第271話 面影



「どこだったかな...」



無事にサザンベールに入った俺たちは、夕方近くということもあって、まずは宿を探すことにしたのだが、肝心のクラリスは古い記憶を辿って目当ての宿を探している。


ちなみに、クラリスはボブにカットして帽子を被せただけの状態だったが、街に入る際にもシェリルの見習いってことで押し通したこともあってか何とか衛兵にはバレずに済んだ。



「南風って宿を知ってますか?」



早くも自分で探すことを諦めたのか、クラリスは街の人に聞いている。

おいおい。そんなことしてバレたらどうすんだよ。

さっき衛兵にバレなかったことで自信を持っちゃったのかな...。



「あー、ロビンの宿ならこの先を右に行けばすぐだよ」


「ありがとうございます」



何とかクラリスってバレずに済んだみたいだな。

あれ?

何で俺がドキドキするんだ?

まぁいいか。



聞いた通りに「南風」はあった。



...のだが、

クラリスはすぐに入らない。

というか、この場合は入れないってほうが正しいんだろうな。


「ふぅー」


意を決したのか、ひとつ大きな深呼吸をしてから、クラリスが南風の扉を開いて中に入った。



「いらっしゃい...ん? もしかして、クラリスかい?」


「...はい! お久しぶりですロビンさん」



初老のおじさんが出迎えてくれたのだが、久しぶりの割にクラリスに気付くのが早いな。

しかも、心配してたような感じの反応じゃないな。

どういうことだ?



「面影があったからもしかしてと思ったけど、しばらく見ないうちに大きくなったもんだ。今じゃ聖女様なんだろ? あっ、今は違うのか!!」


「はい。いろいろあって聖女は交代しました」


「だが、聖女だったことに変わりはないさ。聖女が長いことこの宿に泊まってたっていうのが、この宿の自慢だったんだけどな笑」


「でも、私がここに泊まってた頃は、まだ聖女として駆け出しの頃でしたが...」


「それでも聖女が泊まってたことに間違いはない。それで十分だったんだよ笑」


「それで、あの...リンダさんはその...どうしてますか?」


「リンダはまだ病弱なままだよ...。元気な時は元気なんだけどな。今は寝てるよ」


「そう...なんですか…。その節は本当にすみませんでした。聖女とは名ばかりで何の役にも立てなくて...グスッ」


「おいおい、泣くなクラリス。お前のさんのせいじゃない」


「でも...グスッ」


「この時間に来たってことは、今日は泊まっていくんだろ? ゆっくりしていけ。そしてリンダにも顔出してやってくれ」


「はい...」


「何だか湿っぽくなっちゃったけど、お連れさんたちもとゆっくりしてってくれよな」


「はい。ありがとうございます」



何とも微妙になってしまった空気の中、俺たちに向けられたロビンさんの言葉に対して、俺はそう答えるのが精一杯だった。




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