第303話 武器屋(イース視点)



「イースさんはこっちに来ちゃって大丈夫だったの?」



フィデールに入って二手に別れた後、ノエルさんが私に聞いてきた。



「はい。フィデールは治安もいいほうですし、フィリア王女の傍にはシーマさんもシェリルさんもいるから問題ないと思います。何より…」


「何より?」


「シーマさん大好きな人達ばかりですからちょっと…」


「あぁ、そういうこと笑」


「分かります?」


「そりゃあね。でももう慣れたかな…。そのうち気にならなくなるわよ笑」



私はノエルさんの裏表のないサバサバした感じが好きだ。

きっと誰に対してもそうなんだと思うけど、私にとってそれは心地いい。



「これからどこに行くんですか?」


「武器屋だよ」


「あー、クリスさんの剣ですか?」


「うーん。それもあるけど…あとは内緒!!」


「…」



んっ?

まぁ、いいか。

武器屋か。

私の剣もだいぶ傷んできてるんだよね…。

買えはしないけど、一応見て置こうかな。



「おやっさん、久しぶりです!!」


「おぉー、クリスにノエル。久しぶりだな!! 今はフィデールにいるのか?」



武器屋に入るなり、クリスさんは店主らしき人に声をかけた。きっとココは馴染みの店なんだろう。



「今日着いたばかりです。早速ですけど何かいいモノ入ってます?」


「剣もあることにはあるが、ノエル向きの杖があるぞ!!」



そう言って店主は一旦引っ込んで、奥から1つの杖を持ってきた。

その辺のものとは明らかに違う質感と、取っ手部分に埋め込まれた魔石が、何とも言えない存在感を醸し出している。



「かっこいい…」



ノエルさんは杖を手にした途端、思わず口にしてしまったようだが、それには私も同感だ。きっとノエルさんに良く似合うと思う。



「これはな、杖を握ってると魔石が隠れるから、弱い魔法使いと勘違いさせることが出来るし、ノエルのような反則級の魔力量にも耐えられる。高くはなっちまうがなかなか見ない逸品だぞ。どうだ?」


「ノエルの反応も良いようだし買いますよ」


「えっ、大丈夫なの? 高いんでしょ?」



言葉とは裏腹に、ノエルさんの表情は隠しきれないほど明るくなっている。



「僕たちは今、結構稼いでいる最中だからね。何の問題もないよ」


「ありがとう、クリス」



ノエルさん嬉しそう。

いいモノが手に入って良かったね。



「おやっさん、剣も見せてもらっていいですか?」



やっぱりクリスさんも剣が欲しいのかな?



「おう。ちょっと待ってろ!!」



ん?

店主はまた奥から1本の剣を持ってきたけど、クリスさんが持つにはちょっと細めだ。でも、刀身の色が何か違う。

もしかして…。



「これは魔剣…ですか?」



クリスさんは剣を手にしてから店主に問いかけた。



「あぁそうだ。クリスは魔剣には興味ないって前に言ってだろ? 薦めるのはどうかと思ったんだが、クリス達には前に助けてもらった恩義があるからな。お前さん達に隠し事はしない」


「ずいぶん前のことじゃないですか。そんなに気にしなくてもいいのに…」



そうか。

クリスさん達と店主にはそういう繋がりがあったのか…。



「イースさんはどう思う?」


「えっ?」



何で私?

そりゃ剣は扱うけど、魔剣なんて分かんないよ…。



「イースさんの感想も聞かせて欲しいんだ」



やだー。

そんな眩しい笑顔で言わないでよ。




また胸が苦しくなるじゃないの…。







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