◇8 領地へ
ブルフォード公爵領は、東側に位置している。とても広大で豊かな場所だ。
「あ”ぁ”ぁ”~~~」
「ダンテさ”ま”ぁ”ぁ”~~~!!」
そんな領地に向かう事になったのだが……メイド達に泣かれてしまっている。
おいおい勘弁してくれ、どんだけイケメン好きなんだよ。面食いか? まぁ女性はそういう人が多いともいうけどさ。
「すぐ戻ってくるから」
「でもっ、領地まで1週間ではありませんかっ!」
「2週間以上もダンテ様とお会いできないなんてぇぇぇ~!!」
「ほら、落ち着いて」
何とか宥めて、ちょっと遅れたが無事出発する事ができた。
大体首都から領地にある屋敷まで一週間。それだけ長い道のりでも、この最新鋭の乗り心地抜群な馬車ならそんな道のりはへでもない。初めての領地行きだったから心配事も多々あったが、これなら大丈夫だろう。
ブルフォード公爵領は、領地内の治安は良い方だ。そして生活水準も他の領地より高い。それだけダンテが仕事が出来る男だって事だ。その癖して他は何もしない性格最悪のクズ男なんだがな。実に勿体ないやつだ。
さて、今日から一週間移動しっぱなしとなるわけだが……毎夜毎夜どこかの貴族の邸宅に泊まらせてもらう事となる。と言っても、一回だけ野営となるが。
だから今回は、安全かつ安心して夜を越せそうな貴族の邸宅を何とか探し出したわけだ。俺は公爵ではあるが、こっちは泊めさせてもらう側。だから文句は言えない訳だし。
「お久しぶりですね、ご厚意感謝いたします。チレスト子爵、ご夫人」
「ようこそいらっしゃいました、ブルフォード公爵」
今日泊まらせてもらうのは、チレスト子爵の邸宅。夫婦揃って歓迎してくれた。そして……
「ほら、ご挨拶なさい」
「あ……お、はつに、おめに、かかり、ます」
あらら、可愛らしいお子さんですこと。恥ずかしがり屋なのか夫人のスカートから顔だけ出してる姿がとても可愛らしい。
目線の高さにまでしゃがんだ。子爵達は俺がしゃがんだことに驚きを隠せずどうかその様な事はなさらないでくださいと慌ててはいたが、大丈夫ですよと答え、令嬢にお名前を聞いてみた。
「……ミナです」
「はは、可愛らしいお名前ですね。おいくつですか?」
「お……」
ん? お?
「お……おうじさま……!」
おぉっと、王子様ですか。誰が? あ、俺か。すんごく目がキラキラしてるんだが。悪ーい大人の間違いだよ、お嬢ちゃん。顔で騙されちゃダメだからね。
申し訳ありません、とお二人は謝ってきたけれど大丈夫ですよ、と笑っておいた。あ、30%スマイルな。周りにはメイド達がいるからこれ以上パーセンテージを上げるときっと失神してぶっ倒れてしまう。それにミナ嬢には刺激が強すぎる。
すぐに、用意してくれていた部屋に案内された。こらっ、とミナ嬢を叱る夫人の声が聞こえたが聞かなかった事にした。
このイケメンは幼女をも魅了してしまうみたいだ。覚えておこう。
食事中も、俺の事をキラキラした目で見てきたミナ嬢。因みに5歳だそうだ。
「はくばにのってきたんですか?」
「白馬は屋敷にはいますが、今日は魔法の馬車で来たんですよ」
「ほんと!!」
「こらっ」
可愛い、本当に可愛い。子供は純粋だから本当にいいな。俺をギラギラした目で見るご令嬢達より断然な。この前もえらい目にあったから余計だ。
「これはこの領地で採れたブドウから作られたワインなんです。いかがですか?」
「とてもフルーティーで飲みやすいですね、お酒が苦手な方でも気軽に飲めそうだ」
「えぇ、そのお陰で女性の方に好まれています。最近はあのロゼワインが出たので人気は下がりましたがね。ですが、さすがメドアス伯爵だと思いましたよ」
「私も購入して飲んでみたのですが、あのロゼワインもとても良いワインでした。口当たりも良いですし、料理にもよく合う味です。ですが、これも悪くない。私は気に入りましたよ」
「そうですか! ありがとうございます、公爵」
「折角の機会ですから、こちらで何本か購入させてください」
「いえ、公爵様でしたら年代物をプレゼントいたしますよ」
「これだけ素晴らしいワインなんです、そのまま貰ってしまうのは心苦しいですから、きちんと代金を支払わせてください」
「はは、それだけ気に入ってくださるとは。恐縮です」
この話は本当だ。俺は今までワインってあんま飲まなかったから、こっちに来て食事中に出てきたワインを飲んだ時とてもワインの味が濃くて戸惑った。まぁダンテ自身がアルコールに強いという所があったので酔っぱらわなかったが。
だから、このワインはあまりワインを飲んでこなかった俺の口に合ったのかもしれない。
「それは?」
「これはお酒ですから、ミナ嬢にはまだ早いですよ」
あぁ、因みに言うとこの国での成人は17、お酒は20からだ。
ぶすっとしてしまったミナ嬢、同じものが飲めず不機嫌になってしまったようだ。
「どうしたら、おとなになれますか?」
「そうですね……素敵なレディになれるよう一生懸命お勉強をすれば大人になれますよ」
「ほんと!」
「はい」
可愛いなぁ、頬が緩みそうだ。だがしっかり持っていないと犠牲者が出るからな、ここを殺人現場にはしたくない。耐えねば。
次の日、ミナ嬢には泣かれたが何とか出発出来た。大人になったら迎えに来て下さいって言われちゃったけど。あ、約束はしてない。そこ大事。でもさ、一体どんな絵本を読んだんだ? こいつは絵本なんて読まずに育ったから知らないんだよな。
その後も、未婚者の令嬢がいない家を選び泊まらせてもらったのだが……最難関が一つ。そう、今回の旅では一ヵ所だけ見つけられなかったのだ。
今、令嬢は首都にいると聞きつけたからもしかしたら、と思ったのだが……
「ようこそいらっしゃいました!」
「お初にお目にかかります、ブルフォード公爵様」
「こちらは私達の娘です、ほら、挨拶なさい」
「お、お初にお目にかかります……!」
いた。まぁ、分かってはいたが。事前に連絡を入れていたからそうだろうなとは思っていたけれど。しかもその恰好、まさか今から舞踏会にでも行く気か? 着飾りすぎだろ。……とは言えなかった。
とっても素敵な方ねとキャッキャしてるご令嬢、とってもお似合いだわだとか何だとか言い出すご両親達。いや、気が早すぎるというより何より俺は何も言ってないんだが。
それから食事中も滅茶苦茶褒めまくられて。だいぶ居心地が悪かった。周りのメイド達にも視線をぐっさぐっさ刺されてたし。
「公爵様の事業、本当に素晴らしいものばかりですな。どうですか、この後飲みながら事業の話をするのは」
「いいですね」
「本当ですか! ありがとうございます。年代物のワインをご用意しましょう」
とりあえず、ここを抜け出したかった。
やっと夫人とご令嬢から離れられた俺は、伯爵と別室に移った。持ってきてくれたワインは、言っていた通りの年代物。おいおい、これ一体いくらしたんだ。そんなもの俺に出しちゃっていいのか?
「確か、伯爵は製薬業でしたか」
「えぇ、公爵様に知って頂けていたなんて光栄ですな」
製薬業界では、この伯爵ともう一人の侯爵家の二家で牛耳っている。この世界には、きちんと病院もあり、設備も整っている。
なら、高額で平民達がかかれないのでは? とも思ったけれどそうではなかったようだ。特に伯爵は平民に対する目の向け方は良い方だ。
その業界の中で、特許を持っているのが先程の二つの一族。特許とは、とある薬草を扱う為の特許だ。
〝ユメラタ草〟
これは、重病の患者によく使われる薬の原材料だ。
どうしてその薬草に特許が必要なのか、それは……この薬草は使い方によってはとんでもないものに変わってしまうからだ。もう一つの薬草と組み合わせると、違法薬物が出来上がってしまう。
この国ではそんなものは勿論禁止されている。だから、国は特許という制度を設けたという事だ。
その特許を一番最初に取得したのは、この方。この人は、この国で五本指に入るほどの腕を持つ医者なのだ。
そんな人だから、とりあえず親しくしていて損はない。
「ささ、どうぞどうぞ」
「ありがとうございます」
だいぶ酒を飲ませてくるが、まぁダンテは強いから問題ないけどさ。だが、ダンテは人前で酒は飲まなかった、だから伯爵は勿論ダンテの酒の飲める量を知らない訳だが……
でも、伯爵の話はとても勉強になる話ばかりだった。
来てよかった、とも思ったが……
まさかというか、何というか。まぁ予測できない事ではなかったが。
「用件は」
「公爵様にお会いしたくて」
「こんな時間に?」
「はい、その……」
おいおい、深夜だぞ。それなのにどうしてご令嬢がここに来てるんだよ。まぁ理由は大体分かったけどさ。何、夜這いしてこいって?
異常な酒の量を俺のグラスに注いできた伯爵の行動が、どういう事だったのかよく分かった。酔っぱらった所を狙えって事だったんだ。
でも、ちゃんと意識がはっきりしている俺を見てご令嬢は動揺している。そんなんで溺れるか。
さ、ご令嬢がうろつく時間ではありませんよ。と、突っ返した。部屋まで送るなんて事は絶対しないぞ。
「……はぁぁぁぁぁ」
とりあえず、ゆっくり寝させてくれ。
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