幕間 先読みの大賢者と愚直な龍人
俺はずっと妹を守ってきた。あのまま外に出していたら、きっと妹は心を無くしていただろう。それほど黄金眼は妬みの対象であり畏怖の対象である。
だから、妹を家に閉じ込めた。
俺は悪役、嫌な奴に徹する。妹がその足でしっかりと歩めるその日まで。
妹には広い視野を持ってほしかった。人族を蔑視するのも、そのための口実だ。
そんな俺を軽蔑して、豊かな考えを養ってほしかった。
ガディア大陸のとある町。交通網の要衝としての土地柄、多種多様な種族が集まる。
その酒場で、周りとは明らかに違うオーラを放つ老人と向き合う。
「お前さんも辛いのう。変な形で妹さんを溺愛しておる、他にも方法はあるじゃろうて」
銀色のひげを蓄え深い皺を年輪のように刻んだ、如何にも賢者という風貌の人族。
先読みの賢者―――――、人によってはお節介賢者とも呼ばれ、未来を見通す力に長けている。俺が唯一胸襟して語り合える人物だ。
「俺にはこの方法しか思いつかない。馬鹿げていると思うだろうが、人族の物差しでは測れないことだ」
いや、この賢者ならもっといい知恵を出してくれるかもしれない。
しかし、俺のちっぽけなプライドが、人に教えを乞うことを邪魔する。
「お前さんは一人前の戦士じゃ。儂の浅はかな知恵では付け焼刃にしかならんじゃろう。その気概を持って臨むのが大事じゃ」
その言葉を聞いて少し安心する。
「じゃが、そのままではいかんのう。もう一手欲しいところじゃ」
「俺もいつまでも閉じ込めておく気はない。いつかは外に出すさ」
「妹さんが、儂のようなシワシワの老人になってからか?」
皮肉を言って俺を挑発していくる。
「いずれ転機が来るだろうさ。機が熟すまで待つ」
老人は考え込んだ表情をする。
「年のころが近くていい人物がいるんじゃがのう・・・。その者ならばきっと妹さんとよい友人になってくれるじゃろう」
「それは龍人族か?龍人族はダメだ」
老人はにやりと笑っている。人を不快にする笑みだ。
「違う違う、人族の少年じゃよ。しかし、とても強い。儂なんか足元にも及ばんよ」
正直馬鹿げている。この老人が足者にも及ばぬ者など人族にいるわけがない。
「疑っておるな、無理もないことじゃ、その者はとある事情から閉じこもった生活をしておる。過去にその両親から相談を受けてな、今は使っておらん儂の屋敷に住んでおる。だから、一部の上級冒険者しかその存在は知らん」
「まるでおとぎ話の中にいる伝説の生き物だな、実際には存在しない」
ぞんざいな態度をとり話を一蹴する。
「お主は妹さんに広い世界を見せてやりたいと言っていたな。彼の地に住むその少年は、外界と遮断された環境じゃ。妹さんが多くの者から疎まれることはなく、しかも、外界を旅できる」
「人族の諺に”愛おしい子には旅をさせよ”というものがあったな。それか」
「まさにその通りじゃ、儂の好きな格言じゃ。人族の寿命は少ない、ましてやその少年の命はなおじゃ」
「その少年の死期が迫っており、今しかその機会がないと言いたいのだな」
老人は深く頷く。その目はとても冗談を言っているようには見えず、とても深く思慮された眼だ。
「まあ、儂一人の話だけでは信じられんじゃろうて、また、後日、友人にも手紙を書かそう、それからよく考えて決めてもいいじゃろう。しかし、好機は二度と手に入らぬと心得よ」
とても老人のものとは思えぬ鋭い眼光で俺の心を見透かす。
「わかったよ、あんたがそこまで言うのなら考えておく」
もう、この話は終わりにしたかった。正直、妹を外に出すことに、いい気分がしていないからだ。
後日、大英雄で最強の第一人者、グラムから直筆の手紙が届いた。
これほどの強者たちが、俺の妹に心を割いてくれている感謝の気持ちと、少年に会って手合わせしてみたいと思う好奇心に押され、俺は妹を連れて、討伐依頼を理由にしてその少年の元へと向かう。
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