第4話 䍃璃の過去
「そこのおんな、確か、首席でこの高校に入ったおんなだな」
「!なんで、あんたがここに!!??」
「どうしてそんなところに立っている」
「…もう…疲れたから…かな」
「ほう…疲れると、お前は屋上の淵に立つのか?おれには、飛び降りようとしているように見えたのだが…」
「…そうだけど、なにか悪い?」
「なに!?さすれば、死ぬつもりと申す気か!!」
「えぇ。まぁ、かんたんに言えばそうなるね」
「何故だ。おまえは頭も良いし、美しいではないか。なんの悩みがある」
「そんなぼんくらな頭でよく今まで生きて来たわね、あなた」
「ぼんくら?おれはおまえにはまけたが、一応2位でこの高校に入ったのだが…」
「知ってるよ。百合亳杓くん」
「ん?おれのなを知っているのか?」
「そりゃ知ってるよ。わたしのライバル…なんでしょ?」
「ライバル…そうか。そう言う風に言う生徒がいたな。それが何だと言うのだ」
「わたしね、小さな頃から、この派手な名前と、なんでも出来てしまう頭と体がどうしよもなく憎いの。もう、なーんにも出来ない馬鹿な只のおんなになりたいのよ」
「馬鹿なおんなにならもう成っているではないか」
「へ?」
「自分の命を、自分で絶とうと言う行為など、もっとも馬鹿で愚かな行為だ。おまえは、十分馬鹿なおんなだぞ」
「…!」
その、亳杓の言葉に、䍃璃は涙が止まらなくなった。どうして、今までこのひとに逢えなかったのだろう?もっと早く出会っていれば、この左手の傷はなかったかも知れない。
「おんな、兎に角、その淵からこちらに来ることを薦める」
「どうしようかな」
「なに?死ぬのか?」
「わからない。でも、ここまできてわたしは迷ってしまってる。なんで、あんたなんかに…あんたみたいななんにも考えていなさそうなおとこに自殺をやめるように説得されているなんて…すこし、馬鹿になった気分…」
「何も考えていない?それは違うぞ、おんな。おれは君がすきなのだ」
「へ!?」
ずりっ!!
「きゃ!!」
どさっ!!!!
『…………』
ふたりは、淵に足をかけた状態で、なんとか屋上の内側に体があった。
「…ふ…っ」
「?」
「あぁああああ!!!!ううぅううっっ!!」
「な、なんだ。おんな、何をそんなに驚いている」
「…!!!馬鹿なの!?泣いてるのよ!!」
「な、ならば、質問を変える。何を泣いている」
「わからない!!」
「は!?」
意味が不明だ。と亳杓は思った。
「死ねなくて…死ななくて…ホッとしてるの…!あとは…きっと嬉しいからじゃない!?」
「何が嬉しいのだ」
「あんたがわたしをすきだって言ってくれたからよ!」
「そうか」
「でも…聞くけど…、もし、聞いたうえで、洒落にならないコタエだったら、あんた、○すから!!」
「ぬ!物騒な言葉を使うのだな…。聞きたいこととはなんだ…」
「すきって、どういう意味!?」
「ん?そのままの意味だが…」
「だから、すきにも色々種類があるでしょ!!」
「しゅるい…?すきに種類があるのか?」
「あったりまえでしょ!!友達のすきと、異性のすき!!どっち!?」
「正直にいっていいのか?」
「もちろんよ!」
「おんなとしてすきだ」
「!!」
その時、䍃璃は、死ぬのは、死のうと思うのは、もうやめよう…。そう思った。
「…じゃあ、わたしとつきあってくれる?」
「かまわない」
「秘密よ?」
「何故だ。それはふつう公にするものではないのか?」
「わたしとあんたが、どれだけ学校中のにんきものか、あんた知らないの!?」
「なに?そう…なのか?」
(本当に知らないのかよ…このおとこ…)
初めて、亳杓の頓珍漢ぶりにあきれたのは、このときだ。それでも、このとき、䍃璃は亳杓に恋をした。自分を、特別視しないのに、自分をすきだと言ってくれる。そんな不思議なおとこは初めてだったからだ。
「たしか、百合亳杓、って言ったよね、あんた」
「あぁ。おれは亳杓だ。おまえは、伯爵䍃璃と言うのだろう?新入生代表の挨拶は見事だった。おれに勝るものは初めてだった。それに、おんなをみて、美しいと思ったのも、おまえが初めてだ。それをおそらく、おまえのいう異性のすき…というのだと思うぞ」
「じゃあ、亳杓、約束をして。わたしと、あんたの関係は、他言無用。内緒で付き合うの。いい?」
「な、なぜだ。ふつうにつきあえばいいではないか」
「わたしとあんたはとてももてる、ということはわかってる?」
「おまえは人気があるらしいことは耳に入っている。なんだか、クラスのおとこたちがおまえの話をたくさんしていたからな」
「わたしだけじゃない。あんたも、凄く人気があるの。それをまず自覚して。でなければ、わたし、またあの淵に足をかける」
本気でない脅しをする。
「そ、それは待て。話を聞く。解りやすく教えてはくれないか」
「あんたとわたしは仲が悪い、と言う設定にする。でも、この前、ちょうどわたしとあんたはクラス委員になったでしょ?だから、自然にクラスの中では話せる。学校を出ても、極力外では逢わない。デートするのは、年に一回の文化祭と体育祭の準備中と当日の仕事の最中。わたしとあんたは、内申をきにする、と言う理由で、どちらの実行委員にも率先して立候補する。そうすれば、公で一緒にいられる機会を、何とか多少取得できる」
「あとは、逢ったり、話したりはしないのか」
「するわ。裏庭で」
「うらにわ…とな?」
「そう。出来る?」
「そこでしか逢ったり話したりしないのか?」
「ご不満?」
「いや、よくわからないが、おれよりあたまのいいお前が言うのだから、それが最善の策なのだろうな」
「それと、もう一つ!!」
「な、なんだ」
「わたしのことは、おまえではなく、䍃璃と呼んで。わたしは、亳杓と呼ぶから!」
そう言うと、亳杓に乗っかっていた体を起こし、ふん!とそっぽを向いた。
「?よ…よくわからんが、わかった。お…䍃璃…と呼べばよいのだな」
「うん。毎日、ちゃんと、裏庭に来るのよ!解った!?」
「あぁ。解った。約束しよう」
――それがふたりの物語のはじまり…。
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