魔石換金

 フォゼに連れられてきたのはちょっとオシャレな店だった。何でも、彼のオススメの店なのだとか。

 わたしたちはそこでファーロッタ__元の世界でいうパスタ__を食べた。カルボナーラみたいな、濃厚な味わいとベーコンが入ったファーロッタだ。

 すごく懐かしい味がした。……そういえば最後にパスタを食べたのって、いつだろう? わたしはパスタ、作らなかったしなあ……。それこそ、外食だったかもしれない。

 そんなことを思い出しながら、ペロリと完食する。

 値段は一皿二〇〇チャル。基準がわからないから安いのか高いのかもわからないけど、当然無一文のわたしはフォゼに奢ってもらった。手伝うなんて大口叩いておきながら、わたしはただのお荷物である。


「とりあえず、換金しに行くか」

 店を出てからフォゼが言ったのはその言葉だった。換金? 何を? あ、魔石か。お金がないと何もできないのは元の世界と同じなんだった。ファンタジーな世界だからうっかり忘れるとこだったよ。

「レサルに会う前にも溜め込んでたしな。それを売り払う。まあ、そうは言ってもワイバーンとか、そういう類の強い魔物のは高く売れるけど素材としての価値も高いから売らないけど」

 首を傾げるわたしに、フォゼは詳しく説明をしてくれる。なるほど、冒険者のお金はそういうところで稼ぐのか。てか、素材としても使えるって、調合でもできるのかな? 面白そう。

 大通りを突っ切ると、開けた場所に出た。この、大通りの交差点は中央広場らしい。わたしたちから見て左の大通りに曲がって進んでいくと、その店はあった。

「ここ?」

 これは確認だ。きらびやかな宝石がショーケースに並んでいるのがガラス越しに見える。あれは魔石だ。一属性のものが多いけど、たまに二属性のものもある。ここは魔石の売買をしているそうで、売られている魔石の値段はピンキリなのが見てとれた。その逆も然り、なのだろう。

「ちなみに、ワイバーンの魔石は売らないって言ってたけど売ったらどれくらいの値になるの?」

「大体三〇〇ルクか? ルクってのは、チャルの一〇〇〇倍だから、三〇〇〇〇〇チャルにあたるな」

 え、ファーロッタがニ〇〇チャルだったから……? 一五〇〇倍? うん、高い。それだけ質がいいってことなんだろうなぁ。そしてファーロッタが安いのがよくわかる。おいしくて安いとか、最強ですね。

 数の大きさはともかく、十進法で計算できるから楽ではあるね。三桁目までは単位も同じだし。そう、厄介なのは単位なのだ。どうやら、四桁ごとに単位が変わるらしい。一番小さい単位がよく使われている、チャル。次がルク。その次がクット。最後がトルーチャ。トルーチャが最高単位で、これ以上はさらに四桁を超えてもトルーチャのままだ。つまり、単位だけで四つあるのである。正直言って面倒くさい。

 って、そんなの今はどうでもいい。三〇〇ルクもする魔石持ってた魔物モンスターって簡単には倒せないよね?

「じゃあ、ワイバーンを二人だけで倒したってすごくない?」

「ああ、あの強さだと普通なら中規模戦闘スモールレイドは必須だったな。実際俺も隙を突いて逃げようと考えてたし」

 そう返しながらフォゼが扉を開く。ブワッと肌に魔力を感じて、身体がビクリとはねた。多数の魔石から放たれる魔力が強力なのだ。

「そうだ、魔石屋は魔力濃度が高いから魔力酔いする前に結界張っといたほうがいいぞ。慣れるまではキツイからな」

 この世界では一般常識なんだろう、店のご主人__白い髭のおじいちゃんだ__にバレないようにこそっと教えてくれたのはありがたいけど、店の外で言っといて?

「プロテクト」

 自分の魔力で身体を覆い、周りの魔力を遮断する。それだけでだいぶ楽になった。

「いらっしゃい、どういった御用件ですかねぇ」

「換金をお願いしたい。魔石は四、五〇個だ」

 答えながら、腰のカバンからザラ……と大きさも形も色もバラバラの魔石を取り出すフォゼ。目分量ではカバンに入り切るわけがない量の魔石が机に広がる。

 このカバンは四次元カトルディメンションバッグという、カバンの口より小さいものなら無限に入る旅の必需品らしい。彼は拡縮魔法の使い手だからお手軽サイズで動きやすく邪魔にならない、ウエストポーチ型にしたらしい。魔法って便利だねぇ。

 話がそれたけど、魔石は基本、小さいのが一〇〇チャルから三〇〇チャル、大きいのが五〇〇チャルから一ルクくらいらしい。あとは質。質さえよければ大きさに関係なくルク以上の単位の値段で買い取ってくれるそうだ。もちろん、そんなレベルの魔石は手に入れるのが困難だ。やっぱりワイバーン倒してるのすごいことなんだろうな……。

 換金が終わった。手元に入ってきたのは八ルク六〇〇チャル。そのうちの二ルクはわたしのお小遣いとしてもらった。

 とりあえず四次元カトルディメンションバッグが欲しいから、貯金することにする。それにフォゼは、懐に入れる薄いポーチ型のものがいいだろうとアドバイスしてくれた。それは五ルクするのだそうだ。ランウェールには屋台もいっぱいあるし、食べ歩きしたいけど……我慢我慢。欲しいもののためには我慢はつきものなのだ。わたしは我慢の大切さをよく知ってるし、耐えることには慣れてるもん。


「よし、じゃあ次行くか」

「ああ、情報屋に行くんだっけ?」

 すっかり忘れてた。一番の目的それじゃん。期待はしてないらしいけど。

「それもあるけど、宿を取っとかないといけないからな」

 夜になってから行っても満員だろうし、と続けるフォゼに納得する。そうか、繁盛してるってことは当たり前だけど人が多いってことだから……。早めに休むところを確保したほうがいいってことね。ゲーム内だったらそんなの関係なく泊まれるんだけど。

「いらっしゃいませ。何名様でしょう?」

「二人だ」

「かしこまりました。部屋はご一緒で大丈夫ですか?」

「ああ、問題ない」

 ……関係ないけど、こういうときって敬語使うのが普通じゃないの? わたしの常識が元の世界のままだからなの? 深く考えるときりがないか。特別な立場の人の関係者らしいしそのせいなんだろうね、きっと。

「前払いですので、四ルクのお支払いをお願いいたします」

 一人二ルクってことだよね。あれ? お小遣いなくなる?

 って思って、わたしが内心しょんぼりしている間にフォゼは支払いを終えていた。わたしの分も払ってくれたらしい。太っ腹である。ありがたいから黙って奢られていよう。

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