第260話 提案
目を開けると現実に戻っていた。
クラリスは初めての経験なので、目をパチクリして確認している。
「シーマさんはいつもこうしてエルピス様にお会いしているんですね」
「不思議な感じがするでしょ?」
「えぇ。先程のことが夢みたいです」
「そのお茶を飲んでごらん?」
「何かあるんですか?…えっ、まだ熱い!!」
「エルピスのところに行ってる間は、こっちの時間が止まってるんだよ」
「さすが神の世界ですね…。また機会があったらご一緒させて下さい」
「あぁ、そうだね。クラリスもエルピスに言いたいことがいっぱいあるようだし」
「そりゃそうですよ。カラダを乗っ取られるんですよ? 何するか分からないだけに不安なんですから」
「あっ、それとさ、婚約の件は本気なの?」
「えぇ、もちろん。何か問題でも?」
何か問題でもって…。
問題しかないじゃん。
「聖女ともあろう者が、訳の分からない冒険者くずれと婚約となったら、お父さんやお母さんとかは反対するかもしれないし」
「私、生まれてすぐに教会に預けられちゃったみたいなので、両親のことは分からないんです…」
「そっか…。俺は1,2年前にスタンピードで両親を亡くしてる」
「それじゃ、私達似たもの同士ですね笑」
「そうだね笑」
そうは言っても、俺には最近まで両親がいた。それに比べてクラリスはずっといなかったんだ。その違いはとてつもなく大きいと思う。
腐らずに精進して聖女にまで登りつめたのは、彼女の努力の賜物なんだろう。
「オルティア王国は私を受け入れてくれるんでしょうか?」
「今回、クラリス救出でフィリア王女に同行してもらうあたって、ゼスト国王の許可を得ているんだ。クラリスをオルティアへ連れてくる可能性についても伝えてあるから問題ないよ」
「私のためにいろいろと手を尽くしてもらってありがとうございました…」
「クラリスはオルティアに来たら何かしたいことはあるの? オルティアの聖女として活動するのもアリだとは思うけど…」
実は、俺が本当に聞きたかったのはコレだ。
ある程度クラリスの意向を聞いておくだけでも、動き方は随分と変わるからだ。
「うーん…。しばらくの間ずっと聖女として生きてきたので、肩の荷物を降ろしてちょっと休みたいのが本音です。その後のことはまた改めて考えたい…かな」
「そっか、わかった。これは俺からの提案なんだけどさ、今すぐじゃなくていいし、ダメだったらそれでもいい」
「…何ですか?」
「そのエルピスを思わせるピンクの長い髪をバッサリ切って、聖女ではなく、クラリスとして生きてみないか?」
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