第27話 第四の事件発生

 私と京子は、大竹助手を連れて、県警へ戻った。

「おう、帰ったか。香崎、磯田、ご苦労。大竹ただおさん、訊きたいことがありますので、あちらの部屋でお待ち下さい」

 係長が言うと、高木先輩が大竹さんを部屋へ案内した。


「おう、香崎、よく連れてきてくれたな」

「ええ、なんとか」

「おう、実はな、デービス教授が遺体で発見された」

「えっ!」

「えーーーー!」

 私と京子は驚愕した。これで、ラボ所属の人間が四人も死んだのだ。何か言葉を発しようと思っても、出なかった。

「嶋村が今現場にいる。デービス教授のマンションだ。応答がなかったから、鍵を壊して室内に入ったら、亡くなっていたそうだ」

「えー、そんなー」

「……あ、それで、Dの文字はあったんでしょうか?」

「いや、今のところはその報告は受けていない」

「係長」

 戻ってきた高木先輩が係長に声をかけた。係長は私たちに向き直って、話すためのメモをデスクから取った。

「おう、高木に、デジタルカメラを買った繁華街近くの江頭という人物を当たってもらった。江頭は、カメラの付属品であるSDカードを外して、自家用車のドライブレコーダーに取り付けていた。その車は繁華街の月極駐車場に停めてあり、防犯のために、ドライブレコーダーは24時間作動中にしてあった。その駐車場は、アームストロングが転落した雑居ビルの裏側にあり、車はビルの非常階段の方を向いて停められていた」

「え、つまりそれって、非常階段が写っていたっていうことですか!」

「ああ、そうだ。だがな、アームストロングの事件は12日前だ。記憶する容量が足りないので、12日前の映像は自動的に消去されてしまっている」

「えー、最悪ー」

「安心しろ、磯田。データの復元を鑑識に依頼してある」

「そういえば、消去しても、データは元に戻せる可能性があるんですよね」

「じゃあー、安心ー」

「だが、まだどうなるかわからない」

 係長は険しい顔つきになって言った。

「大竹は、俺と高木で事情聴取する。香崎と磯田はデービス教授宅へ行ってくれてもかまわんぞ」

「はい、そうします」

「えー、行くのー」

 私は嫌がる京子を連れてデービス教授のマンションへ向かった。


 ものの十数分で到着した。

「やっぱー、サイレン鳴らすとスカッとするわねー」

 私と京子は制服警官の間を抜け、教授の部屋へ急いだ。

「あ、香崎、磯田」

「嶋村先輩、Dの文字はあるんでしょうか?」

「いや、それがな、どこにも見当たらない」

「ないんですかー」

 私は部屋の中を見渡したが、どこにも見当たらなかった。私は床に倒れているデービス教授に近寄った。教授は床に仰向けの状態で、口から泡が吹き出ていた。

「死因は何でしょうかね?」

「何だろうな。薬か何かかな」

「先輩、何か気になる発見とかありましたか?」

「いや、特にないな」

「Dの文字がないのは変よねー。本当に連続殺人なのかしらねー」

「遺体の背中に文字が貼り付けてあるとか、書かれているとか……」

 嶋村先輩は床に顔をぎりぎりまで近づけてデービス教授と床の隙間を見ようとした。

「先輩、鑑識に任せないと無理みたいですね」

「ああ、そうだよな」

 先輩は起き上がりながら言った。私たちは、室内をいろいろと調べて回った。

「ん、これ何だ?」

 嶋村先輩はデスクのビニールマットの下に貼られた付箋を見た。

「INTER20U20??」

「何かのパスワードでしょうか?」

 嶋村先輩は記号を手帳に写し取った。

 しばらく調べてから、私たちは県警へ戻ることにした。


 係長が自分の席で缶コーヒーを飲んでいた。

「おう、ご苦労だった」

「係長、こんなものがありました。パスワードみたいです」

 係長は記号を見せられて、首を少しひねって難しそうな顔をした。

「そうみたいだな」

「係長、大竹助手はどうでしたか?」

「おう、デービス教授が亡くなったことを伝えたら、次に殺されるのは自分か飯島ときこかもしれんと言って怯えだしてな。しばらく県警で保護することにした」

「係長ー、飯島さんはどうするんですかー」

「おう、ちゃんと警備をつけるように手配した」

「他の人たちは?」

「大学院の関係者全員にデービス教授のことを伝えた。全員が警備の対象になる」

「じゃあー、めぐみも安全ってことですねー」

「ああ、家の側で見張りがついてる。心配しなくてもいい」

「はあー、お腹減ったー」

「もう夕方ね、まだお昼も食べてないのに……」

 悲しむ私たちに係長は無言でカップ麺を差し出した。私はありがたくいただいたが、京子は無視して帰宅した。

 係長の好みの激辛味のカップ麺は、あまり美味しくなかった。

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