梨香子 死体を発見する!?
新しい生活が始まる。
新人研修が終わり、今日から社会人として本格的にデビューする。
配属先が発表され、今日がその初日。社会人一年生、
新しい出会い、新しい生活! 初めての独り暮らし。
何もかもが新鮮でワクワクすることばかり。素敵な男性と廻り会い、恋に落ちる。ドラマのような恋がしたい! 白馬に乗った王子様は絶対いるのだ!
期待しない方が嘘になる。社内恋愛も悪くなさそうだし、何と言っても理系族はまだまだ男性率が高いのだ。絶対に恋愛確率は上がるはず。
さすがにドロドロした関係は嫌だけど、刺激は欲しい。退屈な毎日より、はるかに素敵。なんて期待している。
ピッ。
「おはようございます!」
朝が早い。誰もいないのだからもちろん、返事をする人もいない。
「少し早く着きすぎたかな~?」
社員証を振り回し周りをキョロキョロしながら、配属先の部署エリアに進む。確かこの先だったはず。入り口に案内図が書いてあったから間違いない。
黒の着なれないスーツ、普段履かないパンプスが妙に落ち着かない。でも今日は初めて配属先にご挨拶する日。しっかりおめかしする必要があるのだ。だって、出会いはどこに転がっているか分からないのだから、油断大敵! 最初が肝心なのである。
そんな
どう見ても人間の足に見える。
その足はオフィスの床に投げ出され、裸足でスリッパを履いていた。
「な、なに? 誰か……寝てる?」
その人物は椅子から座ったままの状態で崩れ落ちたように倒れ伏していた。
「ちょ、ちょっと……。まさか死んでる?」
テレビドラマで死体を見ることはあったとしても、親族以外の遺体を見たことがない。ましてやこんな状態で死体に遭遇することなんて一度もない。
念の為、時間と状況を確認しておこう。
時刻は8:05。記憶完了。
「あのぉ~」
反応がない。周りを見ると、デスクの下に桶と一升瓶、ウイスキーの瓶が置かれている。これはどう見てもアルコールだ。しかも一升瓶は空。
「何これ?」
この死体(死体かどうかわからないけど)、モジャモジャの頭、細い体に裸足……。スーツのズボンにインナーシャツをINしている。シャツは何処にもない。どう見ても怪しい。
近寄ってみるとアルコールの臭いがぷんぷんした。
よくよく観察する。軽くお腹の辺りが上下しているから、どうやら息はしているようだ。
「会社の中でお酒を飲んでる? この時間でも寝てるってこと? どうゆうこと?」
「どうしよう……。起こすべき?」
「おはよう。青木さん。早いね~」
「う、うん。おはよ。あのさ~……これ……」
「起こした方がいいかな?」
「いや……。そっとしておいた方がいいんじゃない?」
「でもさ……」
意外と
そんな中、背の高いイケメンの男性が倒れている男性に興味を示した。
「雅人、またやらかしてるのか」
「「おはようございます!」」
「おぉ~新人。えっと……?」
「青木です。よろしくお願いいたします」
「鳥山です。よろしくお願いいたします」
声をかけてきた男性が、哀れみの目で
―― わ、私の顔……変なモノでもついてるのかな? ドキドキ。
「青木さんか~。そうか。そうか。あ、俺は高橋。高橋
―― キャー。何気にイケメンっ! 高橋さんかぁ~。素敵です!
せめて雅人という人物について教えて欲しい。
雅人が起きないまま、始業時間がやってきた。新入社員の挨拶と、これからのペアリングが部長から発表された。
「でわ~、鳥山くんは高橋と。そして青木さんは……
部長は
―― オオジ? 王子様!?
「
部長が眠りこけている雅人をトントン叩いて起こそうとしている。
「しっかりしろ! 昨日も泊ったのか?」
「あ……、あ~大越部長。おはようございます」
「酒臭いな~。いい加減にしろよ」
大越が雅人を立たせる。雅人は最初に見た印象そのままで、細くてぬぼーとした不健康そうな感じがした。モジャモジャの髪を肩まで伸ばし、不思議度満載の雰囲気をかもしだしている。
「青木さん、これが
「あっ、はい! よろしくお願いいいたします!」
―― ちょっと失礼なんじゃない? それに……会社の中でお酒飲む? 普通飲まないでしょ……。何なの? このモジャモジャっ。オオジって……。オオジって何なのよ!
「顔、洗ってきま~す」
なんともマイペースな男だ。しかも不健康極まりない。爽やかさのかけらもないコミ症。
「青木さん、ちょっとちょっと」
「あいつ、ちょっと変わってるから。困ったことがあったら俺に相談して」
「あ、ありがとうございます。」
―― なんて良い人なのぉ~。イケメンの上に優しいなんて!
―― いいなぁ~鳥山くん。高橋先輩優しそうだし。それに比べて……何? あの人。変わってる? そう言われるの分かる気がするっ!
これが変人雅人と
最悪だ……。
どうなる?
もうすでに、嫌な予感しかしない。
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