第3話 青年、ケルベロスとお風呂に入る。
俺は、ぱっと見、フレンチブルドッグにしか見えないケルベロスの子供をかかえて、1Kの木造アパートに入る。
「ただいまー」
一人暮らしの家に、俺のひとりごとが虚しくひびく。
「ブヒブヒブヒ……」
いや、今日からはひとりじゃない。ご機嫌で鼻を鳴らす相棒がいる。
ふたり暮らし……いや、こいつにはかくれた頭がふたつあるから4人暮らしってことになるのか?
とにかくだ。まずはお風呂に入ろう。ダンジョン整備の仕事で全身泥だけだし、それ以上に、ダンジョンを徘徊していたケルベロスはもっと泥だらけだ。
俺は服を脱ぎ去ると、お湯を張りながらケルベロスの身体を洗う。
「ブヒブヒブヒ♪」
「お、気持ちがいいのか?」
ケルベロスは、泡だらけになりながらご機嫌で鼻をならしている。
「そういえば名前をつけないとな……えっと、ハッサクでいいか?
子供のころ飼ってたフレンチブルドッグの名前なんだけど……」
「ブヒブヒブヒ♪」
「お、気に入ってくれたか!」
「ブヒブヒブヒ♪」
「じゃあ、お前はハッサクのハッちゃんだ!」
「ブヒブヒブヒ♪」
俺はご機嫌で鼻を鳴らすハッサクを洗う。背中を洗って、お腹を洗い、後ろを向かせたところで俺は、「あっ!」と俺は叫び声をあげた。
「お前、メスだったのか?」
「ブヒブヒブヒ♪」
「しまったな。ハッサクなんてうっかり男らしい名前をつけてしまった……」
「ブヒブヒブヒ♪」
「まあ、気に入っているみたいだし、まあいっか!
これからよろしくな、ハッちゃん!!」
「ブヒブヒブヒ♪」
ハッサクはご機嫌で鼻を鳴らしながら泡だらけの身体をブルブルとふるわせた。すると、泡だらけの頭がひょいっと引っ込み、泥だらけの頭がひょっこりと飛び出す。
「ブフブフブフ♪」
「あ、そっか、頭がみっつあったんだっけ?」
「ブフブフブフ♪」
「お前の名前も、ハッサク……ってわけにはいかないよな。
じゃあ、ナナサク、ナナちゃんでいいか?」
「ブフブフブフ♪」
俺はナナサクをゴシゴシと洗うと、泡だらけになったナナサクは、身体をブルブルとふるわせた。すると再び泥だらけな頭がヒョッコリと顔を出す。
「お前はキューサク、キューちゃんでいいか?」
「ブホブホブホ♪」
俺は、キューサクをゴシゴシ洗うとシャワーで泡を洗い流すと抱っこをして湯船に入った。
「はあ、あったまる……」
「ブホブホブホ♪」
「ブフブフブフ♪」
「ブヒブヒブヒ♪」
湯船に入ったケロベロスは、ご機嫌で3匹とも顔を出す。
なるほど、緊急事態だけじゃなく、ご機嫌な時も頭が出揃うんだな。
「ブホブホブホ♪」
「ブフブフブフ♪」
「ブヒブヒブヒ♪」
俺は、胸に抱いたナナちゃんとハッちゃんとキューちゃんの頭を、かわりばんこにヨシヨシと撫でながら、賑やかなバスタイムを楽しんだ。
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