第12話 連続殺人?

 ベーベルさんが亡くなったことを、大学側へ伝えた。本人確認のために、数名に署まで来てもらった。デービスラボから、シャ・コクリュウ准教授、大竹ただお助手、そして千葉ラボから、真中めぐみさんに来てもらった。三人全員が、亡くなった男性のことをベーベルさん本人であると証言した。

「めぐみー、隣のラボの人が亡くなったのはつらいだろうけどー、元気出しなよー」

「そうですよ、真中さん。私がついています。何かあれば――」

「あーもー、係長はいいいのよー」

 京子は係長の言葉を冷たく遮った。

「……あの、彼の遺体は、この後……」

「監察医による検死が行われますので、病院へと運ばれることになっています」

 真中さんは、布を被せられて安置されているベーベルさんの遺体をじっと見つめていた。同じくその隣にいて黙ったままだったシャ准教授が突然怒りをにじませながら息を吐いた。

「すごく良い奴でした。優秀で、将来を期待されていたのに……どうしてこんなことに」

 彼の力を入れて強く握った拳は、ぶるぶると震えていた。

「悲しんでいても、仕方がありませんよ。ベーベルのためにも、良い結果を得られるように研究を続けていきましょう」

 大竹助手は二人を励ますように言った。


 真中さんたち三人を大学まで送り、刑事課のみんなでベーベルさんの交友関係を調べることになった。私と京子は大学内を、嶋村先輩と高木先輩は学外を担当することになった。係長は、学内担当になりたかったようだが、京子に全力で拒否されて、刑事課で待機して指揮を取ることになった。係長なのに、部下に負けてしまった。


 翌日、刑事課でいつも通りの捜査会議が始まった。

「AとBか」

 係長は熟考していた。

「アームストロングの時は、Aという字がたまたまジャケットにプリントされていただけかもしれんが、今回は地面にBという文字が書かれていた」

「なんかー、Aから順番に殺人が起こるみたいなー」

「そういう小説あったわね」


 午後、検死結果が報告された。フィクトール・ベーベルさんの死因は、頭を強打したことによる外傷性ショックだった。自分で転んで頭を打ったのか、それとも、誰かに石で殴られたのかはまだ確定できなかった。死亡推定時刻は、19日の午後9時頃だった。

「同じ大学院の関係者が二人も亡くなった。しかも、A、Bという連続性が考えられるメッセージとともに。アームストロングの頭文字A、ベーベルの頭文字B。おう、香崎、どう思う?」

「次は、Cで始まる名字の人が狙われる可能性があるとしか……」

「えー、だったら、シュルツさん?」

「いや、シュルツはCで始まらない。Schulzという綴りになるからな」

「シャさんは、どうなんでしょうか? シャ、って名字ですよね」

「おう、シャ准教授の職員証には、Xieと表記されてるな。これで、シャって発音するのか」

「えー、だったらー、関係者の中にー、Cで始まる人、いないですよねー。日本人の名字はあんまりCで始まらないしー」

 京子はホワイトボードを指差した。

「あっ! 二人の院生が、つい最近学位を取って千葉ラボから出て行ったって聞きました。ひょっとしたら、Cで始まる人がいるのかもしれません」

 私は急いで大学に問い合わせた。

 すぐに大学からFAXで情報が送られてきた。それによると、一年前に二人が大学院を修了していた。私はその二人の名前をホワイトボードに書き始めた。


 トム・クーパー   Tom Cooper  アメリカ人 S県H大学勤務

 ジャン・ダントリク Jean Dintrich  フランス人 M県W大学勤務


「おいおい、マジかよ。CとDで始まる名字だぞ」

「偶然じゃないですよね……」

「おう、このクーパーって奴、次に狙われるかもしれんな」

「さらにその次は、ダントリクさんかも」

 私がそう言うやいなや、捜査状況を見守っていた課長が席から立ち上がった。

「至急、S県警とM県警に連絡して、当該人物の警護を要請する。村田係長、引き続き、捜査をお願いします」

「はい、わかりました」

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