第2話 どうかふたりにしないで

「䍃璃、今日もまた一緒にノートを職員室に持っていけたな」


「うん、亳杓が2冊持ってくれたから、だいぶ楽だった」




!!!!???―――――…となっている人もいると思うので、説明します。





この2人、付き合ってます。





―放課後の裏庭―


「クラス委員て、楽しいものだな。いつも2人でいられる。䍃璃は本当に頭がいいのだな」


「当たり前。表向きいがみ合いでもしないと、私たちのが黙ってない。ふたりが付き合ってるなんて言ったら、今まで味方だった人たちも、引き裂こうとか、認めないとか、応援が、否定に変わる。でも、わざといがみ合っていれば、公ではなくても、こうしてそおっと付き合うことが出来る…、そう言う環境を作りたかったの」


䍃璃は恥ずかしげもなくそう言う。


「䍃璃はおれのどこをそんなに気に入ったんだ」


「今更だね」


「そうだな。たしかに」


「亳杓、あなたがあなただから、よ」


「うーん。わかりづらい」


「そう?これほどわかりやすいことはないとおもうけど。なら聞くよ?亳杓はなんで私のことがすきなの?」


「あぁ…たしかに…君が君だからだな」


「でしょう?」


『……』


しばらくの沈黙がふたりを包む。


「これだから、ふたりにしないでほしい」


䍃璃が言う。


「そうだな。愛おしさがとまらん」


そう、亳杓も言う。


すると、そっとふたりはくちづけをかわす。


「…しかしだ、䍃璃、いつまでふたりのこの状況を秘密に出来るか…」


「そうね…。一つ、亳杓に言っておかないと…。わたし、告白されたの」


「なっ!なにぃぃぃぃぃいい!!!そいつは誰だ!!いますぐ○してやる!!」


「…そう言うと思った」


䍃璃はちょっと困った顔をして、さらに続ける。


「そして、もう一つ。亳杓へのラブレターも預かったの」


「むっ!大丈夫だ。まったく応える気はない」


「それはわかってるよ。そうじゃなくて、亳杓はちゃんとことわれる?」


「それはどういう…?」


「亳杓はおんなに対して、優しすぎるから」


そう。先に説明したが、亳杓はおとこ版オードリーヘップバーンだ。優しすぎる。䍃璃は、亳杓のそこだけがゆいいつ気に喰わない。


「じゃあ、またのやり方で頼む」


「また?亳杓ののは難しいんだよ?それに、これから先、手紙じゃなく、SNSや直接告白される場合も考えられるでしょう?そうしたら、どうするの?」


「…」


「亳杓とわたしが付き合ってるなんて…言えないしね」


「言えたら、楽だろうな」





『……』





「もう…これだから…ふたりにしないでほしい」




そう言うと、ふたりはまたくちづけをかわす。




「言えるように、別れてみるのはどう?」


「な!何をいいだすんだ!䍃璃!」


「だって、少しは鍛えないと、亳杓の優しさは抜けないから」


「しかし、鍛える…ってどうやるんだ?」


「おんなに言うの。すきなひとがいる、って」


「だれか、と聞かれたら?」


「言えない、と言うの」


「なんで?と問われたら?」


「兎に角付き合えない、と言うの」


「で…出来るかな…?」


「出来るようにならないと…」


䍃璃はげんなりして言った。


「䍃璃、そんなに幻滅しないでくれ」


「幻滅なんてしてないよ。逆に尊敬する。その優しさは…」


もう、けなしているんだか、褒めているんだか、よくわからないこのふたりの会話。これは日常茶飯事だ。と言うより、毎日だ。䍃璃は、物事をはっきり言うことのできるしっかり者だが、亳杓は、頭は良いが、優柔不断で、䍃璃からしてみると、なんともはがゆいところがある。


「亳杓、良い?わたしはあなたがすき。あなたも…」


「もちろんすきだ」


「良いから。わたしの話をきいて」


「あ、あぁ、すまない」


「あなたの優しさを、わたしは独り占めしたい。でも、あなたはすぐおんなに優しくする」


「そうかな」


「そうだよ」


「どこがだ」


「例えば、昨日…」






―昨日、委員会にて―


「亳杓くん、䍃璃様は、どうしてそんなに亳杓くんが嫌いなの?」


「うーん。おれが優しくないからだろう」


「そうなの?」


「あぁ…多分…」


「じゃあ、わたしに優しい亳杓くんは、わたしのことをどう思ってる?」


「どう…とは?」


「た…例えば…す…すき…とか…」


「すきか。そうだな…別にきらいじゃない」


「え!?」


と、そのおんなが悲鳴に似た声を上げそうになった時、


「…おい、そこのお前」


「お、おんな!」


「お前に用がある。こい」


「ふむ。わかった。すまない。いかねば…」


「あ…でも、なんで䍃璃様と…?」


幸田こうださん、ごめんなさい。クラス委員でどうしてもしなければならない仕事があるのです。このおとこを貸してください」


「あ…クラス委員…。じゃあ、仕方ないね…。ごめんね、䍃璃様」


「いいえ。大丈夫です。行くぞ。おとこ」


「なにを生意気な。おんなにいわれんでも行く」


(あぁ…やっぱり仲悪いな…)







―現在―


「…と言うことがあったでしょ」


「あぁ…でも、あれの何処がいけないのだ?」


「嫌いじゃない=すき。ととるおんなもいるの」


「なにぃ。そんなことをおもうおんながいるのか!初耳だ…。してやられた」


「あのねぇ…。わたしの普段の性格は作られたものだけど、亳杓は普段からそれなんだから、本当に厄介なの」


「…厄介…か…。じゃあ、あの場合どう答えればよかったのだ?」


「すきじゃない」


「別に嫌いではない」


「すきじゃない!」


「…嫌いでは…」


「すきではない!!と答えなきゃダメなの!!」


「そ…そう言うものか…?」


「そうよ」





『……』





「だから、どうか…ふたりにしないでほしい…」





また、ふたりはくちづけをかわす。

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