第22話 現場検証
昼食を取り終えて、係長は毎度のように缶コーヒーを飲んでリラックスしていた。私は自販機で紅茶を買ってきて飲んでいた。だが、私はとてもリラックスできるような気分ではなかった。
「係長、シュルツさんとデービス教授に連絡を取ってみたほうがいいと思いますが」
「おう、そうだな、やってくれ」
私はすぐにその二人に電話をかけてみた。しかし、繋がらなかった。留守電にもならなかった。
「だめですね、繋がりません」
「おう、そうか」
係長は貧乏臭そうに缶を逆さまにして底のコーヒーをすするように飲み終えた。
「おう、じゃ行くか」
係長は先陣きって第三研究棟へと向かった。私と京子は後に続いた。
研究棟の出入り口はちょっとした半円のロータリー状になっており、そこを覆うように屋根がある。その屋根の天井に監視カメラが設置されていた。係長が指示し、鑑識係がカメラを外して中のSDカードを取り出す作業をした。私たちは二階のラボへ向かった。
まずは手前の千葉ラボだ。出入り口の内側の真上に監視カメラが設置されていた。そのカメラからも中のSDカードを取るように、係長の指示で鑑識係が動いた。
次に、隣のデービスラボだ。大竹助手に聞いた通り、部屋の中ほどに置かれたスチールラックの本などの隙間にカメラが設置されていた。同じようにSDカードが取り出された。
それから、三階にある休憩スペースの監視カメラも鑑識によって外された。
私たちは再びデービスラボへ行き、一通り鑑識作業が終わっている中、検証を開始した。
「被害者は、何者かと争いになった。そしてまず、そこのテーブルの角で頭を打ったんだな」
テーブルの角には血が少し付着していた。
「そうですね。このテーブル、ひどく角が尖っていますね」
こんなテーブルは危険だと誰も思わなかったのかと私は疑問に思った。それくらい角が尖っていた。
「頭を打って、それから、誰かと再び取っ組み合いになり、えーっと、何だっけ、実験スタンドだったか、それを首に刺された」
テーブルに置かれていたであろうガラス製の器具やファイルや本が床に落ちていた。
「事故という線は……」
私はつぶやいた。
「誰かと争ったのは確かだし、事故であるなら、スタンドが首に刺さるのは難しいんじゃないか?」
「確かにそうですね」
「しかしー、気になるわよねー、あのCの文字」
私たちは黒板に赤で書かれたCを見つめた。
「よし、今日はもういいだろ。続きは、鑑識結果が出てからだ」
私たちは教務棟へと戻った。第三研究棟は数日の間使用できないかもしれないことを大学院生命科学研究科の関係者に伝えた。また関係者は身に危険が及ぶ可能性があるので、家まで警察車両が送り届けることになった。外出する場合は可能な限り夜間の時間帯を避けて、人通りの多い場所を通ることなどを教え、女性には護身用のスタンガンを渡した。
「これ、どうやって使うのかしら?」
真中さんはスタンガンを初めて見たようだった。
「めぐみー、係長に試してみたらー」
「バカ、磯田、冗談言うな」
それから係長は紳士っぽく車の後部座席のドアを開けて、真中さんの方を向いた。
「どうぞ、真中さん。私が悪漢からあなたのことをお守りします」
真中さんはそう言われて普通に車に乗り込んだ。
「めぐみー、このおっさんが一番危ないからねー」
京子はそう言って、すぐに運転席に乗り込んだ。
「おい、こら、磯田。俺が真中さんを送り届けるんだろが」
「係長はー、シュルツさんを探して下さーい」
「おう、それもそうだな、って、おいこら!」
係長のノリツッコミを無視して、京子は真中さんを乗せて発進した。係長は名残惜しそうにその車を見送っているようだった。
嶋村先輩は飯島さんと大竹助手を自宅まで送り届けることになった。高木先輩は、千葉教授と増田助手を送ることになった。警察車両は、その多くがマスコミ関係者と思われる人だかりを避けながら、大学の正門から出て行った。
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