「そうだよ。仲良くしようね」


――  えぇぇぇぇぇぇっ?? 何? 何? どうゆうこと?


海斗かいとさん…?」

梨香子りかこちゃん、僕の家族を紹介するよ。この子が1番目の、そして~」


 海斗かいとはいつの間にか行列を作っているチビッ子たちを梨香子りかこに紹介し始める。

 どの子も目がクリッとしていて、海斗かいとの顔をそのまま小さくしたような顔をしていた。どの子も間違いなく海斗かいとの子どもだと、疑いようがないくらい似ているのだ。肩車をしたら、絶対トーテンポールと見間違えるだろう。


 そのチビッ子の行列は永遠に続く長さに思えた。


「えっ? えっと? えっと? いったい何人いるの?」


 いつの間にかその行列には、見たこともない女性たちが並んでいた。みんな不思議とニコニコしている。


海斗かいとさん!?」

「大丈夫~君は先頭に並ばせてあげるから~。みんな仲良くしよ~」


――  やだやだ! お母さんになれる自信なんてないし、愛人なんて絶対イヤ! 海斗かいとさんっ。


 梨香子りかこは急に悲しくなってきた。海斗かいとにとって自分は、その他大勢の内の一人にすぎないのだと。


 夢見る乙女としては、自分だけを見て自分だけを愛してくれる人と結ばれたい!と思ってしまう。それが待ちに待っている王子さまなのだから。


 梨香子りかこはティーパーティの会場にある大きな椅子に座り、順々に紹介される海斗かいとの子どもたち、妻や愛人たちを眺めていた。いったいいつこの行列は終わるのか…、少し飽きてきたころのこと。


 行列の中に、知った顔が並んでいた。その人物はモジャモジャした頭をしている。


「えっ? 大路おおじさん?」


 順番が巡り、雅人が梨香子りかこの前で挨拶をする。


海斗かいとの愛人1号の、大路おおじ 雅人と申します」

大路おおじさん!? 何でここに?」

海斗かいとから、お前に挨拶しておいた方がいいぞって言われてね。愛人ってことらしいが、胸糞わるいったらないな」


 雅人は相変らず不機嫌な顔で、梨香子りかこの顔を見ようともせずそっぽを向いている。


「え? 髪の毛もう伸びたんですか?」

「伸びるの早いんでね」

「髪の毛伸びるの早い人って、変人が多いいっていいますよ」

「うるさいっ」


 雅人はプイっと、さらにそっぽを向く。あれ? 怒ったのかな? 変人に変人と言ってなにが悪いのだ!? 梨香子りかこは何だか楽しくなってきた。


「えいっ」


 何故そうしようとしたのか分からない。梨香子りかこは雅人のモジャモジャ頭を掴んで思いっきり引っ張った。


 スポっ。雅人のモジャモジャ頭がポンと取れた。


「お、おいっ! 何すんだよ」

「あはははは。モジャモジャ! ポンって。あははは」


 梨香子りかこは腹を抱えて笑った。


* * *


「あはっ?」


 梨香子りかこは自分の笑う声で目が覚めた。時刻は3:00。どうやら化粧も落とさず、服も着替えず、風呂にも入らず…眠ってしまったようだ。


 夢の内容はよく覚えていなかったけれど、何だかとっても楽しかったことだけは覚えている梨香子りかこなのであった。


「…お風呂はいろ」

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