第7話 情報整理

 午後、刑事課のホワイトボードに私は情報を書き出していた。

「国際インターナショナル大学の大学院生命科学研究科には、デービスラボと千葉ラボの二つのラボがある、と」



 ・デービスラボ

  教授  アレック・デービス       アメリカ出身

  准教授 謝黒龍(シャ・コクリュウ)    香港

  助手  大竹ただお              

  院生  フィクトール・ベーベル   D3 ドイツ

      飯島ときこ         D3

      ジャック・アームストロング D2 アメリカ


 ・千葉ラボ

  教授  千葉ひでお

  助手  増田てつや

  院生  ナターリエ・シュルツ    D3 ドイツ

      真中めぐみ         D1



「こういう感じかな」

 私はホワイトボードに書き終えた。

「おう、Mはいなのか」

「何ですか、係長ー、Mなんですかー。だからわざとビンタされたんですかー」

「何言ってんだ。Mっていうのはマスターのことだよ。Dはドクター。だからドクターコースの院生ばっかだろ。Mがいないんだよ」

「ふーん、そんなこと、知りませんよー」

「おう、でも、黒い龍って名前、カッコいいよな」

「ガキじゃないんだからー、係長ー」

 相変わらずお間抜けな会話が行われていた。

「アリバイは、今のところ全員あるな」

「ログイン記録によると、ほぼ全員が最低でも1時間おきにパソコンにログインしてますので、間違いないかと思われます」

「でもさー、小春ー、パソコンを持ち運んだってことは考えられないかなー」

「京子、デスクトップ型のパソコンだから、そんなの無理でしょ」

「アームストロングさんを階段から転落させるために、重いパソコンを持たせようとしたとかさー」

「いや、京子、殺人だとまだ決まったわけじゃ……」

「真中めぐみさんも、フラウ・シュルツも美女すぎたなぁ」

「はぁ?」

「お前と違って、品があったよな、磯田。こうも逆の人間が親友だったなんて、信じられんな」

「係長ー、セクハラ相談窓口に通報ですねー」

「今のは、全然セクハラじゃないだろ。せめて、真中さんのような可憐さを見習えって、忠告してやってるんだ」

「はい、通報しまーす」

 このおバカな会話の最中に、係長の携帯が鳴った。

「おう、嶋村か。どうだった」

 事件現場の雑居ビル近辺で聞き込みをしている嶋村先輩からだった。

「おう、わかった。ご苦労」

「どうだったんですかー?」

「おう、近隣の全ての店を当たったが、有益な情報はないそうだ。それと、非常階段が写る位置にある防犯カメラもないそうだ」

「防犯カメラもないんですか」

 私が言った途端、鑑識係から刑事課に電話がきた。係長が立ち上がって面倒くさそうに取った。

「おう、そうか、ああ、わかった」

 係長は少し難しそうな顔をした。

「ジャック・アームストロングの部屋は、荒らされた形跡もなく、第三者の侵入も考えにくいそうだ。それから、検死結果が出た。死因は全身打撲によるショック死。それ以外に不審な点はないそうだ」

 とはいえ、私たちは継続して、事故あるいは自殺の線で捜査することを話し合った。

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