第3話 例えば言ってみた

「䍃璃様、この手紙を、亳杓くんに届けて欲しいの…」


「なんでわたしなのですか?わたしとあのおとこはとても仲が悪いですよ?」


「だから、なんの遠慮もせず頼めるの。ね、おねがい」


そう言って、おんなは手紙を䍃璃に押し付け、去って行った。


(…)


「おんな、その手紙はなんだ」


「お前にです。4組の方から預かりました。どうするのですか」


「よし。かせ」


「…」


䍃璃から、手紙を奪うと、亳杓は手紙を䍃璃に押し付けたおんなを追った。


「おい。君」


「あ!亳杓くん!」


「この手紙の返事を今しようと思う。どうだ」


「あ、はい!」


「すきではない」


「…え?」


「すきではない。といっている」


「そ…そんな…」


うるうる…とおんなの瞳が涙で潤む。一瞬、亳杓の優しい心に棘が刺さる…。こう言ってよかったはず。だって、すきではないのだから。


「酷い!!あんまりだよ!!亳杓くん!!」


そう言うと、おんなは廊下を悲しみのダッシュで駆け抜けていった。


「…」


⦅あれでいいの⦆


コソ…ッと、䍃璃が耳打ちした。


⦅そうなのか…?⦆


⦅えぇ⦆


しかし、次の日、学校はえらいことになった。



―次の日―


「ねぇ!!昨日!亳杓くんがおんなのこを振ったって!!」


「聞いたー!!〔すきではない〕とか言われたらしいよー!!」


物真似までして、友人に報告する輩もいる。


「䍃璃様!!」


「…なんでしょう」


「亳杓くんの様子がおかしいらしの!!」


「あのおとこはつねにおかしいでしょう」


「あ…やっぱり、䍃璃様にはいつも通りなの?」


「どういう意味ですか?」


「え…あ、もしかして、䍃璃様と何かあったんじゃないかって…噂で…」


「なぜそんな噂がたつのですか?あのおとこが誰をふろうが、ふるまいが、わたしにはなんの関係もないことです」


「だ…だよね」


「はい。それより、数学のノートを集めなければなりません。あのくだらないおとこがどこにいるのかご存知なら、教えていただきたいのですが…」


「あ、屋上に行った…とか…」


「そうですか。一人でわたしにクラス委員の役目を押し付けようなどと…。なんと卑劣なおとこなのでしょう…。仕方ありませんね。屋上に行ってきます」


そう言って、䍃璃は屋上へ向かった。





―屋上―


「亳杓」


「あ、䍃璃…」


「ふった…そうね」


「あぁ…。君に言われた通りにしてみたのだが、泣かれてしまった…。まさか、このおれがおんなを泣かせるとは…とてもおとことして情けない」


「…それは仕方ないの」


「…そうなのか?」


「…はぁ…」


䍃璃は、ふか~い溜息を吐いた。亳杓は何もわかっていない。


「しかし、泣かせたのだぞ?ひとを傷つけるのはひととして最低な行為だ」


「そうね。でもね、亳杓。誰も傷つけず、いきてゆけるひとなど、誰一人としておないの」


「そうだろうか」


「違うの?」


「だって、おれは䍃璃をきずつけたら、一生後悔する。䍃璃は、おれを傷つけても何も思わないのか?」


「それはね、亳杓、大事にすべき人と、そうではない人を、ひとはどうしてもふりわけなければならない時があるの。それは、仕方のないことなの」


「…そう…なのだろうか」


「じゃあ、亳杓はすきだと言って来たおんなすべてにすきだというの?そして、デートをし、くちづけをし、セックスをするの?誰とでも?何も思わずに?」


「そんなことするはずがないではないか!おれがすきなのは䍃璃だけだ!」


「そうでしょう?そういうことよ。亳杓、あなたはすきでもないひととつきあうことはしなくていいの。だれもかれも受け入れると、逆にひとをきずつけ、自分もきずつくことになるの。わかる?」


「…そうか…。その話はなんとなく分かる気がするな…。さすがは䍃璃だ」


「じゃあ、今度からラブレターや、告白は自分で断りなさい」


「うむ。そうしよう」



―1週間後―


「亳杓くん、わたしと付き合ってください!」


「無理だ。すまない」


「だれか…すきなひとがいるの?」


「ああ」


「誰?」


「それは言えない」


「なんで?」


「君にそれを言う必要があるか?」


「ない…です」


おんなは、泣きながら裏庭を去った。


「……」





ガサ…ッ!


「あれでいいか?」


「うん。よくできました。だいぶ慣れたみたいね」


「うむ。しかし、泣かれるのは未だ慣れぬな…。非常に心が痛い」


「本当に、亳杓は優しいからね。それでも、拒み続けないと、いつかわたしはあなたのまえからいなくなるよ」


「なに!?どういう意味だ、䍃璃!」


「わたしは亳杓がすき。だから、誰から告白されても、一度も『別に嫌いじゃない』とか、『すきなひとはいない』とか、あいまいなことを言ったことは無い。なのに、亳杓がおんなに告白されるたび、『嫌いじゃない』とか『すきなひと?そんなものは特にいないが…』なんて言っていたら、わたしが亳杓を嫌いになるかも知れないよ?」


「そ、そうなのか!?それは困る!!おれがすきなのは、䍃璃だけだ!!」


「じゃあ、ちゃんと、それを言葉と態度に表して。断り、拒み、突き放すの。出来る?」


「…難題だが、頑張ってみる」


(もう…亳杓は本当に頼りがいがないな…)


そう思っていても、䍃璃は、亳杓を嫌いになれない。なぜなら、亳杓があの時、助けてくれたからだ。あの時、亳杓の優しさがなければ、䍃璃は、今、ここにいない。

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