第13話 報道
翌日、刑事課へ出勤してきたら、京子はスマホでテレビニュースを見ているようだった。その向かいの席では、係長が新聞を広げて読んでいた。
「おう、香崎、おはよう。早速、新聞が大胆なこと書いてやがる」
係長は私に新聞を渡した。「大学院生連続殺人か!?」という見出しがすぐに目に飛び込んできた。
「繁華街ビルから転落死したアームストロングさんのジャケットには大きくAという文字があった。アームストロングさんの名前の頭文字はA。駅前公園で亡くなっていたベーベルさんの側には血で書かれたBの文字があった。ベーベルさんの名前の頭文字はB。そのことから、アルファベットの順番で殺人が行われている可能性がある……」
私は勢いで声を出して読み上げてしまった。
「もうすぐしたら、週刊誌も書き出すぞ」
「そうですね……」
「だがよ、同じ大学院に所属しているか、していた人物を標的にしているのならよ、アルファベット順じゃなくてもいいんじゃないか? アルファベット順だということに気づかれたらうまく事が運ばないかもしれんだろ?」
「確かにそうですね」
「それか、もしかしたら、大学院が関係ないのかもしれんな」
「どういうことですか?」
「おう、犯人の殺したい人物が、たまたま、同じ大学院に所属していただけかもな」
「うーん、それだとしたら、大学院を修了したクーパーさんとダントリクさんは、関係なしになりますね。って、その二人、ちゃんと保護されたんでしょうか?」
私が言うと、山崎課長が立ち上がってこちらを見た。
「香崎くん、トム・クーパーさんは、S県警が保護している。しかし、ジャン・ダントリクさんはフランスに帰国しているので、現地警察と連絡を取り合っているところだ」
「そうなのですか。帰国中……」
私が困惑しているのを見て、係長はひと呼吸置いた。
「……それか、そもそも、AとBは何の関係もないかもしれん」
いろんな推測ができた。真剣な私と係長を、気の抜けた京子がじっと見ているのに気づいた。
「あのー、テレビのニュースでもやってますよー。犯罪ジャーナリストとかが言ってますよー、連続殺人事件の可能性があるって」
私と係長は京子のスマホを覗き込んだ。係長の顔が接近してきたので、京子が嫌そうな顔をした。
「ちょっとー、係長ー、近い近い」
「うるせぇ」
確かに、アルファベット順に殺人が起こる有名な小説を引き合いにして、犯罪学者や元刑事らが、視聴者の耳目を引くようないかにもテレビ映えすることを熱く語っていた。
「おう、マスコミどもが適当なこと言いやがって。まだアームストロングもベーベルの件も殺人だと決まったわけじゃないのに」
「えー、係長も適当なこと言って女性を口説いてますよねー。口説き落とせるって決まってるわけじゃないのにー」
刑事の信念を貫く男の側で、京子は図星をついた。嶋村先輩も高木先輩も凍りついていた。
「おう、こら、磯田。逆セクハラだろ」
「なんかー、キモいからー、通報しますねー」
「……え、京子、何で……」
おバカな会話がいつものように続いていた。
それからまた、聞き込みを開始することにした。私と京子が大学内を、嶋村先輩と高木先輩が被害者の交友関係を当たることになった。
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