第30話 エッフェル

 私と京子が真中さんを連れて刑事課へ戻った。

「おう、俺のほうが早かったな」

 係長は相変わらず缶コーヒーを飲んでいた。

「真中さん、落ち着いて下さい。どうぞこちらへ」

 係長は真中さんをソファーへ案内した。

「あの、すみませんでした。デービスさんが亡くなったと聞いて、まだこれからも誰かが狙われるんじゃないかと思って。ひょっとしたら私かもって思ってしまって。アパートの前に刑事さんがいるだけでは何だか心細くて」

 真中さんは悲痛な表情で話した。

「大丈夫ですよ、ここは県警本部の中です。日本一安全な場所です。安心して下さい」

「係長が側にいたらー、安全じゃないですよー」

 真中さんを落ち着かせようと係長が真剣に話していたが、京子がそれを台無しにするような感じだった。でも、真中さんは失笑していた。

「めぐみー、じゃあ、こっち来てー」

 京子はめぐみさんを女性用仮眠室へ案内した。


「テレビのニュースでも大きく報道されてる。アルファベット順の連続殺人、ついに四人目の犠牲者……」

 課長がパソコン画面を見ながら頭を抱えこんだ。

「A、B、C、Dの順で起きた事件。でも、デービス教授の現場からは、Dの文字は見つかっていない。やはり自殺か……どうも腑に落ちないな……」

 係長は深く考え込んでいた。

 私たちは、ホワイトボードに書いてある情報を再び精査することにした。1時間ほど課長も交えて議論をしたが、新しい意見は出なかった。

 そして、京子が戻ってきた。

「おう、磯田、遅いぞ、何やってたんだよ」

「親友なんですからー、いろいろと話すことがあるんですよー」

「で、彼女、様子は?」

「うーん、大分落ち着いたかなって感じですー」

 京子はそう言って、私のすぐ後ろに座った。

「ねー、小春ー、後でちょっといい?」

 京子は珍しく小声で話してきた。

「どうしたの?」

「めぐみのことでさー」

 私も京子も小声でこそこそと話した。それから京子は机の上のパソコンでワイドショーを見始めた。

「あれー? 小春ー、これ何て読むのかな?」

 京子はストリーミング画面を指差した。大学前で生中継しているリポーターの後ろの、店の看板を指差したのだ。タワーの絵が描かれた看板だった。

「ん? このバーみたいな店の看板? カリグラフィー化してあって、読みにくいけど、んー、E、I、F、F、E、L、かな?」

「どういう意味ー」

「おう、それ、エッフェルだよ、エッフェル塔のエッフェル。前に言ったろ」

 係長が面倒くさそうに言った。

「え、エッフェルですか。アームストロングさんとダントリクさんのSNS上の会話で出てきたエッフェルって、このことじゃあ……」

 私がつぶやくと、係長がすぐに飛んできて画面を見た。

「おう、エッフェルだよ、エッフェル」

 私は係長と顔を見合わせた。みんな席から立ち上がっていた。膠着状態になっていた捜査に一筋の光が差し込んだような感じがした。

「おう、この店、当たるぞ」

「係長、俺らが行きます」

「おう、任せた」

 嶋村先輩と高木先輩は気合を入れて出ていった。

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