15:決勝戦 VS王竜水
『会場の皆様お待たせいたしました!舞台はついに整った!幾回もの試合を制し、勝ち上がり、ついに決勝戦へと足を進めたのはこの男たち!』
『剣に愛された類まれなる天才、優勝候補最強の男!王選手!』
『無名の状態から上へ上へと這い上がってきた狐面の侍!カミノ選手!』
『今、ついに戦いの火ぶたが切って落とされる!最強の名を手にするのは一体どちらだ!それでは…試合、開始!』
歓声が爆発すると同時に、王はその場から消えていた。そして低い位置からの切り上げに俺は即座に対応する。
「行くよ!」
王の声が上がり、時が加速する。首、手足、心臓。俺の意識の隙間を縫うような巧みな連撃に火花が散る。
俺はカウンターを放つが余裕を持って受け止められて、刃に滑らされて流された。即座に地面を蹴って身体を捻り後方へジャンプ。砕けた遺跡の破片を掴んで投擲し牽制する。
「ふー…」
着地し、俺は冷や汗をかいて息を吐き出していた。
「速い!良いね…楽しくなってきた!」
楽しそうに笑みを浮かべる。声に力が入り、王が岩盤を割りながら踏み込んできていた。
放たれたのは最速の二連撃だった。十字に斬り込まれる、剣以上の質量さえ感じさせる凄まじい剣圧。一回目は避けて二回目で吹き飛ばされた。十数m後方へ押し出されて、俺は何とか地面に足を付けて勢いを殺す。そして顔を上げた時には既に王の姿はなかった。
強化した刀が欠けていた。真正面から受けたらあっという間に武器を失うだろう。じんじんと衝撃が響く両手で刀を握り直して周囲を鋭く見渡す。
「っ!」
―――影。俺はその場から飛びのいた。
次の瞬間には轟音。風を切り裂く音が響く。地面に巨大な亀裂が生まれた。
「ラア!」
飛びずさり、すぐさま刀を翻して連撃を放つ。風刃と斬撃で逃げ場を無くす。既に見せた技はどうせしっかり対策されているだろうから、消耗が少ないものに限り使用は制限しない。
「後ろに目でもついてんのか…!」
だが、王はそれを全て避け切った。後ろから放たれた風刃もするりと避ける。
最後に圧を込めた一撃を放つと、王はシミターでそれを受け、その威力を利用して後ろに飛んだ。
そして、俺と王は奇しくも同時に地面を蹴って加速した。俺は全力で強化した足で、王は見た目素のままで、一歩、二歩で数十mを移動し、地面を踏み砕き、足場にした遺跡を破壊しながらぶつかる。
舞台のあちこちで火花が散り、衝撃が響き渡った。
地面を蹴り砕いて方向を制御、王に対してフェイントも交えた斬撃を繰り出す。刀がシミターとぶつかり、俺はあまりの威力に後ずさる。
これ、ステータスでは完全に負けてるな。当然だけど…!
王の追撃。それは突きだった。俺はそれを流れるように反らし、刀を翻させて反撃を放とうとする。次の瞬間、切り上げが放たれた。俺よりも後に動いた癖に初動が俺よりも早い。何とかそれに刀を合わせて、俺はその斬撃から身を守った。
後ろに飛ぶ。王のシミターは流れるように斬り下ろしに続いた。凄まじく速い一撃に、これも防ぐ。
「ハアアア!」
王の足元が爆ぜ、更に一撃。二撃。三撃目。刀を全力で強化し、受け流しを狙うが威力が高すぎて衝撃が突き抜けてくる。斬り払って後ろに下がり体勢を立て直し、もう一撃を今度は横に跳んで避ける。
一閃。それを読んでいたかのような王の一撃が見舞われ、俺は後ろに弾き飛ばされる。
足から魔素が噴出する。俺はそれを片手で押さえて刀を構え直した。
「今のも避けられるのか。ステータスに差がある中でここまで食い下がられるとはね…ちょっとプライドが傷ついたかな!」
「…それにしては楽しそうだな」
「そりゃ勿論…!さあ、次は大技だ!凌いで見せてよ、カミノ!」
王はそういうと、腰を落として刃を空に向ける独特な構えを取った。構えを取った…たったそれだけなのに、俺の生存本能がけたたましく警報を鳴らした。
すぐさま刀を下ろして居合の構えを取ろうとする。
(遅い…!)
間に合わない。俺は鞘に納めるのを諦めて咄嗟に【風刃】による加速を使用。すぐさま魔力を放出して、足の裏を地面に食い込ませた。
(使うしかないか…!)
俺は【強化】を走らせる。すると、これまでの強化とは比べ物にならない程の変化が俺の身体に生じる。全身に幾何学模様が浮かび上がったのだ。まるで回路のように脈動し、俺の身体能力が一気に引き上げられる。
「一の剣―――――【九頭竜断ち】」
「【一閃 平一文字】!」
高速の一太刀が斬り下ろされる。そしてそれに付随して八つの斬撃が同時に放たれる。合計九つ、まるで九体の竜の顎のような剣圧を放つ絶技に対し、俺は死に物狂いで叫んでいた。
そして、【一閃】と王の【九頭竜断ち】がぶつかり合い、衝撃に吹き飛ばされ、俺は弾丸と化して瓦礫と化していた遺跡に突っ込んでいた。
「…くそっ、やられた…」
わき腹の部分に大きな切れ込みを入れられ、そこから魔素が噴出している。片手で押さえながら瓦礫を退かして這い出る。
「凄いな。その技に、僕の剣技を破る程の威力は無いと思ってたけど…まさかまだ手を隠してたとはね」
「…ハア、ハア」
冷や汗を流す王に、俺は無言で笑みを浮かべて刀を構えた。
幾何学模様はすでに消えていた。
今のは俺の本当の奥の手。『ステータスそのものの強化』だ。
当然これも修行の合間に身に着けた。修行の一環で瞑想をさせられたりしたのだが、師匠には悪いが目をつぶっているだけなんてあまりにも暇だったので、頭の中で自分の手持ちのスキルで新しく何かできないかと考えていたのだ。
瞑想しつつ、師匠の目を盗んで服の下で強化のラインを走らせたりして色々遊んでいたら、ある時二の腕に付けられた謎の痣…今は神の字に塗りつぶされているが、そこに強化の線を伸ばすと、そこがまるで穴のようになっていて、中に魔力の線を入れられるようになっていることに気が付いた。
言葉にしてみると我ながら訳が分からないが、ようはその刺青は霊的な意味で、俺の中にあるどこかへと接続しているらしく、強化の線はそれを辿ることができたという事だ。
で、それを辿ってみると、最終的に俺の胸の辺りにまで届いた。俺はそこに何か巨大な力の塊が隠れていることに気が付いたのだ。
試しにその塊を強化してみた。そうすることで俺の身体に浮かび上がったのがあの謎の幾何学模様だったのだ。
師匠に見つかり怒られ、そして色々説明をしていく中で痣に関するものだとうっかり話してしまい軽率だと更に怒られ、協会にまで連れて行かれて検査までさせられたが、この現象が何なのかは最後まではっきりしなかった。
判明したのは、幾何学模様が出ている間は、俺のレベルが強制的に一つ上がるという事。
つまり、ステータスそのものの強化だったのだ。
鴻支部長は、『その幾何学模様は、恐らくステータスが可視化したものなのではないか』と推測していた。
更に言えば、それこそが件の『魂』なのではないか、という話まで出てきたが…それに関しては可能性は低いらしい。
むしろ、俺が見つけた塊は魂ではなく、『ステータスのコア』の様なものである可能性が高いという事と、古代の魔術であるとされている謎の痣を経由することでステータスのコアを発見できたということは、ステータスそのものが、魂に関連する一種の古代の魔術の一つなのかもしれない、という事だった。
まあ、そう簡単に魂が見つかるなら、古代の魔術はここまで正体不明にもなっていないだろう。
さて、そんな『ステータス強化』だが、まず魔力の消耗は【強化】がベースの為そこまで多くはない。ただしその効果量は【強化】のそれと比べると数倍以上という燃費の良さをしている。
問題は、連続で20秒以上使用するとステータスが一時的に完全に機能しなくなること。更に使う時間が長ければ長い程ステータスがその分一定時間弱体化していく。
余裕を見ても10秒も使えない。それがこの『ステータス強化』の大きな弱点だった。
さて、そういう訳で本当の奥の手はこれでおしまいだ。後は出揃ったカードで戦うしかない。
魔力も【一閃】を使ってしまってほぼからっけつだし、どうしたもんかな。
大会での報酬は複数用意されており、1位から順番に取っていく形式となっている。
王竜水がピンポイントで《ダンジョンの楔》を選ぶ可能性も無くも無いけど、事前に相談すれば話自体は聞いてくれそうだし、二位でも十分な結果だろう。
ならばここで満足できるかというと…それはない。むしろ勝つ気しかない。
ここからどう勝機を掴む?
「さて、消耗も激しいみたいだけど…逃げに徹すればHPはどんどん減っていくし、ちょっと攻めてみれば簡単に斬れそうだ。どっちに転んでも勝てそうだな。さて、君はここからどうする?」
「ふー…当然、勝つだけだ」
「いいねえ。勝ってみせてよ、カミノ!」
王が駆け出す。俺は刀を構えて、最速の一撃を繰り出す準備をする。
次の瞬間、痣が強く痛み出し、空気の色が変わった。
うちの畑にダンジョンができたので冒険者になってみる~気が付いたら見下してきていた冒険者を実力でぶち抜いたり美少女婚約者が出来たりしていた件 二章改訂前版 たうめりる @kakuu-yomuu
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