第23話 鑑識結果

 翌朝、いつも通り私以外の全員が出勤していた。

「おはよー、小春ー」

「おう、香崎、来たか。じゃ、始めるぞ」

 係長はファイルから鑑識の結果報告書を取り出した。

「シャ准教授についての検死結果だ。死亡推定時刻は、5月22日の22時半頃。研究スタンドが首に突き刺さったことによる失血死だ。頭部に机の角でぶつけたであろう傷が確認されたが、死因は失血死だ。研究棟に設置された監視カメラについて、まず、三階の休憩スペースの監視カメラには、事件に関係が薄いと思われる映像しかなかった。次に、千葉ラボの監視カメラでは、おかしな映像は確認できなかった。それから、デービスラボの監視カメラのSDカードは、故障によりデータが消えていた。考えられる理由は、耐久年数が過ぎたか、静電気で故障したかということだ。そして、入り口の監視カメラでは、証言通り、千葉教授、飯島ときこ、増田助手の三名が21時半頃までに研究棟を出ていくところが写っていた。デービス教授は22時10分に研究棟を出ている。しかし、真中めぐみと大竹助手は写っていなかった。大学院関係者以外は誰も写っていなかった。以上だ」

 みんな驚いた。

「めぐみと大竹助手は写ってなかったってー、どういうことですかー」

「おう、俺に言われても知らん」

「建物から出なかったのかしらねー」

「大学院関係者以外、建物に入ってないってこと……」

「何者かが窓から侵入したのかもしれんな」

「ラボのカメラのSDカードが壊れていたって、偶然にしてはおかしいですね。意図的だとしか……」

「めぐみは建物から出てなかったってことー? もしもしー、めぐみー」

 京子はすぐにスマホを取り出して電話をかけていた。相変わらずのギャル語で会話をしていた。

「えー!? 裏口ー!? うん、うん」

 京子は大きな声で驚いた。しばらく話を続けて、そして電話を切った。

「係長ー、研究棟には非常階段があってー、一階の非常口は、警報装置を切ってあって、外に出ると自動ロックがかかる仕組みになってるからー、普段からよく使うんだってー」

「非常口?」

「そうよー、めぐみは結構その非常口を使ってるんだってー。だからカメラに写らない時もあるんだってー」

「なるほどな。しかし、そうなると、真中さんが何時に建物から出たのか証明できないな」

「係長、真中さんを呼び出して事情を訊きましょうか?」

「いや、真中さんも狙われる危険がある。磯田、電話でいいから真中さんに訊いてくれ」

「はーい」

 京子は再度電話した。その間、大竹さんにも確認する必要があるので、係長は嶋村先輩に大竹さん宅へ行くように指示した。嶋村先輩は、なぜ電話じゃダメなんだという感じで納得いかなそうに大竹さん宅へ向かった。京子はメモを取りながら通話していた。

「係長ー、めぐみはみんなと一緒の時間にラボを出たって言ってますよー。バスで通学しててー、その日は21時45分の大学前発の最終バスに乗れなかったからー、国道のバス停まで行って、22時30分発のに乗ったんだってー。バスの監視カメラに映ってるはずだってー」

「そうか。市バスか?」

「市バスの定期券買ってるからー、そうでしょうねー」

「おう、高木、市バスに当たってみてくれ」

「はい」

 高木先輩は市バスの連絡先を調べ出した。私はスマホの地図で大学から、そのバス停までを見ていた。距離はおよそ1.5キロほど。

「そのバス停だと、大学から普通に歩けば20分いや25分くらいでしょうか?」

「おう、研究棟からだと、もう5分か10分余分にかかるな」

「そうですね」

 真中さんは、22時少し前にラボを出てバス停に向かったと考えられた。シャ准教授の死亡推定時刻より30分以上前だった。

「係長、真中めぐみが乗ったと思われるバスの監視カメラの映像、あるそうです。これから確認に行ってきます。磯田、◯◯ヶ丘の市バス営業所までついてきてくれ」

 高木先輩が京子についてこいと言った。

「えー、何でですかー?」

「お前のほうが真中めぐみの顔をよく知ってるだろ」

「仕方ないですねー、今度おごって下さいよー」

 京子は嫌々ついて行った。

 

「係長、デービス教授とシュルツさんに連絡してみますね」

 私は刑事課の固定電話から、両名のスマホに電話をかけた。しかし、繋がらなかった。

「だめです。留守電にもなりません」

「そうか」

「そういえば、トム・クーパーさんの警備はまだ続いているんでしょうか?」

「ああ、まだS県警の保護下にある。狙われる可能性は完全に排除できないからな」

「ジャン・ダントリクさんとは、連絡は取れたんでしょうか?」

「まだじゃないかな。山崎課長、どうでしたか?」

「ダントリクさんの件は、フランス警察からまだ連絡がないので、フランス警察もまだ見つけられていないはずです」

 課長は新聞を開けたまま困り顔で答えた。

「え、課長、マスコミ報道のほうはどうなんでしょうか?」

「ああ、新聞ではまだ大学の関係者で第三の被害者が出たとしか書かれてないが、ネットニュースではアルファベット順に殺人が起きていると騒いでるよ」

「でも、シャ准教授とCは関係ありませんよね」

「そこのところはまだ専門家たちも黙りみたいだな」

 係長はスマホでネットニュースを見ているようだった。

 私は情報をホワイトボードに書き始めた。

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