第3話 真実は残酷

 昨日は同じベッドで寝るなんてキモくて無理と言われたので一人泣きながらリビングのソファで眠りに着いた。


 美佳が変わった翌日、封筒が家に届いた。

 封筒の中身はまだ見ていないが黒い封筒に白く手紙と書かれているのだから手紙なのだろうとは思う。

 誰からの手紙なのかも書かれていなければ宛先も宛名もない。更に切手も貼られていないので直接ポストに投函されたのだと分かる。


「もしかすれば……」


 俺はこの奇妙な封筒に入った手紙に希望を抱いてしまう。

 普通に考えれば身に覚えのない封筒など中身が何か分かっていたとしても開けたくないモノなのに今は開けると言う選択肢しか頭になかった。


 恐る恐る封筒を開くと一枚の白い紙が一度だけ折られて入っていた。

 俺はそれを慎重に開いた。


『この手紙を読んでいる頃にはもう心が擦り切れてしまいそうな程苦しい思いをしたでしょう。美佳から君が死ぬほど美佳の事を愛していると聞いているよ。そんな美佳に嫌われてどうだった? 離婚したくなった? 話を戻そう。今の美佳はわたしによって洗脳されてる――』


「洗脳……」


 ここまで読んで俺は一度息を吐ききった。

 美佳は俺の事を心の底から嫌っている訳じゃなかったという安堵と、今は洗脳されているという苦しい現実が相まって俺の心を安心と不安が混じり合い、歪んだ感情にさせる。


「美佳は嫌いでもないのに俺を傷つけている……」


 俺は深呼吸をしてから再度手紙を読み始める。


『大丈夫大丈夫。高々数日の洗脳だから心の深くまでは染まってないよ。それで、洗脳を解くことについてだけど――』


 俺は無意識に生唾を飲み込み喉を鳴らしてしまった。


『何をされても愛し続ける事。どれだけ傷つけられても、愛が冷めそうになっても愛す事。それさえ続ければいつかは洗脳が解かれるかもしれない。馬鹿だと思う? 洗脳も愛も同じ心理状態に関するモノだから解く可能性は十分にあるはずだよ。毒を以て毒を制すなんて言葉もあるくらいだからね――』


「愛……」


 美佳に傷つけられても、どれだけ愛が冷めても愛し続ければ……。


『私も大好きだよ! 大史』


 あぁ、これは美佳の夫としての使命なんだ。これを乗り越えないと美佳との子どもなんて作らせない。そういう試練が俺に与えられているんだ。

 だから、俺は絶対に美佳の事を愛し続けてやる!!


 そう意気込んだものの後少し文字が残っていたのでそれを読む為に手紙に目を落とす。今度は意思の籠った深呼吸をして読み進める。


『なーんてそんな訳ないじゃん。本気で信じた? 愛なんて無意味。無価値なの。でも身勝手にわたしが美佳に洗脳を掛けたお詫びで教えてあげる。美佳に掛かった洗脳を解くには――』


 ビリビリッ


 途中で文字が途切れていた……いや、今破られた。


「何いっちょ前に手紙なんて読んでんだよ。あとソファを濡らすなよ。汚れるだろ」


 大事な所。美佳が元に戻る為に必要な情報が書かれた部分が破られた。


「美佳、ソレ返して! 本当に大事なモノなんだって。お願いだから……返して」


 美佳は仕方ないと言わんばかりのため息を吐き破った紙を持った方の手を俺に差し出してくる。


「美佳! ありが――」


「なーんてするわけないじゃん。馬鹿にもほどがあるでしょ」


 ビリッ……ビリビリッ


 差し出されたと思った手は何時しか引っ込められており破った紙は何度も何度も修復不可になるほど更に破られていた。


「そんな……」


「残念でした。大切なモノを返してもらえると思って希望を掴もうとした瞬間絶望に落とされる人の表情って素晴らしいよね」


 俺は大切なではなく大切なを返して欲しいよ……。


 書かれていた情報が正しければさっき決意した愛すると言う行為も結局、間違ったものだという事になる。

 それに加えて肝心の正しい洗脳の解き方が分からないままになってしまっている。


「こうなったらもう奇跡を願うしかない」


 俺は賭ける事にした。洗脳と呼ばれるものが愛の力によって解かれるという奇跡に!

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