第6話 なんで涙が…… 美佳視点

「あっ! 美佳ちゃん。元気してた? あれ? 健康的な顔つきじゃなくなったね。大史さんにご飯作ってもらってないのかな? フフッ嫌いな人が作ったご飯なんて食べないか」



 家に来てくれたのは椎名だった。

 早速旅行から帰って来てからのイライラした話を聞いてもらう事にする。


「……ホントあいつキモくてさ。でね、自分で自分の事を刺してって言ったら、自分で骨折ってんの」


 私がイライラした愚痴を何とか面白い話にでもしようと笑いながら話してるのに椎名は顔を引き攣らせてる。


「あれ? あのゴミ箱には何が入ってるの? 袋が凄い盛り上がってるけど」


 椎名が指を向けていたのは私が破ったり、ハサミで切ってバラバラにした写真が入った袋だった。


「あー、これは結婚式とか、一番思い出に残ってるらしい写真を破って詰め込んだ袋だよ」


「う、嘘……。それは流石に大史さんが可哀想。私が始めた事だけど、こんな事になるなんて。だって、私、素人だよ? こんな事になるなんて思わないじゃん」


 椎名は顔色を青くさせながら聞き取れないくらいの大きさでゴニョゴニョと言っていた。


 なんでそんな表情をするの? 嫌いなアイツの宝物なんて壊して当然でしょ? いや、でも普通なら許される事じゃ無い……。


 私が嫌いな奴の宝物を壊す事を肯定している間に椎名はカバンに手を入れて一つのアルバムを取り出した。


「これって私がこんなアルバムいらないからって旅館で椎名に渡したやつだよね?」


「う、うん。そ、そうだよ。……本当は違うけど」


 椎名は先に言わせてと前置きしてから『ごめんなさい』と言って手元にあるアルバムを広げ出した。


「これは、実はわたしが温泉旅行に持って来て欲しいって無理強いして持って来てもらった美佳ちゃんの宝物だったの」


「いや、そんなゴミみたいな写真だらけのアルバムが宝物なわけないでしょ」


 椎名は何をわけの分からない事を言ってるのだろうか、要らないから旅館に持って行った。宝物じゃ無いから旅館に持って行ける。


「あぁ……。そんな、ゴミなんて……」


 椎名はさっきよりも一段と顔色を青く染めて、手元に持っているアルバムをゆっくり見る事が出来ないほど手を震わせている。


「どうしよう、どうしよう。……そうだ、メッセージのやり取り見て! どれだけこのアルバムを持って行くのが嫌だったか、渋っていたかが分かるから」


「……わ、わかった」


 椎名の勢いと、ほんの少し胸のつっかえが引っかかっていたのでメッセージを確認する事にした。


 メッセージを確認すると、椎名に言われた通りそこには私が渋り続けるメッセージがあった。


『お願い! 美佳ちゃん持って来てよ!』

『えー、ラブラブを自慢したいけどお金より大切なものだからなぁ』

『いい事してあげる! 持って来てくれたら』

『失くさないって誓ってくれるなら』


 あれ、本当だ。私はめっちゃ渋ってる。


 ピロンッ


 ……てか、こいつまた自撮りと『愛してる』ってメッセージ送って来やがって。

 コイツと昔はどんな話をしてたんだっけ?


「あれ……? なんか、胸が……」


「美佳ちゃん……?」


「このメッセージのやり取りって本当に私がやっていた事なの?」


 私はアイツとのやり取りで度々現れるワードを見て変な気持ちになった。

 失っていた記憶を思い出したような、大切な事を忘れていたような。

 固い何かが消えて行く、お風呂に入浴剤を入れた時にシュワシュワ溶けるのと似た不思議な感覚。


 でも、信じられなかったので胸がモヤモヤしたワードが映った画面を見せながら椎名に尋ねてみた。


『私のカッコよくて優しくて、強い私の王子様』


 椎名は唇を噛み締めて、涙を無理やり作り出したかのようにポタポタ流し始めた。

 何故か椎名のそれを見て私は自分がプロポーズされた時の事を思い出した。



 ◆◆◆


「俺は美佳の王子様になれるかは分からない。でも、美佳は一生俺のお姫様だ。生涯俺のそばに居続けて欲しい」


「はい! 一生そばに居ます! まぁ私はずっと王子様だと思ってるけどね……」


 辺りは暗く、対岸には観覧車やホテル、ビルが一望できるような場所。周りにも人は居ない、まさにプロポーズ後にイチャイチャ出来る絶好の機会。

 そんな二人の甘々な雰囲気を壊す二人の共通の友人が草むらから現れる。


「はい! ここで夫婦誕生! な、椎名」


「ちょっ、ばかぁなんで出て行っちゃうかなぁ? ……おめでとう。二人が結ばれてくれて嬉しいよ」


「椎名、そんなにポタポタ涙を落とさないでよぉ。私まで泣いちゃうじゃん」


 美佳は大史に抱きついていたかったのを我慢して涙を流しながら椎名の背中をさする。


「椎名! 次は俺たちだな!」


「う、うん! 二人みたいになれるように……ね」


 椎名も美佳も涙を流し続けた。

 一人は友人が一つ新たに階段を上った事に対する祝福。

 一人は友人のこれからを心から願い、そして自身の事を選んでくれた大史に対して。




 ◇◇◇


 あれ……なんで私、泣いてるの?




——————————————

パソコンが治りました!(多分)

技術ってすごいですね。


それから、なんと! 

当作品が恋愛、日間2位になりました!!

ありがとうございます!!


なんか最近元々低かった文章力が更に下がった気がします……。

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