第3話 千葉ラボへ

 案内図を見て、私たちは二階へ上がった。

「千葉ラボ。入ろっか、小春」

「あれ? デービスラボのはず……」

「いいじゃん、入ろう」

「え、京子、ちょっと」

 京子はずかずかと千葉ラボへ入って行った。

「うわー、広い。さすが理系の研究室ねー」

「そうね、広いわね」

 私も広さに驚いていたら、顕微鏡を覗いている若い男性が私たちの方へ振り返った。

「あ、あの、どちら様でしょうか?」

「あ、失礼しました、T県警の香崎です」

「磯田です」

「え、刑事さんですか。どんなご用でしょうか?」

 男性は実験を止めて立ち上がって私たちに対応した。

「実は、こちらの大学院生ジャック・アームストロングさんが、昨日、遺体で発見されました」

「……え……」

「お知り合いでしょうか?」

「ええ、はい、知っています。同じ大学院に所属していますので。でもジャックはここじゃなくて、隣のデービスラボの所属です」

「知ってますよー。でも関係者は全員事情聴取なんですー」

 京子は相変わらずの頭悪そうなギャルっぷりな言葉使いで話した。

「お名前を伺ってもよろしいですか?」

 私は困惑する男性に尋ねた。

「あ、はい、僕は増田てつやといいます。千葉ラボ所属で、助手をやっています」

「増田さん。助手の方ですか。で、こちらのラボには、他にどなたかいらっしゃいますか?」

「はい、ラボの運営者の千葉教授、それと二人の大学院生が所属しています。あっ! 実験器具には手を触れないで下さい」

 増田さんは、顕微鏡を覗こうとする京子に言った。

「あー、すいません。私、文系だったからー、こういうの見ると無性に触りたくなっちゃって」

「京子、みっともないから」

 私が注意すると、京子は口を尖らせて反省してますアピールをした。

「刑事さん、文系だったんですか」

「はーい。私ー、これでも名王大学法学部出身でーす」

 京子はおバカなノリで言った。

「え、すごい、名王大学ですか。文系から理転して、ここに来た院生がいて、その人も名王の法学部だったはずです」

「へー」

 京子は室内の装置を物珍しそうにきょろきょろと見回していた。

「他の方たちの名前をお願いします」

「あ、はい、えっと、ナターリエ・シュルツ」

「ん? ナタデコ……?」

「ちょっと京子、ナタデココじゃないわよ」

「ごめんごめん」

「ナターリエ・シュルツさんです。ドイツからの留学生です」

「ナターリエ、シュルツ、と」

 私はメモを取っていた。

「それと、真中めぐみさん」

「え?! 真中めぐみー?」

 京子は即座に反応した。

「はい、真中めぐみさんです。名王大学出身の」

 京子は驚いていた。

「京子、知ってるの?」

「うん、私の大学時代の親友かも。法学部卒業してー、名王の理学研究科へ進んだんだけど、辞めたって聞いてて」

 京子は珍しく複雑な表情だった。

「じゃあ、間違いないですよ。真中さんは名王の大学院を中退してから、ここに来たって聞いてますから」

「あ、じゃあ、めぐみだー」

 京子は少し嬉しそうに昔のことを思い出しているようだった。

 千葉ラボには、千葉ひでお教授、助手の増田てつや、ナターリエ・シュルツ、真中めぐみの四名が所属していることがわかった。

「めぐみは、元気にやってますかー?」

「ん、いや、最近元気ないみたいですけど」

「んー、そう……」

「それで、ナターリエさんと真中さんは今どちらに?」

「二人とも、まだ今日は来てませんね。真中さんはバイト終わってから来るはずですよ」

 私たちは増田さんのアリバイを聞いてから、隣のデービスラボへ向かった。

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