第5話 䍃璃の機転はどんなときでも
「䍃璃様、おれと、付き合ってください!!」
「すみません。わたしは今、勉学に励みたいのです。だから、誰もすきになるきはありません」
「で、でも、高校生活は青春だよ!?青春はあっという間だよ!?」
「そうですが、わたしの青春は勉学に注ぐと決めています。殿方はこの時期、どうしてもおんなを気になさる、ということはわかっていますが、わたしはそういうきもちにはなれないのです。すみません」
「おんな、そんなところで何をしている」
「亳杓…。おまえこそ、こんな放課後の教室になんの用です」
「おれは、ただ忘れた辞書を取りに帰って来ただけだ。おまえはおとこをたぶらかしているのか」
「ふ…、そんな無粋な真似、いたしません。そういうことで、申し訳ありませんが、
「おとこ、辞書を取りに来たついでです。倫理のノートをちょうど
「うむ。仕方ないな。それは仕事だからな」
「あ…」
広瀬を置いて、ふたりはノートと鞄をぶら下げ、教室を出て行った。
「亳杓、もう少し我慢できない?」
「それは無理だ」
「このままじゃばれちゃう。わたしの告白する場面場面、必ず亳杓が現れては、ふたりの関係を疑われてしまうじゃない」
「䍃璃が他のおとこと一緒にいるのは実に不愉快だ」
「…」
内心は嬉しい䍃璃。
「それでもね、亳杓、ばれたら、もうこの学校にいられなくなるかもよ?」
「何故だ。䍃璃」
「大戦争が始まるから…」
「…ふむ。おれも、最近ようやく䍃璃がまえに危惧していたふぁんくらぶとやらが厄介なのはわかってきた」
そう。亳杓が告白をきっぱり断るようになってから、亳杓にはすきなひとがいるにちがいない、と言う噂がだだっ!と広がった。その影響で、ファンクラブ内でも誰が亳杓の意中の人なのかと言う『意中の人狩り』が始まった。ファンクラブの端から端まで、亳杓に告白してくるのだ。
「いないはずがない!誰なの!?わたしかも!いいえ!わたしよ!!」
と言うようなかたちで…。
その全員の告白が一周してしまえば、一番最初に断った時、「すきなひとがいる」と言ってしまった以上、誰かしらそれらしき人がいなければ、不自然に見えてしまう。さて困った、と、䍃璃は頭をなやませていた。
『別れてみよう』
とまで亳杓を脅し、告白を断らせたのに、これでは逆効果だ。䍃璃の方も、潔癖な女子高生を演じるのは、とてつもなくしんどい。断る理由が、『勉学に励みたい』で、いつまでおとこをはねのけられるか…。
「どうしようか、亳杓。なにかいい案は無い?」
「それは、䍃璃が思いつかないなら、おれに思いつくわけないだろう」
「そうね…きいたわたしがあの時のわたしくらいばかだった」
「なぁ、もう公にしたらどうだろう?」
「…うん。ちょっとわたしもそう思ってたところ。このままじゃ、文化祭の前に亳杓のファンクラブが全員告白をおえるよね」
「だろうな」
「でも…公にしたら、また何が起きるか、想像も出来ないんだけど…。っていうか、したくない」
「…うん」
ガラガラ…。
「「失礼します」」
「おう。伯爵、百合、ご苦労。ふたりで運んでこんでも、40冊くらいひとりではこんでこい。仲が良いのか悪いのかわからんな、おまえらは」
「先生、一つ、聞きたいことがあります」
「なんだ、伯爵。おまえに質問されても教えることなど無いと思うが」
「先生は、どうしてわたしとこのおとこがいつも一緒に職員室に来るか、お解りですか?」
「ん?なんだ。なんの話だ」
「?」
亳杓も、いきなり何を言い出すのかと、内心焦った。
「わたしは、このおとこに救われたのです」
「な!」
スッ…。
口を挟もうとした亳杓を制止する䍃璃。
「入学して、しばらくたったころです。わたしは屋上から飛び降りようとしました。しかし、このおとこにみつかり、不本意ですが、説得され、命を拾われたのです。わたしはこのおとこが嫌いですが、このおとこは悪いやつではありません。だから、わたしはこのおとこの役に立ちたいとおもい、いつもノートを運びます。ただ、それだけです」
「そ、そうか…そんなことがあったのか。で…、それで、その話は何かに続くのか?」
「はい。わたしはそのとき、このおとこに頼みました。わたしのことをすきでいてくれ、と」
「「!」」
結城も、亳杓も、驚いた。
「このおとこが、わたしをすきでいてくれるなら、わたしは自殺はもうしない、と約束しました。だから、このおとこは、ここ最近のおんなからの告白を拒み続けているのです。わたしをすきでいつづけるために…。しかし、それは、いつわりの約束です。いつわりのすきです。このまま、このおとこに告白の嵐が寄せ、困らせるのはわたしの汚点です。このことを、わたしたちの担任に話しておいてくないでしょうか」
「い、いいのか?もしかしたら、伯爵、おまえが自殺しようとしたことが噂になるかも知れないんだぞ?」
「構いません。嫌いですが、一応、命のおんじんです。これ以上、迷惑をかけるのは本望ではありません」
「ゆ…おんな、そんな…」
「いいのです。おとこ。おまえは黙っていなさい。これは、わたしのひみつです。晒そうが晒すまいがわたしの勝手。これでおまえに貸がひとつなくなりました」
これが、䍃璃の機転、と言えよう。
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