第8話 青年、配信の準備をする。
「ヒイヒイ……お……重い」
俺は、アパートに戻ると、みっちみちに食材が詰め込めれたエコバックを抱えて、ふらふらになりながら、2階にある自分の部屋のドアの鍵を開ける。
「ただいまー」
「ワン!」
「ワンワン!」
「ワンワンワン!」
ドアをあけると、ナナちゃんとハッちゃんとキューちゃんが、小さな尻尾をブンブンとふりながら駆け寄ってくる。
「ごめんごめん、寂しかったよな!」
「ブヒブヒブヒ♪」
「ブフブフブフ♪」
「ブホブホブホ♪」
3匹のケルベロスは、我れ先にと俺の顔を舐めにくる。
ああ、幸せだ。このままずっと舐められ続けて溶けてしまいたい……。
と、現実逃避をしている場合じゃない!
俺はスーパーで買った大量の食材を冷蔵庫にしまい込むと、家電量販店で購入した最新鋭のカメラの箱を開ける。
直径5センチくらいの球体のそのカメラは、電源を入れるとふわりと宙に浮かんだ。
さすが最新鋭。こんなに小さな本体に、反重力装置が組み込まれているのか……。
俺は、感心しながら説明書を読み込む。
ふむふむ、なるほど。顔認識モードで被写体の顔を登録しておけば、自動撮影をしてくれるって訳か。
俺はスマホとカメラを連動させると、スマホでカメラ用のアプリを開いて、顔認証モードを選択してから被写体を見た。
「ブヒブヒブヒ♪」
3匹の中で一番好奇心が旺盛なハッちゃんだけが頭を出して、ふわふわと浮いているカメラに鼻先をつけて、興味深そうに匂いを嗅いでいる。
「ハッちゃん、こっちむいて! 待て!」
俺は、右手を一本立てて、ハッちゃんの目をじっとみる。
するとハッちゃんはお利口にお座りをして、じっと俺のことをみつめてくれる。
俺は、そのスキにスマホでハッちゃんの撮影をして登録ボタンを押す。
<被写体を認識しました>
よし。このままキューちゃんとナナちゃんも撮影しよう。
俺はハッちゃんを抱っこして膝の上で仰向けに寝かせると、お腹をやさしくなでる。
すると、ハッちゃんは気持ちよさそうに目をとろんとさせて、
「フワァァァァ」
と、大きなあくびをしてしゅるしゅると顔をひっこめる。代わりに、右目に黒いぶちがあるナナちゃんが顔を出した。
俺は、膝の上からナナちゃんを下ろして、スマホで顔を撮影する。そうして、
「わあ!!」
と、大声を出した。
3匹の中で一番臆病なナナちゃんは、慌てて顔を引っ込めると、代わりに右目に両目にぶちがある、3匹の中で一番ののんびり屋のキューちゃんが、
「フワァァァァ」
と、顔を出した。
俺は、キューちゃんをスマホで撮影すると、最後に自分自身を撮影した。
このカメラの自動撮影モードは、自動撮影を行う被写体を選べる機能に加えて、映したくない対象の設定もできる。
俺みたいな何の変哲もない男の顔なんて誰も見たくないだろうからな。
「よし、これで準備は整った」
あとは撮影をはじめるだけだ。俺は、チャットアプリで、ロカちゃんにこれから撮影をすることを連絡すると、速攻で返信のスタンプが送られてきた。
まるまると太ったパグがOKとしゃべっているスタンプだ。
とりあえず、これで、視聴者0人ってことは無くなるはずだ。
俺は、ふうと息を吐くと、カメラの録画ボタンを押した。
配信スタートだ!!
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