第11話 第二の事件発生
刑事課のホワイトボードに、相変わらず私は書き込みをしていた。大学での聞き込みで、有益な情報は得られなかったという悔しさから、名前と名前を線で結び、交友関係を可視化していた。
「おう、香崎、見にくいだろ」
「係長ー、醜いって、ブサイクっていう意味ですかー?」
「あのなあ、ホワイトボードが見えにくいって言ったんだよ」
「あーそー」
「全く、香崎が醜いわけないだろ。お前と違ってな」
「あー、ひどいー。セクハラ相談窓口に通報しまーす」
「いや、待て、待て、冗談だ」
二人のおバカな会話に呆れながら、山崎課長が席から立ち上がった。
「えー、ゴホン。気になる情報は何もなかったということで、ジャック・アームストロングさんの件は、事故ということで処理しよう。村田課長、いいですね?」
「はい、もちろん」
「やったー、捜査終わったー」
京子は伸びをした。嶋村先輩も高木先輩も、肩の荷が下りたようだった。
だがその時、刑事課の電話が鳴った。高木先輩が電話を取った。
「はい、刑事課。はい、え、何!? 人が死んでる!? ◯◯駅前の公園。はい、はい」
一気に緊張が走った。
「よし、行くぞ」
係長が檄を飛ばした。
みんな車で現場まで向かった。
現場の公園は、◯◯駅前にあり、野球ができるくらいの広場を併設して、木々が生い茂った都会の中のオアシスのような空間だった。
「おう、ご苦労」
鑑識係の横を通って行く係長の後に、私たちは続いた。
「ん、外国人か?」
係長が少し驚き気味に言った。そして死んでいる男性の顔を見て私も驚いた。
「係長、この害者、ひょっとしたら……」
「小春ー、デービスラボの、ドイツ人留学生に似てるよねー……ベーベルさん?」
「おう、マジか!?」
男性はうつ伏せで地面に倒れていた。すぐ左側には頭よりひと回り小さめで血がついたままの石があった。男性は右側に顔を向けていた。その視線が向く先は、自身の指と地面に書かれた血文字だった。
「おう、何て書いてあるんだ?」
「大文字のアルファベットのBでしょうか」
「そうねー、Bにしか見えないわねー」
被害者は自身の指で地面に文字を書いている最中か、あるいは書き終わった後で絶命したようだった。それか、第三者が被害者の指を使って地面に文字を書いたのかもしれなかった。
「この石が凶器か?」
「転んで頭打っただけかもねー」
京子の会話を無視して、係長は所持品の財布から学生証を取り出した。
「Victor Bebel。国際インターナショナル大学院生」
「やっぱり、ベーベルさん……」
「おう、フィクトール・ベーベルだ」
「えーー!」
「……Bか……」
係長がいつになく真剣な表情でつぶやいた。
「ダイイングメッセージでしょうか?」
「小春ー、そうとは限らないわよー。誰かがベーベルさんの指をつかんで書いたのかも。でも、アームストロングさんの件とつながりあるかもねー」
「おう、そうだな。アームストロングの時は、Aとプリントされたジャケット。Aはアームストロングの頭文字。今回は地面に書かれた血文字、B。ベーベルの頭文字か?」
「係長、もしかしたら、連続殺人ということも考えられますね」
「……そうだな」
「Bの後にも何か書いてあるんでしょうか」
「文字なのか? かろうじて読むとするなら、eか。それから、aか。にじんでてわからんな。文字かどうかもわからん」
「Beaですかね?」
「その先は血がにじんで全然読めないな」
「係長ー、どういう意味になるんですかー?」
「Bea、何だろな、わからん」
「えーーー」
「Bを書いてから絶命して、指がすべって、文字みたいになっただけかもしれませんね」
「ありえるわねー」
「鑑識に読み取ってもらうしかないな」
しばらく現場検証をしてから、私たちは刑事課へ戻った。
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