第6話 青年、美少女にケルベロスの配信者になることを勧められる。
「それじゃあ、マイクロチップを埋め込みましたから、手続きは完了です」
「ありがとうございました」
俺は、おじさんの獣医さんにペコリとお礼をする。
ずいぶんとあっけなく終わった診療にひょうし抜けをしていた。
「最近多いんですか、幻獣を飼う人って」
「うーん、2~3か月に一回くらいかな? でも、大抵はカーバンクルとかの小型の幻獣種ばかりだよ。飼育免許を取りやすいしね」
「やっぱりそうなんですね……」
「ケルベロスみたいな大型種はうちでもはじめて診察したよ。君、すごいね、大型種の飼育資格は、難関の国家資格だからね」
「大学で専攻していたんです」
「なるほど、じゃあ、このケルベロスも研究の一環で?」
「……まあ、そんなところです」
「ほう、若いのにたいしたもんだ。ケルベロスは食費が大変だろうけど頑張ってね」
「はい。それでは失礼します」
獣医さんの『食費が大変』と言う言葉が、ずしりと肩の上にのし掛かる。
早いところ、次の仕事を探さないと……。
俺は、一匹だけ頭を出しているハッちゃんを抱いて、診察室を出ると、会計までの待ち時間に待合室に腰掛ける。
すると、
「うぁあ! フレブルちゃん! カワイイ♪ あの、さわってもいいですか?」
プレブルと同じ、短頭種のパグを連れている女の子が話しかけてきた。
パールホワイトのさらさらな髪をサイドテールにして、髪色と同じ色のオーバーサイズのジャージに身を包んだ女の子だ。
ちょっと、いやかなりカワイイ。アイドルといっても差し支えないくらいの美少女だ。
「い、いいですよ。でもこの子、フレブルじゃなくって、ケルベロスなんです」
アイドル並みの美少女相手に、おもわず声がうわずってしまった。恥ずかしい……。
「ええええ! ケルベロス? あの幻獣の??」
少女は、俺の言葉に驚いたのか、おおきな瞳をぱちくりさせて、かわいらしい顔をぐいと近づけてくる。
「3匹の頭が、交互に眠っているんです。でも、こうやって首を触ると、気持ちが良くなって……ほら」
「ファアアア」
「ファアアア」
「うわああ……かんわゆいぃいい!」
少女は、目をキラキラさ輝かせる。
おおきなあくびをしながら頭を出したナナちゃんとキューちゃんに興奮の面持ちだ。
「あ、あの……だっこしてもいいですか??」
「はい」
「じゃあ、うちの『タラオ』をお願いします」
少女はパグのリードを俺にあずけると、ナナちゃん、ハッちゃん、キューちゃんのケルベロストリオをだっこする。
すると、3匹は興味津々といったかんじで少女のにおいを嗅ぎ、怒涛の勢いでぺろぺろとなめ始めた。
「はあああ! たまんない!! あぁ、夢みたい! ねぇ天国? ここって天国なのかしら?? 神様ありがとうございます!」
少女は3匹にされるがまま、恍惚の表情で顔をなめられまくっている。つぶらな瞳は潤んで今にも涙がごぼれ落ちそうだ。
?? そこまで感動するの??
少女は、今にもごぼれ落ちそうか涙をゴシゴシと拭いて、瞳を赤くはらしたまま、笑顔で問いかけてくる。
「あの、配信動画とかやってないんですか?」
「いえ? とくには」
「そんなぁ! だったら絶対やった方が良いですよ! アタシ、真っ先にフォローしちゃいます!」
「は、はぁ……」
「アタシ、
「は、はあ……」
「とりあえず、連絡先を交換しませんか? 配信のアドバイスとかもできると思うので」
「は、はあ……」
俺は、半ば強引に、自称JKダンジョン配信者の美少女と連絡先を交換させられると、マイクロチップ埋め込みの会計を済ませて動物病院をあとにした。
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