◇6 パーティー

 俺は今、パーティーとやらに参加している。どうしてか? それはと接触する為だ。



「ブルフォード公爵が参加してくれるとは思っても見なかったよ、ありがとう」


「こちらこそ、ご招待いただき光栄です、レスリス公爵」



 そう、高位貴族院議会で会ったレスリス公爵が主催のパーティーだ。初めてだったから色々と戸惑いはしたがまぁ何とかって所か。



「聞いたよ、ブルフォード公爵。最近事業を展開したんだって?」


「はい、少し興味がありましてね」


「いやぁ~クロールの毛で布を作るなんて誰も考えつかないよ。とても手触りが良いし、光沢もあって扱いやすいときた。家内もクロールの布でドレスを仕立てたのだが、もうお気に入りとなっているよ」


「レスリス夫人に気に入ってもらえるとは、光栄です」



 クロールとは、狼のような見た目の大型の動物である。ウチの領地を毎度毎度荒らしてくれる困った大型犬だ。その為、領地にいる騎士団が定期的に狩りをする。


 本当は、ダンテはクロールの毛が布となる事は気付いていた。だがこいつの性格を考えてみろ、勿論面倒臭いとそのままにしていたのだ。収入の金も必要ないとな。


 あのルアニスト侯爵家は、絹糸紡績ぼうせき業、絹糸を紡ぎ織物を作る産業を展開し今も人気を誇っている。だからこそこれを選んだ。


 そしてついこの前、洋装店と契約をした。この前ウチに呼んだこの国一の有名なところだ。


 そこはルアニスト侯爵も契約していたからわざとそこを選んだのだが、向こうからお声がけをしてくれたため契約はスムーズに行われたのだ。この前微笑んで店長達を堕としておいてよかったよ。


 今は社交界シーズン。だから貴族達は大量の服を購入する事だろう。さてどうなるかな? と思っていたが心配は要らなかったみたいだ。売り上げは右肩上がり、クロールの毛で作られたドレスの注文が殺到しているらしい。


 勿論、絹糸で作られた布は急激に売り上げが下がった事だろう。侯爵自身は、きっと腸煮えくりかえる思いだっただろうな。



「セレナ夫人が絶賛していたよ、とても素晴らしい生地だと」


「それは嬉しいですね」



 セレナ夫人とは、契約している洋装店の代表取締役の事だ。契約する際にも褒め倒されたが、まだ言ってるのか。しかもレスリス公爵の耳に入るという事は、きっとどこかのパーティーやらお茶会やらで言いふらしてるのか。まぁいい宣伝にはなるがな。



 だが、彼が目的ではない。俺が用があるのはここに参加している人物だ。


 さて、どこにいるのかな。そう思い周りを見渡していたけれど、コソコソ話が聞こえてきた。そう、あの話だ。俺の噂話。


 元婚約者が余計な事を言ってくれちゃったから、それが本当の事なのかと探っているようだ。


 でもさ、気持ちは分かるよ? でももうちょっと隠しませんか?


 まぁダンテはそういうの気にしない人だし、そういう人だって周りの皆知ってるし。けどさぁ、俺としては流石に居心地が悪いわけで。


 だぁら強硬手段に出た。くらえ、45%スマイル!



「あ……」


「えっ……」


「……」



 バタバタ倒れる夫人達、視線を逸らせず顔を真っ赤にしている男性陣。取り敢えず女性達を何とかしてやって。やったの俺だけど。よし、これで静かになったな。



「初めまして、エレス伯爵」


「あ、初めまして……」



 いきなり話しかけたから、俺が誰なのか分からないみたいだ。だから、ダンテ・ブルフォードと自己紹介をした。やはりリアクションは他の人達と一緒、目が飛び出しそうなくらい見開いていて数秒固まっていた。


 お変わりになられましたね、とは口が裂けても言えないだろう。公爵ならまだしも、それは失礼に値するからな。



「実は、伯爵と貴方と話をしたいと思っていましてね」


「話、ですか……?」


「えぇ、貴方にとっても悪くない話だと思います。すぐにでも話したい気持ちではあるのですが、生憎とここは人が多い。後日、お時間を頂けないでしょうか」


「そんな……光栄です。すぐにでもそちらにお伺いいたします」


「そうですか、ありがとうございます」



 よし、今日の俺の任務は終了だ。頃合いを見て帰ろう。


 そう思っていたのに、まぁ予想通りというか。


 俺に近づいてきた、ご令嬢とみられる女性3人。彼女達は頬を染めながら自己紹介をし始めた。


 だから、仕方なく俺も自己紹介をすると、まぁ言わずもがな。だが、あれ?



「わたくし達、こうして公爵様とお会いするのは今日が初めてなんです。こんなに素敵な方だとは思いませんでしたわ」


「服もとってもお似合いですし、背も高くてかっこいいですわ」


「きっと世の中の女性達が見逃しませんよ!」


「……レディ達にそこまで褒められてしまうとは、思ってもみませんでした。ありがとうございます。貴方方もとてもドレスがお似合いですよ」



 おいおい、俺は不能男認定をされた男だぞ。あ、まぁ自分で言うのもなんだが。だけど、それなのになんだ、キャ~って黄色い声出しちゃって。まぁこの美貌だから分からなくもないけどさ。でも、いいのか?



「わたくし達、これから別室でおしゃべりをしようと思っていたのです。よろしければ、公爵様も如何ですか?」


「公爵様のお話を聞きたいですわ」


「あっ、よろしければ、の話ですので……」



 いいのか、そんな誘いをしちゃって。何度も言うけど、俺不能男認定されたやつだぞ。


 てかそもそも、年頃の女性3人の中に俺1人。おいおい勘弁してくれよ。俺どうしたらいいんだよ。



「あらあら、こんな所でブルフォード公爵とお会いできるなんて思ってもみませんでしたわ」



 またまた登場、今度は……うげぇ、メドアス夫人じゃん。この人遠くから見た事あるけど、面倒臭い人なんだよなぁ。この人の噂は、興味なしなこいつですら耳に入ってくるくらいだ。こいつ、旦那がいるにもかかわらず気に入った男性を落としまくってるっていう噂だ。そう、不倫だ。


 初めまして、と挨拶をするといきなり近づいてきて。俺の腕に抱き着いてきた。完全に俺をロックオンしたなこいつ。おっきな胸むぎゅって押し付けやがって。俺はそんなの興味ないんだけど。全くタイプじゃないんだけど。俺のタイプは可愛い系なんだけど。



「とっても素敵な瞳ですわね、今まで隠れていたのが勿体ない位ですわ」


「……お褒めいただき光栄です」


「ねぇ公爵様? 私、もっと公爵様とお話したいですわ。勿論……」



 耳元で囁こうとしていた夫人を、反対側に移動して防いだ。というより、こいつは背が高いからな。耳はだいぶ高い位置にあるし。防ぐのは簡単な事だ。そんな誘惑、他の男共には効果的だったとしても、俺には効かないぞ。馬鹿にすんな。



「そういえば、貴方の旦那、メドアス伯爵殿は最近新しい商品を出したと聞いています。ロゼワイン、でしたよね。メドアス伯爵殿の作るワインは一流ですからね、つい私もロゼワインを購入してしまいましたよ、ははっ」



 遮って旦那の話を持ち出し、話してる最中にもう手は外しておいた。そのせいで夫人は不満気な顔だ。近くにいるとこいつの香水が香ってくる。この匂い俺は苦手だな。これ絶対服にまで付いただろ、最悪だ。



「ここにいらっしゃらないのが実に残念です。伯爵殿と話が出来るのではないかと期待をしていたのですがね」


「……」



 あー怒ってる怒ってる。放ったらかしにしている旦那の話を持ってきたんだからそうなるわな。それに、これは遠回しで旦那を放ったらかしにしてお前は何をしてるんだ、という意味。それは彼女にも十分伝わったようだ。


 ではこれで失礼、とこの戦場から離脱……するはずだったのに、今度はまた違う令嬢達がやって来て。あぁ、これは逃げられそうにないな。誰か助けてくれ、と心の中で叫んでいたが、誰も聞く事は無い。



「今度、わたくし達でお茶会を開こうと思っていますの。公爵様も一緒にいかがです?」


「私が行くとご迷惑が掛かってしまいますから、どうかお友達だけでお茶を楽しんでください」


「そんなことございませんわ!」


「そうです! 私、公爵様とお話したいです!」


「そんな、悪いですよ」




 とりあえず、何とか逃げきれた。


 イケメンは得だけど、大変でもある事が今日よーく分かったよ。


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