第2話 捜査開始

 翌日、私は刑事課でホワイトボードに、身元が判明した死亡男性の情報を書いていた。名前は、ジャック・アームストロング。26歳、アメリカ人、大学院生。死亡推定時刻は、5月13日の午後6時頃。

「アメリカの大学か?」

「いえ、国内の大学です」

「おう、じゃあ、留学生か」

「国際インターナショナル大学の大学院生です」

「ねー、小春ー。国際インターナショナルって、意味が重複してない?」

「そうよね……」

「おう、何だ? その変な名前の大学は? 聞いたことないぞ」

「え、係長、それを私に言われても……」

「そんな大学、聞いたことないんだけどー」

 係長と京子から矢継ぎ早に言われるのだが、私にもその大学に関する知識はないので困った。私は困りながらも、大学名や所属先の生命科学研究科など、被害者情報をホワイトボードに書き続けた。

「誰か、聞いたことないか?」

 係長が高木先輩と嶋村先輩に尋ねた。

「そんな大学、知りません」

「全く聞いたことないです」

 二人ともそっけない返事だった。

「学生証によると、あれ、うちの県にある大学ですね」

「おう、なんだ、うちの県かよ」

 係長もそっけなかった。

「でも、この人、ハンサムよねー。背も高いしさー」

「おう、俺と同じだな」

 係長の相変わらずの親父ギャグだったが、京子もツッコミを入れずにスルーした。高木先輩と嶋村先輩が失笑していた。場が少し寒くなった。

「えーっと、アームストロングさんは、結構有名なインフルエンサーでもありました。インスタポンドのフォロワー数が9万人います」

「えー、すごーい」

「彼は、自撮りをしている最中に、何らかの原因で転落したということか」

「事故ならそうなりますね」

「よし、まずはその大学で聞き込みだな。香崎、磯田、頼むぞ」

「はーい」

 私と京子は国際インターナショナル大学へ向かった。


 京子は車の中でスマホを使って大学のことを調べていた。

「国際インターナショナル大学は、最近できたばっかりの大学ねー。だから知名度がないのねー。学生の大半が外国人留学生で、教員の大半も外国人だって。留学生は基本的に学内にある学生寮に住むのか。でも大学院のことは書いてないわねー」

 京子がいろいろと調べながらぶつぶつと話しているうちに、国際インターナショナル大学へ到着した。


 ごく普通に街中にある大学だった。

「国際インターナショナル大学、やっぱり変な名前ね」

「そうよねー、小春。英語表記だと、インターナショナル・ユニバーシティだって」

「なぜこうなったのかしら、この大学の名前……」

 キャンパスは街の風景に自然に溶け込んでいた。広大な敷地が、住宅地の中に存在していた。私たちは地図を頼りに正門へ来た。そこで守衛と話し、車を停めて、アームストロングさんの所属する研究室へと向かった。


「広いわねー、小春、この大学」

「ほんとね」

「国立サッカー場、何個分かしらねー」

 京子は相変わらず天然な感じだった。

「えっと、ここかな」

「んーと、第三研究棟、生命科学研究科。ここねー、ここのデービスラボねー」

 三階建ての巨大な建物の玄関口に大きな看板が上がっていた。インターフォンを鳴らすと、先ほどの守衛室へ通じた。警察手帳を見せるとオートロックのドアを開けてくれた。私たちは中に入った。

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