◇15 ストーカー行為
元婚約者の、俺に対する執着っぷりは呆れたものだった。この前は俺が呼ばれていたからいいものを、俺と接触した令嬢に接触してはいじめを働いたりしていた。
彼女は自分と同じ侯爵家の令嬢が参加していないお茶会を選び暴れているから、身分の低い彼女達は言い返せずただ耐えるだけしか出来なかった。
俺が注意したところで、彼女の耳には何も入っていかないみたいで。会話が全くかみ合わなかった。
俺が外出する時だって、ストーカーするわ待ち伏せして同じ馬車に乗ろうとするわで困っている。
この事を、父である侯爵は知っているのだろうか。
「辞めろと言ったはずですが」
「ダンテ! 私の為に出てきてくれたの? 嬉しいわ!」
「聞いてますか、やめろと言ったんです。この前ミレイ嬢のお茶会に無断で入って暴れたのでしょう」
「他の女の名前は聞きたくないわ。早くそっちから出てきてよ!」
屋敷の門の鉄格子越しで話をしているが、彼女とは話が通じないようだ。本当に困ったな。
この前だって、使用人に渡した手紙を奪おうとしてきたそうだ。ウチの騎士達によって取り押さえられたが、またあるかもしれないと思い使用人に騎士を付けた。案の定また来て取り押さえられたそう。
何とかして屋敷に入ろうとして外に出てきた使用人や仕入れの業者達を脅していたようだが、俺が読んでいた為未然に防げている。
以前は、全く興味がなかった為婚約者という事で屋敷に入れていたが、もうそうはいかない。何としてでも入りたいようだが、俺はもうアンタの婚約者じゃないし、新しい婚約者だっているだろう。
今までこんな事はダンテの記憶上なかった。だからここまでグレードアップするとは思いもしなかった。本当に異常者だな。危険だ。
「あのね、ダンテ。お金を貸してほしいの。少しでいいの、ねぇ、お願い」
「婚約者でも何でもない私がどうして令嬢にお金を貸すんですか。そんな筋合いはありませんよ」
「婚約者だったじゃない。それに、前みたいにセピアって呼んで? 令嬢だなんて、私寂しいわ」
「一度も呼んだことがないでしょう。他人になったのだから名前で呼ぶ理由はありません。貴方もどうぞブルフォード公爵とお呼びください」
「そんな照れ隠しはいらないわ、大丈夫よ、私は貴方の私に対する想いは受け取ってるわ。だから、素直になって?」
「……はぁぁ、もうどうしようもないですね」
「ねぇお願いダンテ」
「会話もままならないとはね」
頭までイカレたか、この女。
騎士団。そう呼び令嬢を押さえて馬車に乗せた。侯爵家の馬者に金貨を握らせた為そのまま発車してくれた。
どうせ、また明日も来るんだろうなぁ、はは。呆れたな。
第二皇子殿下の成人式がなければ領地に戻るのに、とも思ったけれどきっとあの女は領地まで付いてくる事だろう。あぁ、恐ろしい。女って時には本当に怖いな。いや、あの女が異常なだけか。俺のせい……ではない。うん。アイツが悪い。
お金がない、と言っていたからそろそろ静かになるだろうかと思っていたのだが、また乱入してきた。
「ダンテ!」
「困ります、ご令嬢」
「ちょっと! 退きなさい! アンタ執事でしょ! 私は侯爵令嬢よ!」
「私は、公爵様から命を受けています。公爵様から一任されていますので、令嬢の反抗は全て公爵様への侮辱とみなされますよ」
「なッ」
お茶会に参加しようと来てみれば、馬車で追跡され到着し降りれば近づいてくる。カーチェスや騎士達を連れてきて正解だったな。
「すみません、煩くなってしまいましたね。お詫び申し上げます」
「あ、いえいえ。こちらには何もありませんからお気になさらず」
「ありがとうございます、ですが今度きちんとお詫びしますね」
「ほ、本当ですか!」
「えぇ、何がよろしいですか? あぁ、この前私の事業である織物で他とは違ったものが出来上がったのです。原料であるクロールで違った毛並みのものを捕獲出来ましてね。その生地で皆様のドレスを仕立てるなんて如何です?」
「まぁ!」
「嬉しいですわ!」
これでもっと宣伝してくれば万々歳だ。
帰りは、もう令嬢の姿はいなかったから簡単に帰ることが出来た。さすが優秀な秘書だな。まぁ、次の日また屋敷に来たのは想定済みだが。ダンテがあんな態度を取っていたのが何となく分かった気がする。同情するよ、ドンマイ。
「悪いな、カーチェス。あのストーカー女、大変だったろ」
「いえ、仕事ですから」
「優秀でこちらも助かってるよ。だが、これ以上は目をつぶっていられないな。手紙を用意してくれ」
「畏まりました」
仕方なく、俺は侯爵に訴える事にした。乗り気はしなかったが。ちゃんと賠償金も請求して。だが、果たしていつ支払われるのかは分からないがな。
この屋敷に奴らを入れたくなかったので、仕方なくこちらが侯爵家に赴いた。向こう側は、証拠はないだとか何だとか言ってきたが、ちゃんと用意していたのでそれを突きつけると黙った。だが、次は怒鳴りつけて来た。
「お前が私の事業を台無しにしたからだろうッ!!」
「それは今関係ないのでは?」
「しらばっくれるなッ!! この若造がッ!!」
「その若造に負けたのは貴方でしょう」
「このッ!!」
胸ぐらを掴まれそうになったが、運動神経もいいダンテだったので普通に避けられた。殴られそうにもなったが勿論避けられた。
「また何かあったら、今度は皇室に訴えますからね。あぁ、貴族裁判を起こそうというのでしたら受けて立ちましょう。ですが……果たしてどちらが勝つでしょうね」
「ッ……詐欺だッ!!」
詐欺じゃない、それに今それは関係ない。俺はここに来たのはストーカー行為の件を話し合うために来た、こちらはいわば被害者だ。話をすり替えないでほしい。
だが、そんな事をしている余裕があるんだな。
笑いを堪えつつ、「では」とその場を後にしたのだ。
「ダンテ!」
俺が侯爵邸に来ていた事を知っていたのか俺の元にやってきた元婚約者、いや、ストーカー女。だから来たくなかったんだ。勘弁してくれよ。
その女は、俺の手を掴もうとしたが払った。俺に触るな。
「――俺は、許可なく触られるのは大嫌いだ」
「ッ……ご、ごめんね、ごめんねダンテ。もうしないから、触らないから安心して?」
そう言ってきたストーカー女を置いて速足で屋敷を後にした。ここにいるのは非常に気分が悪いからな。
ストーカー女は追いかけてきて俺の馬車に乗ろうとしていたが連れてきていた騎士達によって取り押さえられた。
皇室に訴えるぞ、そう一言残して家に帰った。
「……ダンテ様、少し休憩されては?」
「あ」
ビクビクするカーチェス。周りの者達も同じく顔を青ざめている。……俺か?
あぁ、イライラが顔にまで出てしまっていたのか。侯爵達に会ったからついな。
「悪いな」
「いえ、お気持ちは分かりますから……」
ダンテはそこまで怖かったか。後で鏡で確認してみよう。
「あ、あの、ダンテ様……」
「ん?」
お茶をどうぞ、とメイド達が出してくれた。あれ、これ紅茶じゃない。
「ハーブティー、です」
「リラックス効果があるそうで……」
おぉ、こんなに怖い俺に勇気を出して持ってきてくれたのか。俺なら御免だけどな。自分で言う事ではないが。
「ありがとう。君達も悪いな、迷惑をかけてしまって」
「そっそんな事ございませんっ!!」
「ダンテ様の為でしたらいくらでもっ!!」
凄い迫力で言ってきた。だから、つい笑ってしまった。そう、笑ってしまった。
もちろん、被害者となってしまったのはその二人のメイド達である。
……すまん。
回収されていくメイド達に、謝っておいた。
今日はああやって脅しを入れてきたが……それもいつまで持つかは分からない。
「だが、それももう少しの辛抱だな」
俺の手には、封筒。
さて、この中に入っているものとは。
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