◇11 令嬢の提案

 俺は、領地での用事を終えすぐに首都に戻ってきた。とある人物達を連れて、だ。


 その者達のおかげで、新しく立ち上げた事業を成功させることが出来た。その事業とは、装飾品製造業だ。


 領地内にいる領民の中に、装飾品を製作している職人がいる事を知っていた。だから領地に着いた次の日、直接彼らの方に出向いたのだ。


 彼らはとても腕の立つ職人達だから、きっと上手くやってくれるだろうと考えた。


 どうして数ある選択肢の中から装飾品を選んだのか、それはルアニスト侯爵が立ち上げたもう一つの事業が同じ装飾品だったからだ。


 これに目を付けた俺はレスリス公爵主催のパーティーに出席しエレス伯爵と接触し話を付けた。彼は、侯爵の事業で契約を結んだ相手だ。彼の持つ鉱山は希少性のある宝石が沢山採れる。


 だから、こう言った。



「ルアニスト侯爵より10倍の値段で取引させてくださいませんか?」


「えっ、じゅっ10倍ですか……!?」



 彼は戸惑いを見せ時間をくれと帰っていったが、数日後承諾をしてくれた。


 善は急げというから、その後すぐに俺は領地に戻ったのだ。


 提案をした後、どういう答えをくれるだろうかと待っていたが……



「わざわざ足を運んでくださったんだし、今までだって良い生活をさせてもらってます。他の領地の酷い話は耳に入ってきますから。だから俺らは領主様に感謝してるんですよ」


「それに、こんな素晴らしい鉱物を俺達に扱わせてもらえるなんて、腕が鳴りますな」



 なぁんて事を言ってくれて、雇う事が出来たのだ。ダンテのお陰だな、ここら辺は感謝しなきゃいけないな。変な噂は聞いた事があると思うんだが、それでも信頼してくれるとは思いもしなかった。


 結果は予想以上、爆上がりよ。周りの者達は本当に腰を抜かしていた。これくらい当然だ。



「今頃侯爵は、腸煮えくりかえっている頃かな?」



 そのお陰でルアニスト侯爵の収入は急激に下がっただろう。彼の事業はどれも潰れてしまったわけだから。まぁもし何か新しい事業を立ち上げたとしても、潰す予定ではある。これからどう動くかが楽しみだ。



「公爵様、お客様がご到着いたしました」


「分かった、すぐ行く」



 そう、今日は客が来る日だ。と言っても、俺が呼んだわけじゃない。向こうが手紙を送ってきて話がしたいと言ってきたから迎え入れた。


 さて、こんな不能男認定の俺に一体どんな話をしてくれるのかな。


 そう思いつつ、客間に急いだ。



「遅くなってしまい申し訳ありません」


「あ、いえ、こちらこそ、私の為にお時間を頂きありがとうございます」



 彼女は、オリージア・エレス嬢。エレス子爵家の一人娘だ。そんな子が俺に何の用だ? カーチェスによれば、付き人は連れてこなかったらしい。一体どういうつもりなのだろうか。


 さ、座ってください、と座らせ紅茶もメイドに入れさせた。


 それで、ご用件は? と聞いてみたが……え、何もじもじしてんの? 顔が真っ赤ですけど。一体何を言う気だ?



「……あのっ! 私、公爵様にご提案があってまいりました!」



 あぁ、送ってきた手紙にはそう書いてあった。俺にとっても悪くない話だ、ともね。



「私、実は……公爵様とルアニスト嬢が婚約破棄をされたパーティーに参加していたんです」



 あー、あれね。不能男認定をされた原因のパーティーね。黒歴史と言ってもいいくらいの出来事だ。



「でも私、そうは思っていません。きっと、それはルアニスト嬢に原因があったのではないでしょうか」



 ……ん? ちょっと待て、は?



「あんな事を言われてしまい、これからお相手を見つけるのは難しいと思います。でも、公爵家は由緒ある歴史の深いお家ですから、後継者は一番重要となってきますよね」



 ……んんんん???



「私なら、公爵様のお役に立てると思います!!」



 あー、なるほどなるほど、そういう事か。え、何とんでもない事言っちゃってるんですかご令嬢。自分が今何言ったか分かってます? 見たところ大体16、17くらいでしょ。そんな年頃のお嬢さんがこんな事言っていいの!?



「……とりあえず落ち着きましょうか、ご令嬢」


「あ……」



 さっきは勢いで喋ってしまったけれど、流石に恥ずかしい、と思ったのだろうか。顔を真っ赤に染めている。いや、このダンテのイケメンフェイスも原因の一つか。



「契約結婚をしたいと、そういう事ですか?」


「は、はいっ!」


「……」



 さて、困ったぞ。これ、どうしたらいいんだ? まぁでも、今は結婚だとか何だとかっては考える気はない。するとしてもそんなに急いでせずとも問題ないから、ゆっくり考えるはずだった。なのに、ここで問題発生か。



「……ご令嬢もご存じの通り、私の元婚約者は親の決めた方でした。そのまま、政略結婚という形になるはずでしたが、今は破棄されましたのでなくなったわけですが。

 それを体験して、思った事があります。人生において、結婚はもっとも重要な事なんだとね」


「え……?」


「貴族間での結婚は政略結婚が行われるのは普通の事です。ですが、それは気の合わない相手と一生を添い遂げる事にもなるという事です。もし離婚したとしても、女性の場合はあまり社交界ではいい目で見られません。ですから、結婚はもっと慎重に考えたほうがいいと思いますよ」


「……」


「私の事を考えて名乗り出てくれるくらい、とてもお優しい心の持ち主であるご令嬢でしたら、もっと素敵な、心の通える相手が見つかる事でしょう」



 とは言ってみたものの、ご令嬢は納得していない様子だ。これでも駄目ならどうしようか。



「あの……私、公爵様に……一目惚れしちゃったんです」



 おぉ、次は一目惚れですか。中々引きさがらないな。



「一目惚れは、一時の感情である可能性もあります。ですから、よく考えて相手を選びましょうね」



 カーチェス、と彼を呼び彼女を帰らせた。ふぅ、これでミッションクリアか。


 まさかこの不能男にこんな提案をしてくるご令嬢がいただなんて吃驚で声が出なかったよ。あ、それだけこのイケメンフェイスが最強だって事か? 使いようによっては危険だな、この顔。使いどころを考えて表情を出さなきゃだな。あとで鏡とにらめっこでもしよう。



 だがしかし、俺は知らなかった。


 このイケメンは、思った以上に恐ろしいものだったのだという事を。


 いや、恐ろしいのはこの異世界の女性達もだったという事も。


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