第5話 第二王女も暗殺します!

 それからと言うもの、わたしはエミーリア・アネリルドという偽名でどこ世のどこにも存在しない身分を偽り、コルネリア様のお屋敷にしばし足を通うこととなりました。


 コルネリア様の私室の書架に目を向け、一番多い著者の名前をあげて「実はわたしもこの方の小説をよく読むのですよ」と言えば、コルネリア様は「それは奇遇ね!」と目を輝かせ、親密な関係になることにそうそう時間はかかりませんでした。


 オズヴァルド様からあらゆる分野の知識を詰め込まれ、帝王学から市井で流行りの恋愛小説までどのような話題でも話を広げるわたしにとって、コルネリア様と共通の趣味を用意することは容易いことでございました。


「なんだか少し眠くなってきましたわ……わっ!? 失礼しました」


 寝巻姿でベッドで並ぶように座り、コルネリア様の趣味である恋愛小説の話題で華を咲かせている最中、いつぞや社交界でそうしたように、うっかりを装ってコルネリア様にもたれかかりました。


「ふふふ、もう夜も遅いし、エミーリアはそろそろおねむの時間なのかしら……ってあら、エミーリア、あなた、私と触れてもなんともないの? 他人に触れられるのがトラウマだと聞いていたのだけれど?」


「自分でも驚いております。どうやらコルネリア様は、わたしにとって特別な存在なのかもしれません。コルネリア様がわたしを妹君のように接して下さると同時に、わたしもコルネリア様を姉のように感じるようになったのかも、しれませんわ」


「それは本当かしら? あなたにとって私が特別な存在になれたようで、とても嬉しいわ。それに、あなたのトラウマを払拭する一助になれたみたいだし」


「コルネリア様、もう少しこうして、あなたの体温を感じてもよろしいでしょうか? どうやらわたしは、人との触れ合いを恐れると同時に、同じくらい人の温もりに飢えていたようなのです」


「ふふ、勿論よ。ねぇ、エミーリア。もし嫌じゃないのなら、昔あなたの身になにが起きたのか教えてくれないかしら? あなたの力になりたいのよ」


 ――食いついた。彼女の方から、その話題を振ってきた。


 コルネリア様の胸に頭を預けながら、彼女に顔を見られないのを良いことに、ニヤリと笑みが零れます。


「実はわたし、かつて義理の姉に悪戯を受けておりまして、それがきっかけで、女性に対する苦手意識が植え付けられてしまったのです」


「悪戯?」


「ええ、その……聞くに堪えない、コルネリア様のお耳を汚しかねない話ではあるのですが、わたしの告白を聞いて下さいますか?」


「ええ、分かったわ。今まで誰にも言えずに苦しい思いをしていたのでしょう。どうか私に聞かせて頂戴。それだけできっと胸が軽くなるはずだから」


 こうしてわたしがする告白は、あまりにも大袈裟で、とてもお下劣極まりない官能的な創作話でした。

 義理の姉に性的な悪戯を受けて慰み者にされていたこと、当時まだ幼かったわたしは抵抗できずに、義姉の性欲の捌け口にされていたこと。


 まるで官能小説の読み聞かせのように、コルネリア様に話します。

 やはりというべきか、王族令嬢には刺激が強すぎたようで、コルネリア様は頬を染め目を反らすのですが、それでも続きが気になって仕方のないようで、ソワソワとしながらわたしの言葉に熱心に耳を傾けておりました。


 臨場感を出すため、コルネリア様の膝の上に手をおき、気付かれないようゆっくりと腰へと手を伸ばし、優しく撫でさすると、ぴくんと細い腰が跳ね、もじもじと内ももを擦り合わせているのが伺えました。


「――そうして義姉さまは、わたしの後ろに立ち、ゆっくりと乳房を撫でまわすのです。そう、こんな風に」


「っ!? あっ……エ、エミーリア……あっ……んっくぅ……」


 コルネリア様の鼓膜を撫でるように囁きかけ、絶妙な力加減で、豊かに実った果実を愛撫します。


 コルネリア様は漏れ出す嬌声を堪えるのに必死で、腰をくねくねと動かしながら流し込まれる快感を逃がそうとしています。もしくは、より強く感じようとしているのかもしれません。


 口では戸惑いの言葉を漏らすものも、決して拒絶の意を見せることはなく、引きずり出された欲情に溺れていらっしゃいます。


 そして、トドメの一言。


「コルネリア様……どうか浅ましいわたしをお許し下さい。もしコルネリア様がわたしと身体を重ねて下さるのであれば、きっとわたしは過去のトラウマを払拭できるかもしれませんわ。こんなことをお願い出来るのは、コルネリアお姉さましかいないのです。お姉さま、ああお姉さま……どうかわたしの愛を受け止めて下さいまし。わたしはずっとこの温もりを求めていたのです」


 耳元で囁きながら、耳たぶを甘くはむことも忘れない。


 房中術もまた、わたしが身に着けた技能の一つであり、こうなってしまえば温室育ちの御令嬢がどうこう出来る状態ではありません。


「分かったわ……どうかその欲望を私にぶつけて頂戴。全て受け止めてあげるから」


「ああ……ありがたき幸せですわお姉さま」


 ゆっくりとコルネリア様のお召し物を脱がし、同時にわたしも寝巻を脱ぎます。

 わたしが全ての衣類を脱ぎ、女にあるはずのない異物が己の下腹部に触れたとき、ようやっとコルネリア様は異変に気付かれました。


「ま、まって……これ、どういうこと……あなた……それ……どうして……なんで……男の子……なの……?」


「一度でも汚泥が注がれた杯は、いかに磨き直そうと、貴人の口に触れることはありません。さようなら、コルネリア様」



 数日後、王宮内にとある噂話が広がります。

 第一王女コルネリア様が、寝室に身分の知れない男を誘いこみ、王族の純潔を穢したという噂が。


 男女に求められる価値観とは面白いもので、男はより多くの女を孕ませることが良しとされ、女はただ一人の男の子供を孕むことを求められます。

 未婚の王子が数多の女と交わろうとも、遊びが過ぎると陰口が叩かれることがあっても王籍を剥奪されることはありませんが、それが王女であると、事実確認が取れ次第王位継承権を失うのです。


 こうして純潔を失ったコルネリア様は王宮を追放。

 ファルケン公爵家も没落します。

 残る王族はあと三人。



***



 やろうと思えば第一王子フランクリ様と同じように、第一王女コルネリア様を殺害することも可能でした。


 いかにわたしが女性と間違われる細腕とはいえ、暗殺術を身に着けたわたしが、愛欲に溺れ朦朧としているコルネリア様を素手で殺害することは難しくありません。

 ですがオズヴァルド様いわく、コルネリア様は生かしておくべきだと判断をされたのです。


 もしコルネリア様が暗殺されていたとなれば、その話は即座に王宮へと伝わってしまうことでしょう。

 さすれば他の王族は、六年前に第一王子が暗殺された危機感を思い出し、警備を強固にすることは想像に難くありません。


 故にコルネリア様はあくまで己の浅ましさが招いた自業自得で王位継承権を失って頂く必要があったのです。

 そうしてわたしはオズヴァルド様の命で、今度は第二王女であるナタリー・ヴォルフェン・ヴィゲンリヒト侯爵令嬢の暗殺を行いました。


 コルネリア様と違い、当時まだ王位継承権二位であったナタリー様のお屋敷に潜入して寝首を掻くことは難しくなく、かくしてフランクリ様、コルネリア様、ナタリー様が脱落し王位継承権を奪い合う戦いは佳境を迎えるのでした。


「ノア、次は私の番かもしれないわ。フランクリお兄さまも、ナタリーお姉さまも殺されて、コルネリアお姉さまも辺境へ飛ばされて二度と会えなくなってしまったわ。いつどこで、誰に殺されるか分からないわ」


「御心配には及びませんエリス様。必ずわたしが御守りします。この命に代えてでも」


 怯えるエリス様の背をさすり、震えが収まるまでエリス様を支え続けます。


 エリス様は知らなくてもいいことです。

 兄君と姉君を殺したのがわたしであることなんて。

 エリス様はただ笑って下さればいいのです。

 そのためにわたしはここにいるのですから。






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【あとがき】


宣伝&日常呟きTwitterアカウントにて、AIイラストに描いて貰った登場キャラのイメージを何枚か掲載しています。

今回はメイド服のノアを描いて貰いました。


URL↓


https://twitter.com/yKcwWDFkCQtlXbF/status/1637957049001840640?t=Vb8zVb0oK5e4_UIZDbFBew&s=09


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