◇9 領地
まぁ旅の途中色々あったが……一応無事に、目的地に辿り着いた。
酒を飲まされたり、令嬢に夜這いされに来られたり。まぁ色々あったけど生きて辿り着けたんだ、良しとしよう。
「……デカいな」
「公爵様?」
「……いや、何でもない」
皇城ほどではないが、見た目ザ・お城な建物だ。勿論ダンテ本人は気に入ってなかったが。だからこの領地に帰ってくる事はなくずっと首都にいたのだ。
そのせいか、だいぶ久しぶりに領地を通ったこの目立ちすぎな馬車を領民達は目が飛び出しそうなくらい驚いた顔で見ていた。そこまで吃驚する事か? と思いつつ窓から顔は出さなかった。大変な事になるからな。
そして、俺が帰ってくると伝達していた為屋敷からお出迎えにやってきた使用人達。馬車から俺が出てきた瞬間、絶句した。おかえりなさいませ、という言葉が頭から飛び出てしまうくらい衝撃的なものだったらしい。
「久しぶりだな、元気だったか」
「……え、あ、はい、元気、でした……」
つい、その答えに笑ってしまった。50%スマイルを出してしまった。言わずもがな、殺人事件が起こってしまった。失神で倒れるメイド達が多数出てしまった。その子達は、近くにいた使用人達によって屋敷の中に運ばれて行った。申し訳ない。
「数週間しかいないが、よろしく頼むよ」
「はっはいっ!」
声を揃えて答えてはくれたが、そこまで気合いを入れなくてもいいと思うぞ。肩の力を抜いてくれ。
屋敷の中に入ると、まぁ予測はしていたが……お通夜だな。俺が憑依する前の首都の屋敷の通りだ。これは早急に取り替えねばならないな。後でカーチェスに指示をしておこう。
一応ダンテの記憶があるから、屋敷内の構造は知っている。だから迷子になる事は無いだろう。
俺がここに来たのは一応理由がある。だがそれのついでに領地の詳細を確認しておこう。
……と、思ってたんだけどさぁ。
「お茶、お淹れしましょうか?」
「あ、あぁよろしく」
「はいっ!」
なぁ、何で周りにメイド達が多いんだ? 端に立って待機しているようだが、こんなに要らないだろ、普通。
「ぬるくなっていませんか? 新しく淹れ直しましょうか?」
「いや、いい。折角淹れてくれたんだから勿体ない」
いや、そこキャ~! って盛り上がらないでくれないか。
なるほどな、俺を見に来たのか。視線が痛い。俺が視線を向けると明後日の方向に視線を持っていくのに、手元に戻すと視線を感じる。おいおい、分かりやすすぎだぞ。
それは、食事中も続いた。
「ワイン、お注ぎしますね」
「あぁ、ありがとう」
給仕の者も女性。顔が赤くなっているのはどうしてだ。あぁ、因みにワインは数日前に購入したワインだ。あの飲みやすかったやつ。
それに、壁に並ぶメイド達は一体何人いるんだ。食いづらいんだが。しかもこの食事。豪華だし、量も多いし。これを全部食べろと。ダンテは男だけどさすがにこの量は無理だぞ。腹が破裂する。
これはまさか、と思ったが予測的中。湯あみの際にもメイド達が集まって来て。最終的にはご退場となった。鼻血を出して。貧血にならないよう気を付けてな。
「も、申し訳ありません。ダンテ様のご帰宅に使用人達は浮足立っておりまして」
「いいさ、こんなに変わった主人を見て戸惑う事は分かっているからな」
「……私の方から言っておきます」
とりあえず、俺はすぐにでもここに来た目的を果たそう。早く取り掛からないと時間がかかってしまうからな。
「後で、領民のデータを持ってきてくれ」
「畏まりました」
さて、一体どういう反応を見せてくれるのかな。楽しみだ。
次の日、俺は外に出かける事になった。直接行くのですか? と使用人達には不思議がられた。まぁ気持ちは分かる、領民側を呼ぶか、使用人を行かせるか。それが貴族達にとっては普通だからだ。
「じゃあ行ってくるよ」
声を揃えていってらっしゃいませと言ってくれる使用人達の声を聞きながら、馬車に乗り込んだ。
領地内の様子は、うん、流石ちゃんと仕事をしていたダンテのお陰で治安も良さそうだし領民達も元気そうだ。道や橋などの交通面もきちんと整備されている。
店も充実しているし、働いている者達も楽しそうに商売をしている。
ダンテは本当に器用だな、カリスマ性ってやつか。見た目よし、やる事も軽々とやってのける。これで性格が良ければもう最高だったんだけどな。本当に勿体ないやつだな。
馬車が停まり、到着しましたよと声がかかった。さて、お仕事をしましょうか。開けられた馬車のドアを潜り降りたら……
……デジャヴ。俺の馬車を見て群がっていた領民達は、目が飛び出て顎が外れそうなくらいぽかんと口を開けていた。まぁ、気持ちは分かる。
でも、領民達はダンテの事を見た事がないと思う。なら、ウチの領主様がこんな人だったのかって思ってるのだろうな。
群がるな群がるな、と一緒に着いてきていた騎士達によって散らばらせて道を作ってくれた。だが当然元の場所に戻るわけではなく、視線がぐっさぐっさ刺さってくる。
俺が用のある場所は、この建物。ここはとある工房で、この中には職人達が汗水たらして作品を作っている。
「こんにちは」
俺の事を見た職人達は、まぁ先程の領民達と同じような反応を見せた。ちゃんと一緒に着いてきていたカーチェスによって自己紹介をしたら、またもや驚いた顔を見せてきた。
「何用ですかな」
「今日は、貴方方に提案があって来ました」
そして、カーチェスに
「え……」
「こ、れは……!!」
「職人の貴方方なら分かるでしょう。私が今から何を言うかも」
「えぇ、一体私達は何を作ればよろしいでしょうか」
「いえ、命令ではありません。これは契約ですよ」
「え……」
そう、これは契約だ。
これから俺の作る事業で一番必要なものとなる。
その後俺が言い出した事に、彼らは驚きを隠せずにいたのだ。
彼らの答えは、時間をください、だった。
「彼らは、承諾するでしょうか」
「あんな大物を置いてきたからな、職人のあの方々ならどういうものなのか俺達よりよく知っている。きっと承諾してくれるだろう」
後は、待つだけだ。
「……これは?」
帰ってきたら、執務室が花で華やかになってる。
「あの……ダンテ様が、お花が好きとお聞きして……」
おぉ、公爵様がダンテ様になってるぞ。何そんなに恥ずかしそうにしてるんだい君達。これ言ったの誰だ、カーチェスは一緒に来ていたから……首都から一緒に来ていた誰かに聞いたな?
「華やかになったな、ありがとう」
「本当ですか!」
「良かったぁ……」
「あ、あと、今日のお食事は、リクエストはありますでしょうか?」
「リクエスト……こってりしていない肉が良いな」
「分かりました! 料理長に伝えてきます!」
……まぁ、いっか。好意でやってくれたんだしな。沢山じゃないし。花が好きなのは本当だし。
今日の食事が楽しみだな。
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