ひどし…モジャ男
「弟子1号。お前は彼氏がいるのか?」
「えっ?」
変人雅人の部下に配属されて3ヶ月くらいがたち、だいぶ雅人という人との距離感を学んだ
それは突然にやってきた。
仕事の終わりの夜食タイム。近くのラーメン屋で味噌ラーメンと餃子を食べていると、隣の席でビールを飲みながら雅人が
思わず掴んだチャーシューをポタっと落としてしまった。
「飛んだぞ」
「あ、すみません」
そりゃ、あなたが変なことを言うからですよ? チャーシューも、スープにダイブします。
質問した当の雅人はしれっとラーメンをすすっている。食べ終わったら会社に戻って仕事の続きをしないといけないのに、ビールを飲むとは…。
「で?」
「えっ?」
「お前は彼氏がいるのか?」
大事なのでもう一回言います! と言わんばかりに質問を重ねる。これってどんなハラスメントに値するのか、
正直に言うべきなのか、笑ってごまかすべきなのか…。
「残念ながら、今は…」
悩んだ挙げ句、正直に答える
まさか…。
こう言う話は、もっとムードあるシチュエーションがいい!
「なら大丈夫だな」
「えっ?」
な、何がですか?
そもそも、雅人を男として見たことなんてない。見ようとも思えない。
「この後」
―― え? 何?
そんな
仕方ないから
「この後、お前も会社に戻って仕事するぞ」
「えっ?」
「お前に1つモジュールを作ってもらうことにしたから。仕様書は戻ったら渡す。30分もあれば出来るっしょ」
―― えーーーーーーーーーーーーーーーーっ。なにそれ? 彼氏がいようがいまいが関係なくない?
―― 意味深な言い方をして~! って勝手に勘違いしたのは私だけど。働き方改革って知らないのぉ~~っ!? モジャ
「来週の納品に、モジュール1本足りなかったんだよね。頼むわ。作った方がいいっていう感じのレベルだけどな」
「はぁ…。新入社員の私にまかせていいんですか? しかもこのタイミングで」
「ま、大丈夫でしょ。簡単なものだから。出来なかったら俺がやるから」
むーーーっ。やれるならさっさと自分でやればいいのに。と
「ドキュメントを確認するだけじゃ成長できないからな。ちょうどいいと思うよ」
成長…。何それ、嘘でしょ? そんなことを考えてくれていることに
―― でも…もう20時過ぎてますけど…。
これから会社に戻るのだ。しかも雅人はビールをひっかけている。これで正確な指示を伝えてくれるかどうか非常に不安だ。明日じゃダメなのかな~…。
案の定、雅人からは仕様書を渡されただけで、他のモジュールとの関係や、どこでどうやってコーディングをするのかも、テストをするのかも教えられることはなかった。
―― まぢか…。何も分からないよ? アジャイル方式だったら、環境さえ分かればなんとかなるかもだけど…。仕様書を読み解くところからか…。あぁ〜〜〜分かりませんっ。どうしよう。
しばらく途方に暮れた
雅人の方が人として成長するべきではないか!? と思う。こんなんだから35歳になって変人扱いされて、彼女もいない生活を送っているのだろう。(彼女がいるかいないかなんて聞いてないけど。多分いないに違いない!)と、改めて納得する。
「この環境を使え。出来上がったらデバックの仕方を教えてやる。サンプルもはいってるから、好きに見ていいぞ」
意外なことに、雅人は
最初から言ってくれればいいのに…。さっきまでの暴言、お許しください。なんて気持ちにもなる。
雅人といるとモヤモヤが晴れない。本当にめんどくさい。
雅人にしてみたら、自分に質問してくるかどうかを試したかったのかもしれない。
そうゆう意味で
「出来たら~起こしてくれ」
「えっ? 寝ちゃうんですか?」
「俺は仮眠をとる」
―― まぢか…。
この日、
―― 何なの!? 人にまかせて寝るなんてありえないっ。むむむむ。
―― あーもーーっ。ありえないぃ~~っ。私の王子様! 早く迎えにきて~~っ。
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