伯爵䍃璃と百合亳杓~実はわたしたち仲良いんです~
涼
第1話 孔明とヘップバーン
『伯爵䍃璃』と言う名のおんながいる。こいつは、おれの、“宿敵”だ。
『百合亳杓』と言う名のおとこがいる。あいつは、わたしの、“強敵”だ。
「おー!!ハクシャク様!!大変そうだな!手伝うか!?」
「いえ、結構です」
「おー!!ユリ!!なんだ、持ってやれよ!」
「このおんながおれに頼ると思うのか」
どちらも、あるおんなと、あるおとこの名前である。
リーダーのノートを持つのが、『伯爵』。
グラマーのノートを持つのが、『百合』。
「そんなに寄らないでくれる?」
「そっちこそ、もっとはしっこを歩いてくれ」
「あ、ユリ様!今日は部活来られそう?」
「あ、ハクシャク!お前、今日も漫画返してくれなかったな!叱ってやってくださいよ!ユリ様!」
どちらも、あるおんなと、あるおとこの名前である。
『部活』に所属しているのが、『䍃璃』。
『漫画』を返さなかったのが、『亳杓』。
「ふ…毎日毎日漫画ばかり…よくもつまらない時間の使い方ね」
「放って置け。それでも、先日の小テスト、1点、おれの方が勝っていた」
「…そうね。でも、期末テスト、あなたは3位。わたしは1位でしたよね」
「…。それを言うなら…」
と、おとこが言い返そうとした時、
「こらこら!!䍃璃!!亳杓!!喧嘩しない!!」
ふたりの唯一の共通の友人、
「「祥子…」」
「いきなり、後ろから声をかけるのは、やめてと言ってあるでしょう」
「おれはこのおんなと喧嘩していたわけではない。このおんなが、絡んでくるから仕方なくだな…」
「なにを。いきなり小テストのことをいいだしたのはあなたではないですか」
「それを言うなら、つまらない時間の使い方などと言ってきたのはおまえのほうだろう」
「事実をいったまでです」
「それなら、小テストだって、事実だ」
「だったら、期末テストも…」
「こらこら!それを辞めろって言ってるの!!」
「「…」」
これが、おんなと、おとこの名前だ。高校に入って、その強烈な名前が学校中に知れ渡った。
それは、名前だけではない。そのふたりの美貌風貌が2人を宣伝するよい材料となったのだ。
結ばれるしかない、とか、運命の相手だ、とか、ものすごくお似合いだ、とか…それはもう言われ放題だった。
と言う割には、ふたりのファンクラブが出来たり、それぞれ男女、密かに闘争心丸出しだった。
その騒ぎに、当のふたりは何とも言い難いライバル心を抱いた。
と言うのも、中学の時、ふたりはそれぞれ別の中学を首席で卒業し、全国でも名高いこの超進学高校の受験では、1位が、伯爵䍃璃、2位は百合亳杓、だったのだ。
んー…、呼びづらい。まぁ、がまんして。
䍃璃は、おんな版諸葛亮孔明。とでも言おうか…。兎に角博識で、清潔感にあふれ、幼い頃から、勉強は趣味の範疇だった。
亳杓は、おとこ版オードリーヘップバーン。とでも言おうか…。兎に角美しく、幼い頃から優しさにあふれ、勉強も出来た。
「䍃璃、亳杓、あんたたち、もっと仲良くできないの?」
「「無理を言わないで」」
「息が合ってるんだか…ないんだか…」
祥子は、げんなりとして顔を手で覆った。
「小賢しいおんなだ」
「生意気なおとこね」
本当に、誰から見ても何処から見ても、ふたりは犬猿の仲で、互いにライバル視し、高め合う…といえば聞こえがよいが、ただの蹴落としあいに過ぎない。祥子はそう思っている。
しかし、お気づきだろうか…?伯爵䍃璃の方に、必ず様がつけられていることに…。䍃璃は、話しかけられれば、一応、友達として返事はする。部活にも参加する。しかし、その目的は、内申のアップにのみ使われるものに過ぎない。
それでも、人が離れていかないのは、䍃璃の醸し出す、何とも言えないカリスマ性、とでも言えば良いのだろうか?
一方。亳杓は、部活に入っていないし、友達もいる。少ないは少ないが…。内申については、特に気にしていない。そこが、また䍃璃は気に食わない。
自分を皆、様をつけて呼ぶのに、亳杓だけはおんなと呼ぶ。実に、腹立たしい。そんな䍃璃の目的は、テストでトップになることでも、運動神経をさらにアップすることでも、教師たちに気に入られることでもない。
百合亳杓に、自分の名前を䍃璃様と呼ばせることだ。
「䍃璃?また、亳杓のこと考えてるの?」
「なぜです?祥子。考えてなどいません。憎らしく思っているのです。わたしを『おんな』などと呼ぶおとこは、この世に亳杓しかいないのです。許せるはずがないでしょう」
「…それを考えてるって言うのよ…」
「…そうなのですか?しかし、許せません」
「亳杓はねぇ䍃璃に遠慮してるのよ」
「遠慮?どこがですか?だって、あんなに私を小馬鹿にしてくる人間は、そうはいません。あれは、わたしを見下しているに違いありません」
「勉強では、確かに亳杓は䍃璃に負けたくない、と思っているんだろうけど、それ以外は、䍃璃の邪魔しないようにしているんじゃない?」
「そんなことありません」
つん…と、ユリは目を閉じた。
「まったく…」
しかし、祥子は…イヤ、この学校中、生徒も教師も、だれも知らない秘密が、2人にはあるのだった―――…。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます