第239話 電光石火



『シーマー、聖女の杖が大きく動き出したよー。南の教会に行くみたいだねー』



シェリルと東の教会へ向かっている最中に、シータから伝えられた。


南か。

ちょうどいいな。


聖女の杖を奪った後で向かうグレイスはエルブライトの南側にあるため、クリスさん達と落ち合うのも南側の出入口なのだ。

かといって、あまり南側に近すぎてもエデナさんとフィリア王女の距離が近くなり、何かあったら大変なことになる。

出来るだけ急がないと...。



「シェリル、杖は南側に向けて動いた。あまり南に進まないうちにケリをつけたい。ここから隠密にして急ぐぞ!! 」


「わかった」


「シータ頼む、案内してくれ!! 出来れば1回後ろから姿を確認したい」


『おっけー。それじゃ、しばらく真っ直ぐ走ってー』



俺とシェリルは隠密スキルを使って、シータの指示通りに走り始めた。



『次を右に曲がって、そのまま進めば見えてくると思うよー』


「「!!」」



シータの言った通りだった。

さすがにエデナさんが1人で歩くわけがないと思ってたけど、7人とはな...。

でも、幸いにしてエデナさんらしき杖を持つ女性が先頭で歩いている。勝手知ったるエルブライトだからこそ多少の油断はあるんだろうな。

そこにつけ込んでやる。



「シェリル、あの集団だ。回り込んで横から当たりに行くぞ!!」


「わかった」



そして、俺らは回り込んだ小路で待機しながら、サーチでエデナさんらしき女性が来るのを待つ。

これから当たりに行くわけだが、いちゃもんをつけられた時に逃げきれるかが問題だな。

テレポで何とかするか...。



「いいか、シェリル。もう隠密は解いていいが、逃げる時にはまた使うかもしれない。いつでも使えるように心の準備をしておいてくれ。

それと、当たる時はなるべく杖に当たること。その後のことは俺がやるから気にしなくていいが、逃げる時はテレポを使うかもしれないから俺から離れないでくれ」


「わかった」


「悪いな、シェリル。こんなことやらせちゃって...」


「大丈夫だよ。シーマに会う前はもっと酷いことしてたからね...。こんなことくらい問題ないよ」


「そうか...。ん? そろそろだな。よし、シェリル、行くぞ!!」


「了解!!」



シェリルを先頭にして、俺たちはエデナさん達が来る地点へと走る。

少し大きな通りに出るやいなや、集団と上手く鉢合わせ出来た。




ダンッ



カランカラン...




シェリルが上手く杖に当たってくれたおかげで誰も倒れていない。だが、相当ビックリしているようだ。

そんな中、俺は冷静に杖へと向かい、拾うフリをして、集団から俺の背中で杖を見えなくしたところですり替える。



「すみません。ちょっと急いでたもので近道を走ってました。お怪我はないですか?」



俺はエデナさんらしき人に話しかけながら杖を渡す。



「大丈夫よ。走るなら大きな通りにしなさい」


「そうですね。急いでいるので失礼します」



俺たちは頭を下げてからその場を立ち去る。

本当なら走って逃げたいところだが、走るのを咎められても面倒だから歩いて逃げる。

どうやら付いてくる様子はないので、杖がすり替えられたことには気付いてないのだろう。

だが、油断は出来ない。



「シェリル、そこを右に曲がったら隠密使って走るぞ」



俺は小声でシェリルに伝える。

返事はないが、それでいい。

そして、右に入った瞬間に2人で走り出した。



「テレポ」



そして、前に誰もいないことを確認してから、シェリルの手を掴んでテレポを発動する。


これでだいぶ離れただろう。




シータ、この杖は本物だよな?


『もちろん本物だよ。緊張して喋れないみたいだけどね』


とりあえず本物ならそれでいいよ。


『シーマー、聖女の杖を奪ったのはいいけど、浮気したら許さないからねー』


何の心配してんだよ...。




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