要塞都市
「これからどこに行くの? 世界を回るってことは、目的地があるんでしょ?」
左右に広がる草原。その間にある細い土の道を歩きながらフォゼに聞く。簡易な地図はもらったけど、そもそも
まあ、もちろん目的地を聞いたところでその場所もわかんないんだけどね。
「ここがアートラ地方だとは話しただろ? その首都にあたるランウェールって街を目指してる」
地球とは何もかも違うんだな、と痛感する。地図では南東に位置するアートラ地方。ケッペンの気候区分でいうと温帯になる気候だと思う。位置は地球でいえば、多分南極辺りだと思うんだけどね。
遠くにうっすらと大きな物陰が見えた。山かと思ったけど、こんなに四角なわけないよね……?
「見えてきたな」
あの四角いの、ランウェール!? え、壁ってこと? どんだけでかいの……。城壁? それにしても大きすぎる気がするけど。
「ランウェールは要塞都市だ。周りは壁で囲まれている」
うわ、窮屈そう。
「まあ、安全性は高い。冒険者たちが集う情報交換の場でもあるしな」
情報交換。目的はそれか。
それにしても、情報収集か……。この世界にはスマホなんてないんだから、人伝でしか情報なんて集められない。うっわ、不便。いや、違うか。地球が、日本が便利だっただけだわ。
「欲しい情報、あるんだ?」
「ああ。まともな情報が入手不可能なことだから期待はしてないが」
「そうなの?」
期待できないほどのことを知りたいなんて、なんでだろう?
「……そうだな、深くは言えないが……。俺には妹がいたんだ」
過去形の言い方に違和感を抱く。それって……。
「けど、妹は今、呪いを受けたから封印している。助けられる
まだ、生きてる。でも、このままだと……死んじゃうんだ。だからフォゼは思い詰めていたんだと気づく。瞳の奥の暗さは人の命の重みだったのだ、と。
「……そっか。ありがとう、話してくれて。わたし、全然関係ないのに」
「その代わりと言ってはなんだが、レサルも話してくれ。向こうの世界の話。暗くてもいいから、正確に。こっちに飛ぶってことは、向こうで絶対何かあったはずだ。精神が不安定だったから、何らかの要因でこちら側に来たはずだろう。原因を知っておきたい」
的確だった。
たしかにわたしは
「わかった。話すよ」
陰湿ないじめ。複雑な
互いの抱えていたことを、一部ではあれど共有したことで、わたしはフォゼに昨日までとはまた違う信頼感を抱いた。二人だけの、秘密。そんな感じがしてくすぐったい気持ちになったのだ。
心配なのは、彼がこれを自分のことのように抱え込むこと。フォゼは責任感が強く、それでいてそれを一人でどうにかしようとする節がある。妹の命も、自分がなんとかしなければと、他の人には頼れないのだと、そう言っていた。
どうしてなんだろう? 「なんでそんなに自分を追い込むの?」さすがにそこまで聞くほど無粋じゃない。
でも、それでも。わたしはフォゼを手伝いたい。わたしはフォゼに助けてもらってる。そのぶん、恩返しをしたいのだ。
「妹さん助けるの、手伝うよ。わたしは帰ることができればいいから」
まあ、それも遅すぎるのは嫌だけど。っていうか、親には心配かけたくないんだよね。もうかけちゃってるんだけど、現在進行形で。っていうか、逆に言えば親以外に未練なんてないんだよねぇ……。
「__いいのか? 厳しい旅になるぞ……?」
お、断られるかもと思ったけど、好きにしろスタンスかな? わたしのことを気遣ってくれてるみたいだけど、聞いたら気になっちゃったんだもん。どうせしばらく
「構わないよ。わたしも中途半端に知っちゃって気になってるし」
「そうか……。わかった。悪いな、巻き込むようなことになって」
んもぅ、気にしてほしくないのに。わたしは私の意思でこうしたいって思ったんだから。
「謝らないで。わたしが
もちろん、助けてはもらうんだけど。帰る方法知ってるの、わたしが知ってる中ではフォゼだけだもん。
「気にやむ、やまないじゃない。そうしないと落ち着かないんだよ……」
きっと元々責任感が強かったんだと思う。目の前で妹が呪いに倒れたことでそれが加速したんだろう。まだ会ってから日が浅いし、いつかもっとフォゼのことを知ってから詳しく聞きたいかな。
あれから一日。ここ数日で慣れてきた野宿をして、数時間歩いていくと、いよいよそれが姿を現した。__見えてたことにはだいぶ前から見えていたんだけどね。
「うわぁ、ここがランウェール!?」
高くそびえ立つ威圧的な壁。一面にたった一つの門の前には行列ができている。わたしたちはそこに並んで、入国手続きを行った。
「……っ!」
ようやく入った初めての街、要塞都市ランウェール。その街並みに、わたしは息を呑んだ。
真っ白で大きな建物がずらりと並んでいる。四面を壁で囲まれた限られた空間の中は、祭りでも感じたことのない熱気に包まれていた。門から入ってすぐのところはたくさんの店が出ていて賑わっている。その様は圧巻の一言で、田舎者のわたしには馴染みのない都会の雰囲気を醸し出していた。
「レサル、ぼんやりしてないで行くぞ。こんなに人が多いんだ、早くしないと昼食を食い損ねる」
それは困る。わたしは慌ててフォゼについていく。ご飯を食いっぱぐれるのは嫌だ。旅で食べる干し肉のスープが美味しくないわけじゃない。むしろ美味しい。だけど、最近はドロップした魔物の肉や木の実以外に食べてないのだ。そろそろ他のものを食べたいし、栄養が偏るのもどうかと思う。だからわたしは素直にフォゼに従ったのだった。
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