第10話 そばに居る必要がある
「大史……。あのね、美佳さんと話があって今日は来たの。ねぇ、病院に戻ろう? 大史は今は何も考えなくていいの。怪我が完治してからまた考えればいい事だから。ね」
「じゃあ姉としてわたしが病院まで送って行くよ。お母さんは大史を連れてきて。わたしは車のエンジンを掛けておくから」
二人揃ってなんで俺を病院に戻そうとするの? 折角頑張って帰ってきたんだよ? 家に着くまでの記憶は途中抜けてるけど頑張ったのは事実だし……。帰って来たのに……。
「いや、俺はこの家に残る。美佳に愛してるって伝えて続けなきゃならない。俺の使命だから」
リビングに居る皆の顔色が更に暗くなる。
なんで皆んなそんな複雑そうな目で見てくるんだ……。
「もういいんだよ。解けたんだよ」
美佳に至っては口元をオロオロさせてゴニョゴニョ言いながら近づいて来るし。
抱きつきたかった。でも未だに洗脳が解けたのかどうか分からないからなのか無意識に後退りしてしまう。
後退りした俺に向ける美佳の表情、視線はどこか柔らかそうな、それでいて悲しそうに見えた。
「怪我の治療だけだから、ほら行こう?」
確かに怪我は治療するべきだと理解している。でも、美佳を俺が愛してるって伝え続けないと……。
「わかった。……美佳が来てくれるなら俺は行く」
皆んな俺の言葉を聞いてまた俯いてしまう。
俺の発言は全てタブーなのか? この人が一緒に居ないと嫌だって言うのは子どもみたい?
でも俺は美佳のそばに居る必要がある。
「美佳さんには後から来てもらうから大史は先に病院に行こう」
そう言われては納得せざるを得ない。半信半疑だったが俺も身体が治った状態で美佳のそばに居たかった。
「じゃ、じゃあ待ってるから……」
ベッドでさっきまで寝ていたはずなのに疲れが取れていないのか早く横になりたかった。車で横になろうかな。
◇◇◇
「美佳、大史さんに酷い事をしたんでしょ? そばに美佳が居るのはやっぱり邪魔な気が——」
「私は大史に全て従う。そばにいて欲しくないのなら償いはするけどそばに近寄るなんて事はしないし、そばに居て欲しいと言ってくれたら罪を背負ってそばに居る」
大史は一緒に居たいって言ってくれたけどお母さんの言う通り今はそばに居るべきじゃない気がする。私もそばに居たいけど今は大史の容体を回復するのが先だと思うから……。
「私がこんな風に主張する資格なんて無いけど大史が回復したら話はしたい」
お父さんは何も言わずに下を向いているので私の意見に賛成しているのか反対しているのか分からない。
お母さんも前かがみに顔を伏せているので私の話をどう思っているのか分からなかった。
ただ椎名だけは気まずそうに眼を泳がせているだけだった。
私もだけど椎名にはちゃんと大史がこうなった償いをしてもらわないと。
大史の容体が回復しても一緒に居てほしいと言うのなら私は大史のそばに居る。
大史のそばに居る必要があるかもしれない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます