第14話 聞き込み
私と京子は大学構内で手当り次第に学生に声をかけまくっていた。
「はぁ、小春ー、疲れたー」
「何言ってんのよ、京子。さっ、仕事仕事」
連日、百人以上の学生に話を聞いている。私も疲れたが、どんなに些細なことでもメモを取った。
「あっ、めぐみー」
「あ、京子」
真中めぐみさんがたまたま通りかかった。
「今日は、村田さんはいらっしゃらないの?」
「係長はー、この大学を出禁になったのよ」
「いや、ちょっと、京子」
「え!? 出禁って、どういうこと?」
「ナンパするからー、出禁になったの」
「誰が決めたの?」
真中さんは焦って訊き返した。
「私よー、私ー」
「ちょっと京子、あんたが決めてどうするのよ」
「いいじゃん、小春ー」
真中さんは少し困惑していた。
「ねー、めぐみー。係長に何か用事あるの?」
「え、用事とかじゃなくて、どうされてるのかなって……」
「ほっとけばいいのよ、あんなおっさん」
「京子、おっさんって」
私も少し困惑していた。
「ところでさー、めぐみー。めぐみとベーベルさんって、どんな関係なのー?」
「え? どんな関係って」
「さっきー、美人の大学院生とイケメンのドイツ人留学生がー、よく一緒にいるのを見たっていう学生がいたんだけどー」
「え、それって、私なの?」
「そうよー、写真みせたら、そうだって言ってたのよー」
「あ、ベーベルには、留学のことで相談にのってもらってたのよ、それで……一緒に食堂に行ったりとかしてて……」
真中さんはぎこちなく言った。
「留学ー?」
「ええ、そう」
「海外の大学ー?」
「そうよ、スイスの大学」
「真中さん、詳しく訊かせてくれませんか」
話を聞くために、私たちは学内のカフェへ移動した。
「私、下宿してて。交通費もかかるし、大学院の授業料も払わなきゃいけないし。いろいろとキツいのよ。スイスの大学だと、学費は全然気にしなくてもいいし、むしろ、大学院生に給料が支払われるのよ。だから、スイスの大学院に移れないかなと思って、ベーベルに相談してたのよ」
「ふーん、そうなのー」
「スイスでは確かドイツ語が話されてるんですよね」
「一応、そうです」
「じゃ、真中さん、ドイツ語お上手なんですか?」
「いえ、全然です。英語はなんとかなりますけど。ドイツ語は見るだけで頭が痛くなってくるんです」
「えー、じゃー、スイスの大学に行ってもドイツ語わからないのに、どうすんのよー」
「大丈夫よ、英語で全部いけるの」
「ふーん」
「留学のこと、同じラボのナターリエ・シュルツさんには相談しなかったんですか?」
「ナターリエは、日本語があまりうまくないので、それでベーベルに」
「あ、そうでしたね」
「村田さんが、英語にもドイツ語にも堪能だったので、私、憧れを持ってしまって」
「あー、ダメダメ、ダメよー、めぐみー。あんな極道」
「いや、京子、ひどすぎない?」
「ひどくないわよー、小春ー」
真中さんは少し苦笑いしていた。
「しかし、真中さん。あなたとベーベルさんですが、恋人同士のように見えたという証言があるんです」
「あ、いえ、本当に、知り合い程度です。同じ大学院に籍をおいてるだけの。ラボは別ですけどね」
「そうですか」
しばらくカフェで昼食を取りながら、女子会のような雰囲気で会話をして、捜査に戻った。
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