乙女の恋愛事情!王子様は変人⭐なのだ!

桔梗 浬

プロローグ

 チュンチュン……。チュンチュン。


「う~ん。すごく良い天気!」


 久しぶりに爽やかな空気とゆったりとした時間を、梨香子りかこは満喫していた。


 木陰にお気に入りのラグを敷き、ゆったりとアフタヌーンティーを楽しんでいる。青空と芝生、英国貴族が集うおしゃれな庭に 梨香子りかこは2人のメイドを従えてくつろいでいた。


  梨香子りかこは黄色を基調としたふんわりドレスを、左右に座る2人の女子はメイドカフェの定員さんの様な恰好をしている。なんともシュールで、どこか……のどかな風景だ。


「う~ん。このダージリンティーは最高に美味しい! それにサンドウィッチも。外で食べる食事って本当に美味しいわね」

「そうですね。梨香子りかこお嬢様のお口にあって良かったです」


  梨香子りかこたちはたわいもない話をしながら、目の前に広げられた食事を美味しそうに食べていた。


「あぁ~、私の運命の人はどこにいるのかしら?」

梨香子りかこお嬢様にもすぐに素敵な殿方がお迎えに来られますよ」

「そうかしら?」

「ほら、噂をすれば」


 一人の女性が指さした方向を見ると、遠くの方から白い馬に乗った人物が こちらに来るのが見えた。そして、 その人物を乗せた白馬が梨香子りかこの目の前で止まった。


―― えっ? 何々? 私? これは!? とうとう来たわ! この瞬間っ!!


梨香子りかこさん、こんな所にいらっしゃったのですね。探しました! さぁ僕と一緒にお城に戻りましょう。そして僕のお妃になってください!」

「えっ? えっ? あなたは誰?」


 白馬に乗った人物は名前も名乗らず、さぁと言って 梨香子りかこに手を差し伸べる。 梨香子りかこには逆光で顔がよく見えない。

 差し出された手には白い手袋がはめられているので、どこかの貴族に違いないとは思う。


―― どうしよう……この人が私の運命の人? 白馬の王子様?


  梨香子りかこの胸は高鳴り、ドキドキが止まらない。この手を取れば幸せが待っている。顔もわからないけど白馬に乗ってるし、白いタイツも履いてる。

 うん? ちょっと待って。令和の時代にこのへんちくりんな服は? なんだか青と黄色地のカボチャっぽいパンツを履いてる……?


 えっと……こんなにダサい服を平気で着ていられる人とずーっと一緒に過ごせるかしら? なんて 梨香子りかこは冷静に考える。


―― とりあえず、顔を。顔で決めることでもないけど、やっぱり目覚めた時隣にいるって考えると、顔って大事なのよ。


  梨香子りかこの脳内は完全に冷静さを取り戻していた。

 白馬に乗っているけれど王子様ではない可能性。騙されてはいけないのだ。


  白馬の王子らしき人物をよく見ようと、梨香子りかこは立ち上がった。


「あ、あれ?」


 ぐるんぐるん。急に眩暈を感じる 梨香子りかこ……。


―― あ、落ちる!



 ドカッ。


「痛ったたたたたっ」


  梨香子りかこはベッドから落下した。そして夢から覚めたのだ。


「もぉー、何なのよぉ~。良い所だったのに!」


 もう一度頭の中で夢の内容を再生してみる。でもどんなに思い出そうとしても、白馬の王子様の顔は思い出せないのだ。思い出せるのは、白いタイツにカボチャパンツ……。


 ブルブルっ。と 梨香子りかこは頭をふる。


「はぁ……、白馬の王子様か~。いるわけないか」


 こうして大きな溜め息と共に、梨香子りかこの朝は始まった。



※ ※ ※


 青木あおき 梨香子りかこ22歳、独身。

 彼氏いない歴2年と2か月。


 今まさに、白馬に乗った王子様を待ち焦がれる乙女代表なのである。


 今日から新社会人!

 運命の人はすぐそこにいる!


 ……かもしれない。

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