第9話 青年とケルベロス、おおいにバズる。
俺は、ふうと息を吐くと、カメラの録画ボタンを押した。
配信スタートだ!
えーと、これから何をすればいいんだ??
まずは自己紹介かな?
俺はカチコチになりながら、カメラに向かって話し始める。
「えーと、は、はじめまして。き、今日から配信を、は、は、はじめます」
ダメだ、緊張でうまくしゃべれない。
「俺の名前は……えーっと」
しまった! そういえばハンドルネームを決めていない。ど、どうしよう。
大学の研究員募集の面接を、めためたに噛み倒して失敗した苦い過去が頭をよぎる。
俺がパニックになっていると「ピコン」とスマホが鳴った。
動画配信のコメント欄の書き込みだ。
『ケルベロスのお兄さん! リラックス! リラックス!』
ハンドルネーム『ラブロカ』て人からの書き込みだ。
これって、ロカちゃん……だよな?
ロカちゃん、本当にリアタイしてくれてるんだ。嬉しい!
俺は、ふうと息をはくと、ふわふわと浮いているカメラの匂いを嗅ぎ続けているハッちゃんを抱っこする。
カメラは、ハッちゃんに追従して移動して、ちょうど俺の首から下を映す構図でピタリと止まった。
「はじめまして、ケルベロスのお兄さんです。
このチャンネルは俺が飼っているケルベロスとの生活を配信します!」
『ケルベロス??』
『どこが?』
『どうみてもフレンチブルドッグの子犬じゃね?』
『まあ、かわいいけど』
コメント欄には、ある意味当然の書き込みが続く。
そりゃそうだ。だって今はハッちゃんしか目覚めていないんだもの。
挨拶をすませた俺は、随分と余裕が出てきた。
『んふ、みんな、そう思うでしょ? それがちがうんだなぁ♪』
ロカちゃんが、絶妙なタイミングでフリを入れてくれる。
「そう。一見、フレンチブルドッグに見えますよね。
今は、残りのふたつの頭は眠っている状態なんです。
今起きているのは、ハッサク。3匹の中で一番好奇心が旺盛な子です」
「ブヒブヒブヒ♪」
「ケルベロスは、3匹の頭が交互に目覚めて、24時間起き続ける幻獣なんです。
今から、残りの2匹にも、起きてもらうと思います」
俺は抱っこしていたハッちゃんを床に置くと、ハッちゃんの喉をやさしくなでなでする。すると、
「ファアアア」
「ファアアア」
ナナちゃんとキューちゃんが、大きなあくびをしながら起き出した。
『本当だ!!』
『本当に頭が生えてきた』
『あくびしているw』
『めちゃくちゃ可愛い!!』
掲示板は大盛り上がりだ。
俺は、3匹の自己紹介をする。
「最初から顔を出していた、頭が白いのが、ハッサクです。
3匹の中では一番好奇心旺盛で、一番起きている時間が長いです。
左目に黒いブチがあるのがナナサクで、3匹の中では一番臆病な性格です。
最後に、両目に黒いブチがあるのがキューサクで、一番マイペースです」
『可愛い!』
『すごい。全員に名前つけてるんだ』
『3匹で性格もちがうんだなー』
『可愛すぎて語彙力無くなる!』
『性別は、オスですか、メスですか?』
『どう考えてもオスだろ!』
『ハッサクとナナサクとキューサクだもんな』
『ケルベロスなのにずいぶんと和風なネーミングなんだなw』
3匹が起きてからというもの、掲示板の書き込みがものすごい。
俺は、気になった質問にこたえる。
「実は、メスなんです。子供のころに飼っていたフレンチブルドッグが『ハッサク』という名前だったので、そこからとりました」
『え? メスなんだ??』
『ブサカワな顔から勝手にオスだと思ってた』
『女の子につけるなまえじゃないww』
『ハッサクは、柑橘のハッサクからですか?』
『あ! 1匹あくびして顔を引っ込めた!!』
『あれは、両目ブチだからキューサクか』
『本当にマイペースだww』
「ハッサクの名前は、瀬戸内の実家がみかん農家なので、そこからとったんです。
普段は、ナナちゃん、ハッちゃん、キューちゃんって呼んでいます」
コメントが滝のように流れて行くなか、俺はただひたすらに返答を繰り返して、初回の配信はあっという間に終了した。
大盛況ってことでいいの……かな?
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