第8話 写真発見

 刑事課で私と京子と係長が話し合っていると、大学の寮を捜索している高木先輩から連絡がきた。

「ん? 写真?」

 係長は怪訝な表情で携帯を手にして聞いていた。

「おう、わかった、ご苦労。アームストロングの部屋で、本人と女が一緒に写っている写真が見つかった。二人とも、ジャケットを脱ぎかけているようなポーズで写っているらしい」

「ジャケットを脱ぎかける……」

「露出狂じゃないんですかー」

「いや、京子、それは……」

 私たちはおバカな会話を続けてしまった。


 先輩たちが刑事課へ戻ってきた。高木先輩は、私たちにアームストロングさん宅にあった写真を見せた。

「おう、何だよ、バカップルみたいだな」

「確かに、二人とも、二の腕が完全に出てる状態ですね。脱ぎかけてますね」

「そうだな」

 全員が、ホワイトボードに貼られてあるアームストロングさんの遺体発見時の写真と見比べていた。

「何か関連があるのかもしれんな」

「この女性……デービスラボにいた方に似てるような気が……」

「そうねー、確かー、飯島さんだったはず」

「そうね、飯島さんね」

「おう、俺の運命の美女二人と比べると、いまいちだな」

「係長ー、もう昭和じゃないんですよー。めっちゃセクハラですねー、女の敵ですねー」

「俺にとってってことだろが! みんな自分の好みってもんがあるだろ。っておい、磯田、どこに電話してる?」

「セクハラ相談窓口ですけどー」

「わかった、俺が悪かった、謝る、謝る、すまん」

 キャリア組の上司を謝罪させている京子を見て、嶋村先輩と高木先輩の表情は凍っていた。

「あ、んん、よし、飯島ときこを当たろう。香崎、磯田、お前ら頼むぞ、明日でいい」

 係長は、私と京子を見て指図した。


 翌日、私と京子は大学を訪れた。研究棟の入口前で飯島ときこさんにばったり出会ったので、その場で話を聞くことにした。飯島さんはひどく落ち込んでいるように見えた。

「アームストロングさんの自宅に、写真がありました。これ、飯島さんですよね?」

「……ええ」

「ジャケットを脱ぎかけているような感じで撮られた写真ですが、何か理由があったのでしょうか?」

「いえ、ジャックはふざけた写真を撮るのが好きで、そういうポーズになっただけです」

「昨日私たちがラボに行った時、何人かがあなたの方を見て意味深な表情をされてました。飯島さん、アームストロングさんとは研究室仲間以上の関係だったのではないですか?」

「……ええ、ジャックとは以前に付き合ってました。だからその写真があるんです」

「えー、そうなのー」

「アームストロングさんが遺体で発見された時、この写真と同じように、ジャケットが脱げかけた状態でした。そのことについて、どう思われますか?」

「あ、そうですね、ジャックはただふざけてたんだと思います」

「そうですか。アームストロングさんは、背中に大きくAとプリントされた赤いジャケットを着ていましたが、心当たりはありませんか?」

「んー、私はそんなジャケット、見た記憶がないです」

「そうですか。ありがとうございました」

 飯島さんは足早に去って行った。守衛室前へ行き、私たちが車に乗り込んだ時、飯島さんらしき人物が原付バイクで大学から出て行くところだった。私たちは刑事課へ戻ることにした。


 刑事課では係長がラボのログイン記録の表を見ながら、ぶつぶつとつぶやいていた。

「係長、飯島ときこですが、アームストロングさんの元彼女でした」

「おう、そうか」

「係長ー、何やってるんですかー」

「んー、パソコンのログイン時間をわかりやすく表にまとめてるんだ。ほら、見ろ、ログイン時間が最大で58分の開きがある人物がいる」

「それー、昨日も言ってたやつですよー。全員1時間以内で再ログインしてるって」

「おう、そうだ。だがな、1時間あれば、大学から事件のあったビルまで往復可能じゃないか?」

「そうですかー、結構遠いですよー。国道、渋滞してますしー」

「バイクだったら、混んでる道でも走れるだろ」

「係長、飯島さんですが、原付きバイクに乗ってます。大学から出て行くところを見ました」

「おう、ホントか」

「そういえばー、そうよねー」

「試してみるか」

 係長がそう言うと、少し離れた席にいる山崎課長が首を横に振った、しかもとてつもない速さで。

「村田係長、いけません。バイクで渋滞中の車の横をすり抜けるのは、路側帯を走ることになるかもしれない。道交法違反です」

 山崎課長は毅然と言い切った。

「えー、課長ー、今度また課長の奥さんと女子会するんですけどー、課長ー、先週、生活安全課のあかりちゃんと食事行きましたよねー」

 京子の必殺技、合法的な脅迫が出た。

「ん、ごほん、ごほごほ。あー、えー、私は君たちの話は何も聞かなかったし、何も知らない気がする……ん、ごほん」

 課長はわざとらしく天井をきょろきょろと見上げていた。

「おい、お前ら」

 係長は、嶋村先輩と高木先輩を見ながら、ほくそ笑んだ。

「え、マジですか……」

 高木先輩は悲痛な顔になった。そして嶋村先輩が高木先輩の肩にポンと手を置き、素早く深呼吸した。

「じゃんけんぽん!」

 嶋村先輩は静かにしゃがみ込んだ。対して高木先輩はグーを出した手をそのまま上に突き上げた。チョキを出した嶋村先輩が負けたのだ。

「じゃ、嶋村、よろしく」

 係長はまるで他人事のように言い放った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る