第28話 再度聞き込み

 翌日、いつもより早めに家を出て、出勤した。しかし、この日も私が最も遅かった。

「小春ー、おはよー」

 京子はスマホでニュースを見ていた。先輩たちも。課長はパソコンでネットニュースを見ていた。係長は新聞を広げて読んでいた。

「国際インターナショナル大学院連続殺人、四人目の被害者! って、昭和の二時間ドラマかよ、全く」

 係長は缶コーヒーを片手にぼやいていた。

「おう、全員揃ったな。早速だが、高木と嶋村は、シャ准教授とデービス教授の交友関係を当たってくれ。香崎、磯田、お前らは俺と一緒に大学で再度聞き込みだ」

 先輩たちは勇んで出ていった。私たちは捜査車両に乗り込んだ。


 大学に到着した。正門前にはマスコミが押し寄せ、脚立に登ってカメラを向けたりしていた。まだ現場検証が続いていたので、車のまま構内に入場できた。第三研究棟へ向かっている途中、千葉教授と増田助手が歩いているのが見えた。そのすぐ後ろを二人の私服刑事がついて歩いていた。

「あれ? 係長、千葉教授ですよね、増田さんも。自宅で待機していないのですかね」

 係長はすぐ近くまで車を近づけた。

「おはようございます。千葉さん、増田さん」

 係長が運転席から話しかけた。

「ああ、村田さん。おはようございます。まさか、デービス教授まで……」

「今日は何をしに大学へ?」

「ああ、講義です。学部の授業も受け持ってますので」

「僕も、同じく、教授の手伝いと、学生の実験指導を担当しますので」

 増田助手も答えた。

「そうですか。じゃこれで」

 係長は運転席の窓を締めて、研究棟の方へ車を走らせた。

 

 第三研究棟に到着した。

「さてと、俺はちょっと中を調べてくる。お前らには、聞き込みをしてもらおうか」

 私と京子はキャンパスにいる学生に聞き込みを開始した。


 アームストロングさんの事件以降、延べ数百人の学生に聞き込みをしてきた。聞き込みは、刑事の仕事の基本だ。新たな情報が得られるかもしれない。そう思って粘り強く続けた。京子はやる気なさそうにしていたが。

「え? この人、行方不明なんですか?」

 シュルツさんの写真を見せたら、ある学生が驚いた。

「あ、私ら、前に、ドイツ人の留学生が亡くなったことで一度刑事さんに話を訊かれてるんです」

「そうでしたか。ごめんなさい、もう数百人の学生さんに話を訊いているので」

「あ、全然大丈夫ですよ」

 ノリの軽い女子学生数人だった。彼女たちはキャピキャピと話し始めた。

「このブロンドの留学生の人も、亡くなったドイツ人留学生、誰だっけ、ベーベルさんだったよね? ベーベルさんと付き合ってたんじゃなかったっけ?」

「あ、あたしもそう思う」

「日本人の院生の人も、ベーベルさんと付き合ってたのかなって思った」

「その日本人の院生って、この人?」

 私は真中めぐみさんの写真を見せた。

「あ、そうそう、この人です。すごい綺麗な人だから、みんないつも見惚れてたよねー」

「前に私ら、その亡くなったベーベルさんにアタックしてみたんです」

「そうそう、逆ナンってやつ」

「でも、ベーベルさん、日本語話せるのに、絶対日本語話せるのに、わざとドイツ語で話してきて」

「ああ、そうそう」

「で、その時、さっきの金髪のドイツのお姉さんが、ちょっと離れた所で、腕組みながら溜息ついてたよね」

「なんかさ、映画とかでよく見るような感じで、呆れてるみたいな感じで」

「その時、ブロンドお姉さんの少し後ろで、日本人の院生のお姉さんが、すごい怒った顔して、走って行ったんです」

「そうそう、だから、始めは、金髪のお姉さんがカノジョなのかなと思ったんですけど、日本人の院生の人がカノジョだったのかなって思いました」

 彼女らは次から次へとキャピキャピトークを繰り広げた。

「それで、あなたたちは、どんな話をしていたのかしら?」

「ドイツ語で話されたから、全然何言ってるのかわからなくて」

「一緒に帰りませんかって言ったんですけど、ドイツ語でずっと話してて」

「ハンバーガー食べに行こうって誘ったんですけど」

「後ろ振り返って、ベーベルさんが金髪のお姉さんか日本人の院生の人かどちらかを手で指してました、こんなふうに」

「でもなんか、ブスって言ってなかった?」

「そうそう、言ってた。そこだけ聞き取れた」

「だから、ケンカしたのかなって」

 矢継ぎ早に話し続ける彼女たちに、さすがの京子も疲れていたようだ。

「ブス? って言ったの? ベーベルさんが?」

 私は確認した。

「はい、ブスって。そう聞こえました。だよね?」

 みんな、うんと頷いていた。

「ふーん、ケンカしたのかなー」

「わかりました。ありがとうございました」

 私がお礼を言うと、彼女たちは頭を下げて去って行った。

「なんかー、ひどいわねー。私だったら、ブスって言う彼氏なんか、ぶっ飛ばすけどさー」

 女子空手の元日本チャンピオンの京子が言うと、少し恐ろしく聞こえた。

 私たちは、しばらく聞き込みを続けたが、大した情報は得られなかった。正午のチャイムが鳴ったので、係長のいる第三研究棟へ向かった。

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